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2016年7月山陽地方乗車記  作者: 笘篠せつな
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一日目から予想外

 2016年7月12日、22時を過ぎた横浜駅に降り立つ。22時24分発のサンライズ出雲・瀬戸号に乗り込み、翌日の早朝岡山まで乗るつもりだ。通勤ラッシュの合間を縫うかのようにサンライズ出雲・瀬戸号は定刻に横浜に到着、そしてすぐに発車。開放型のノビノビ座席に腰を下ろす。カーペットが敷かれており、通路を遮るものは一枚のカーテンしかない。個室が圧倒的に多いサンライズの中で唯一の開放された座席である。そのため寝台料金は不要で格安で乗車できる。岡山到着は翌朝6時27分。晩酌を早めに切り上げて就寝する。

 目が覚めると時刻は6時を過ぎていた。起きて車窓を見ると列車は丁度和気駅を通過していた。身支度を整え、下車の準備をしていたところ車内放送が入る。聞くと大雨の影響で15分ほど遅れているとのこと。確かに和気駅は岡山県にあるが、岡山駅まではまだ距離がある。岡山での乗り継ぎ時間は十分あるのでそこは心配していなかったが、スマートフォンからツイッターを見ると山陽地方に大雨警報が発令され、山口県内の山陽本線が運転を見合わせているとの情報が入った。この先目的地へ向かう路線が運転見合わせと知り、気が気ではなくなってきた。

 サンライズは遅れながらも岡山に到着。駅のコンビニで朝食を買い求め、新幹線のホームに向かい、7時05分発のひかり441号に乗り込む。列車は定刻に発車し、大雨の影響を受けることなく高速で進むが、福山に着くころには叩きつけるような激しい雨が降っていた。三原、広島と進んでも雨脚は衰えることがない。そして広島発車後、ついに運行情報アプリより岩徳線が運転見合わせの情報が入る。恐れていたことが起きてしまった。新岩国で降りて錦川鉄道錦川清流線に乗る予定だったのだが、錦川清流線の乗り入れ先の岩徳線が不通になってしまえば定時運行は絶望的だ。

 ひかり441号は8時17分定時に新岩国に到着した。列車から降りるとまだ雨が激しく降っている。改札を出て錦川清流線の清流新岩国駅への案内看板を頼りに新幹線の高架下を歩く。高架線が都合よく雨除けになっているので濡れることはなかった。清流新岩国駅は2013年まで御庄駅と名乗り、錦川清流線自体も元は国鉄岩日線であり、民営化後に錦川鉄道に移管された経緯を持つ。御庄駅と新岩国駅は300メートルほどの距離であるが、新幹線の接続を考慮されることがなく長い間同一駅とはならなかった。旧岩日線が赤字のため廃線対象になるので同一駅にすると廃線しにくくなるからあえてしなかったという説がある。

 新岩国駅からの連絡通路を進み終えて階段を上ると清流新岩国駅のホームにたどり着く。ホームには屋根があるが吹きさらしで、貨物列車で使用された車掌車の一部が置かれている。待合室に使用するために置かれたものなのだろうが、中に入ると案内のポスターが何種類か貼られているだけで椅子等は置かれていなかった。

 雨は相変わらず激しく降っている。列車が来る気配もない。すると屋根に設置されているスピーカーから岩国行きの列車が途中駅で運転を見合わせしているとの放送が入った。この列車が一旦清流新岩国駅を経由し、岩国を経て折り返す列車が本来乗るべき列車になるのだろうと予想した。運転再開の見込みが立たず、本数も少ない路線なので今後の予定に影響が出てきてしまう。残念だが錦川清流線の乗車は諦めることにしよう。見たところ駅周辺にはなにもなさそうなので新岩国駅に戻り、路線バスで岩国駅に向かった。

 バスに乗車している間も雨は激しく、途中錦帯橋を経由するがバスを降りたくなるような天候ではなかった。しかし終点岩国駅に到着したときには小雨程度に収まり、雨が上がる気配になってきた。まるまる時間が開いてしまったのでしばらく駅周辺を散策したのち、一度通り越した錦帯橋に向かうことにした。

 戦前走っていた路面電車を模したバスで錦帯橋に向かう。バスを降りると雨はほとんど上がっていた。往復分の通行料金を払い橋を渡る。先程までの豪雨のため川は増水し、ちょっと覗くと激しく流れる濁った水に恐怖を覚える。雨上がりの5連のアーチ橋を滑らないよう足元に注意し、ゆっくりと進む。向こう岸に着いてからは白蛇の館や神社を見学し、来た道を戻り再び橋を渡ってバスで岩国駅に戻った。

