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東方不老伝 ~呪いを解く物語~  作者: ゼノマル
月移住編
13/19

【呪い】が嗤う

本当、ちまちまですみません

では、ゆっくりと〜

ー呪いの妖怪が現れたー


そんな短い文が、全ての人々に聞こえるような大きな声で報告された


何の問題も無かった。寧ろ順調に進んでいた....



いや、進みすぎていた



そんな状況は、それだけの言葉によって覆される




「やべぇって!殺される!!早く逃げろ!」

「押さないでよ!早く乗らないと!」

「皆さん!!落ち着いて!」



都市の人々は大混乱に陥り、列も乱れ出す



「早く出発しろよ!!」

「なにやってるんだぁ!」



乗客は出発を急かし、表情も余裕のないものへと変わっていく




誰も彼もが、『呪いの妖怪』と、聞くだけで離れようと、逃げようとする


逃げるとはつまり、自分の命に関わること。

その妖怪はそれほど、危険すぎる妖怪



どんな強い男でも。どんなに度胸のある者も、必ず逃げてしまう。何故なら、子供の頃から《昔話》として、恐怖を植え付けられていたからである




「呪いのッッ!?そんなまさか....」


「何でこんなタイミングでッ」



綿月姉妹は身を震わす。冷静さ等最初から無かったかのように怯えきったようなそんな顔をしていた。



「うっ....ひぐっ...うェェ」


「お、落ち着いてください姫様」



急な騒ぎと明らかに雰囲気が変わったせいか、輝夜は不安を覚え、泣き始める。月の頭脳である永琳でさえ、輝夜を泣き止ませるのに必死だった



「グッ.....マイクだ!マイクを寄越せ!俺だ!」



そこに帰ってきたのは、蛍がいつも「クソ教官」と読んでいた、教官長だった。


教官長という肩書きは伊達ではない様で、既に小妖怪を片付けて先に帰ってきていたのだ。



しかし、帰ってから事態は一変した事を感じ取り、すぐさま全軍へ司令を送る為にマイクを片手に叫び始める



『聞こえるかッッッ!!!! いいかぁ!貴様らは良くやった!!だが、【呪いの妖怪】が出てきたとなったら完全に《負け戦》だァ!!全軍、直ちに転送装置を使って逃げろ!それだけを考えろぉ!』



その声は今も尚戦っている兵士達に届くいていく。教官長のこれまで焦った声は聞いたことがない。いつも遊び心のある者達だったが、今回だけは別、それほど危機的状況というのをすぐに理解する


しかし、殆どの者が転送装置を作動させようとしなかった。一人の兵士が無線で教官長に繋げる



【おう....ねがっ..... ガガッ 応答願います!教官長聞こえますか!?】


【陸軍隊の者か!今の放送が聞こえたか?早く転送装置で戻ってこい!直ぐに月へ行く!】




直ぐに返事が欲しかった。しかし、少しの間、返信は帰ってこなかった。疑問に思った教官長が、兵士の安否を確かめようとする



【応答せよ!応答せよ!大丈夫か!?】


【ガガッ.....だ....大丈夫です! 】



電波が悪かっただけかと、少し安心したのもつかの間。次の兵士の言葉は予想外のものだった



【すみませんが教官長!それは無理です!!】


【なんだと!?何故だッ!!今ならチャンスはあるはずだ!】



このチャンスを逃すのか?兵士の思考がわからない教官長は疑問をぶつけるしか無かった。



【違うんです.....



