魔王業はじまり
勇者を倒す、それも理不尽なまでに叩きのめすために魔王業をはじめた。
「ていうか、ほとんど何もできないんですけど
俺って今魔王なんでしょ
えぇ、どういうことよ~」
お供にとつけられたバスケットボール大の目玉に羽と手が生えたモンスターから受け取った行動リストLv1と書いてある紙を見て叫んだ。
「魔王様、失礼ながらあなたさまは現在魔王Lv1です。これはまだ自分で勝手に魔王と名乗っている、なんちゃって魔王クラスです。
世の中に恐怖を振りまいて魔王様としての名声を轟かせるのです。そうすれば自然と魔王レベルもあがり、できることも増えていくでしょう」
眼球しかないくせに、黒目のすぐ下に赤い口が開き、そこから声を発している。
(結構こわいっす)
ちなみに、玉座?なのか木のいす、魔王城(笑)という名の6畳くらいの一部屋だけの掘っ立て小屋、魔物を呼び出すための小さな魔方陣、自称アイちゃんというお供の目玉モンスター。
それと魔王ポイント100Pというのがおれの今のすべてだ
「まずはモンスター召喚か」
リストにある、魔王自由行動、ねる、さぼる、みる、モンスター召喚、じょうほうをみてつぶやいた。
魔方陣の前に立ち、目を閉じると頭の中にモンスター名が浮かんだ。
「いでよ、毒ねずみ」
魔法陣の中に60cmくらいの濃い紫色をした前歯の大きなねずみがあらわれた。
選べるモンスターの中で一番消費ポイントの多い、つまり強いと思われるモンスターだ。
「いでよ、毒ねずみ、いでよ、毒ねずみ」
続けて召喚をおこない、90Pを消費して3匹の毒ねずみを呼び出した。
「お前たちはハジマールの町付近に行き、町の外に出てきた人間を襲え。まだ我の戦力はすくない。そのため無理はするなよ。」
なんとなく魔王っぽく、威厳をこめて指示をだすと、かれらは魔方陣から消えてしまった。
そのまま指示した場所まで転移したのだ。
次は「みる」を試してみることにした。
玉座という名の木のいすに座りハジマールの町と念じると目の前に町の風景が浮かんだ。
それは勇者として見ていた光景より数段リアルに見える。
あちらでは一見普通に見えるが、人は一定の場所をうろうろするくらいで動かず、同じことしかしゃべらない。
それに比べて魔王としてみるこの世界の町の住人は生き生きと、現実のように動いている。
商店で買い物をおこない、家に帰る人、楽しそうに話し込んでいるおばちゃんたち、走り回っている子供たち、町の外へとでていく旅人風の男。
ん、んー
これはと思い、ねずみたちに指示をだした。今町をでた旅人を襲えと。
しばらくすると、アイちゃんから報告を受けた。
毒ネズミは旅人を襲い、毒とダメージを与えたものの、逃げられたそうだ。
そして50Pを手に入れたらしい。
アイちゃん曰く、別に倒す必要はなく恐怖を与えれば魔王として一定の評価が得られるとのことだ。
残り10Pとさっき手に入れた50Pの60Pを消費して耳羽ウサギ3羽を召喚し、これもハジマールの町付近へ送っておいた。
「次は自由行動だな」
魔方陣にむかい、ハジマールの町へ飛んで見た。
一瞬のうちにぼろ小屋から町まで100mくらいのところへ移動していた。
草むらを覗くと毒ねずみがみつかった。
おそらく先ほど召喚したモンスターだろう。
なんとなく自分の配下だと感じる。
大きな塀に囲まれた城下町、入り口の門には槍をかかえた門番が2人立っている。
そのまま町に入ろうとしたところ、目の前で槍を交差され止められてしまった。
「待てぇぃ、怪しいやつ。何者だ、この町へどういった用事できた。」
「いや、普通に旅人なんですけど」
「そんな服装で旅人なんていっても信じられるかー」
槍の柄でぼこぼこにされてしまった男は黒いマントで体をすっぽり覆っており、顔には仮面をつけていた。
「いててて」
変装魔法とかってあるのかな、それともどうにかして服を手に入れる必要があるのかな
なんて考えつつ今日のところは引き上げることにした。
魔王城(笑)に戻るとアイちゃんからの報告があった。
耳羽ウサギ1体が倒され、蘇生するかどうするかとのことだ。
蘇生は召喚時の半分のポイントでできるとのことだが、現在のところポイントがないため保留とした。
耳羽ウサギはあんまし強くなかったから、失敗したかなぁ。
アイちゃんに確認したところ、変装魔法はあるのだが魔王レベルがあがらないと使えないらしい。
耳羽ウサギには単体で行動するのではなく2羽でまとまって行動することと
倒した人間から着ているものや持っているものを奪ってくるよう指示をだした。
毒ネズミの方が強いけどそいつらが倒して奪ってきた服とかってちょっと嫌な気がするんだもん
ポイントもないし、なんかやることなくなった・・・
「魔王様、ポイントは人間どもに恐怖を与えることにより得られますが、魔物だけではなく魔王様が直接やってもポイントを得る事ができます。
定番として王女を攫うなんてのもありますよ?」
そうアイちゃんが教えてくれた。
よくよく聞くと恐怖だけではなく、負の感情をもたせればよいとのことらしい。
「とりあえず、でかけてくる。後は頼むぞ」
再度ハジマールの町へと向かった。
まぁ町の中へは入らないけどね。
「ふぅ、労働っていいね」
石を拾ってきては街道にばらまいた。
町を囲む壁に落書きをしてきた。「門番のバカ」と
配下の耳羽ウサギがいたので撫でてあげた。
野良のまるもがいたのでつついてみたら反撃をくらった。
ふわふわの白い毛玉がぶつかってきた。でも全然痛くなかった。
とまぁ、なんやかんやで働いてみた。たぶんだけど
魔王城に戻って確認してみると、街道に対する破壊行為として5P、町壁に対する破壊行為として5P、流言飛語5Pを手に入れていた。
戦闘に対して入手したポイントに比べると微々たる物だが、これはまぁこれでありかも。
毒ネズミが旅の商人を襲いダメージと恐怖を与えたことで80P、
耳羽ウサギも旅の商人を襲いダメージと恐怖を与えたことで40Pを入手していた。
そして魔王レベルは2にあがっていた。
「ぱらっぱぱーん。魔王はレベル2になった。HPが5あがった。MPが6あがった。攻撃力が2あがった。防御力が1あがった。賢さが3あがった。素早さが2あがった。魔王様おめでとうございます。」
アイちゃんがレベルアップの音を口ずさむとともに、ステータスアップを教えてくれた。
他にも魔法を覚えていたり、召喚できる魔物が増えていた。