 岩国駅前で昼食を摂った後、山陽本線で新山口に進む。目的地はその先の宇部線を乗り継ぎ小野田線の本山支線の終着駅、長門本山駅である。本山支線は平日一日3往復のみの運行で、夕方はわずか一往復のみ運転する乗りつぶしの難易度が高い路線だ。13時32分発の普通列車に乗り込み岩国駅で購入したカップ酒を飲みつつ瀬戸内海の車窓を眺める。15時半過ぎに新山口に到着。ここから宇部線に乗り換えるのだが、午前中の大雨の影響でまだ運転を見合わせていた。乗る列車は16時25分発の宇部行き。雨は完全に上がっていたので、しばらくすれば運転再開になるだろうと思い、待つことにした。

 ところが、16時を過ぎても運転再開の情報が入ってこない。乗るべき列車の発車時間になってもそれは変わらず、焦り始める。そのまま17時が過ぎ、諦めて新幹線でこの日の宿泊先である広島に向かおうと考えた。新幹線の券売機の行列に並ぼうとしたその時、スマートフォンの運行情報アプリから宇部線運転再開の情報が入ってきた。すぐに在来線の改札口に移動すると、運行状況を案内しているホワイトボードに宇部線は徐行による運転再開と書き換えられていた。それと同時に宇部線の列車はすぐの発車となる旨の構内放送が流れ、急ぎ足でホームに向かい、列車に乗り込んだ。車内には数人の乗客しかおらず、列車はすぐに発車した。諦めかけていたところで運転再開とは運がよかった。この日乗車予定だった錦川清流線に乗れず、もう一つの目標である本山支線にも乗れなかったら何しにここまで来たのかわからない。発車時間は遅れたが、このままいけば宇部新川での小野田線の接続もしてくれるだろうと思い、座席に腰を下ろした。

 しかしここで異変に気付く。列車の速度が上がらない。そういえば徐行による運転再開という情報だったことを思い出す。安全確認のため時速25キロ以下で運転という牛歩のような速度で進んでいく。このままではいつ宇部新川に到着するかわからない。ふと車窓を見ると新山口から並走していた山陽本線下り列車がこちらを追い抜いて別れていく。あっちの列車に乗って宇部で乗り換えればよかったのではないかと思い、山陽本線で向かうルートを考慮しなかったことを後悔した。

 長門本山にたどり着くのはもう絶望的になった。もう途中で降りて広島に行きたいところなのだが、ダイヤが大幅に乱れているので、いつ新山口に戻る列車が来るのかわからない。こんな状態では下手に見知らぬ土地で途中下車したら帰ってこれなくなる可能性がある。時間はかかるが終点の宇部新川まで行ったほうが接続する列車があるかもしれないのでこのまま乗り続けることにする。車窓も途中山口宇部空港をかすめる以外は見どころもなさそうでため息が出る。

 新山口から宇部新川までおよそ50分で走行するところを列車は退屈になるほどノロノロ運転で走り、結局一時間半ほどかかって宇部新川に到着した。時刻は19時を過ぎ、降車客はそれぞれ改札口に向かい私もそうするが、一縷の望みをかけて駅係員に小野田線の運転状況を聞いた。するとこの後到着する列車が小野田行きとして折り返すということだった。しかしその先途中駅の雀田で乗り換えて長門本山に行く列車はあるかと尋ねると、「ちょっと分かりませんが…おそらくないと思います」との無情な返しだった。これで長門本山にたどり着くことは完全に絶たれた。

 前日から長い距離を移動してやってきたのに連続して未乗の路線を乗車することが果たせなかった徒労感は相当なものだ。ここから更に広島にいかなければならず、先程乗ってきた宇部線の列車が折り返して新山口に向かうとのことなので再び乗車。乗客はほとんどおらず、やはりノロノロ運転で私を運ぶ。日もとっぷりと暮れたので車窓も見ることができず、持ってきた雑誌を読んで乗車時間を潰した。

 やっとの思いで新山口に戻ったのは21時過ぎ。広島行の新幹線の時刻を確認し、駅にある居酒屋に入って一杯飲んでから移動。22時21分発のさくら458号に乗り込み、広島に着いたのは22時56分だった。


2日目に続く

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