それもそうだ



妖怪の数が....手に負えないほどに増えたのです!】



チャンスはもう過ぎ去った後だったのだから



【馬鹿なッ!?】



信じられないと、そんな表情の教官長は視線を外の方へとやる。全てを見渡せるこの高さからの風景でそれは一目瞭然だった。



「なん....だ、この数は....? 一瞬にしてこれほどに増えたってのか...!?」



しかし教官長はうろたえ無かった。一度見失った逃げ道をもう一度開く方法を考える


そして再びマイクを持つ



『今からここにいる全軍で全力の援護を尽くす!少しのスキを見逃さずに確実に逃げて来いッッ!!』



そう言って教官長率いる軍は援護を始める




そんな誰もが逃げる事しか考えない状況で、

あの『二人』は、全力で前へ進んでいた







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー









無我夢中


まさに文字通り、我を忘れて夢中になって走る少年。蛍はそこにいた


人の手が届いていないこの大森林の中。迷いもせず北の方に走っていく。

そんな事をすれば枝や葉に触れてしまい、体中が切傷だらけになってしまう。


しかし、蛍はそんな痛みも気にせずどんどんと進んでいく。



「グッ....ハァッハァッ.....クッソォッッ!!」



かなりの距離、ましてや子供なら既に呼吸が苦しくなり、力尽きて倒れてしまうが、それをも超える程、今の蛍は後がない状況だった




(ぐっ....クソが....!!! 千....景...!!!)



しかし、蛍の履いていた草履はそれに耐えきれず、紐が切れてしまう



「チッ....!! いらっ....ねぇ!!」



使い物にならなくなった草履をそのまま脱ぎ捨て、また走り出す。裸足になったせいで、走る度に更に痛みが増す



「ッッ!!?痛っ!?」



瞬間、左足に激痛が走る

どうやら木の皮で思いっきり皮膚を抉ってしまった様だ。かなりの出血をしている


流石にその痛みには耐えきれず、バランスを崩し、頭から転倒してしまう



「ガハッ.....ハァハァハァ......痛っ.....」



頭を強く打ったのか、目が眩む

更に血も流れてくる



だが、流れるのは血だけではなく、目からも涙が溢れていた



(なんで.....泣いてんだよ.....なん....で...)




ポツリ、ポツリと雫が上から落ちてくる


次第にその量は増えていき、あっという間に雨天となった





あぁ、ひでぇ.....雨水が傷にしみる....いてぇ....





涙も...血も...止まんねぇ....







止まった事によって疲労が一気に襲ってくる。

動く事をやめたい。そう思った瞬間だった。


親友の千景の言葉が、戦場の前に出る直前の言葉が浮かんでくる








ーお互い、生きてるさー








そうだ 本当になんで泣いてんだ俺






未だ雨は容赦なく蛍の体力を奪っていく。

だが、それとは逆に少しずつ、彼はゆっくりと体を起こし始める





呪いがなんだ 昔話だからなんだ




アイツは言った。生きてるさって




「まだ間に合う。大丈夫」



自分に言い聞かせるように、同じ言葉を繰り返す



「俺が助ける、だから。その為に、走ってるんだァ!!」




蛍はまた意識を失ってもおかしくない状態の体を無理矢理動かし、走り出す。


















「もうやめろ小僧。抗うということは、苦を実感して死ぬという事だ」



大森林の中で、少しだけの光が指す場所。そこも雨のせいで雫が直に当たるだけの場所となっていた。


降っていく雫が下の血だまりに波紋を伝わらせる



そこに、呪いの妖怪と千景はいた。



「ハァ....ハァ....」


「人の子とは脆いものだ。それこそドロ人形の様に雨にあたっていると更に脆く見える.....」




(五人も....一瞬だった....何が起こったのかわからないくらいに、そんな一瞬で五人も死んだ)


「なのに....俺は、逃げたく....ねぇ!」



弱々しい拳が、妖怪の顔めがけて放たれる


が、それは届かず手前で、黒い『影』によって遮られた。



「学習能力のない小僧だ。諦めろ、という言葉ももしかすると理解出来ていないのかも知れぬな」


小バエを払うように、妖怪の意思と同様に影が千景を数メートル突き飛ばす



「うわっ!....ガハッ.......うぐ....」



「貴様には要はないが.....そうだな、一つ訪ねる。少し髪の長い小僧を知っているか?」




髪の長い....? 蛍の、事か....

他にこの都市の子供で髪長いやついないし.....



コイツ、蛍に何の用だッッ....!!!!



「ほう....その顔、知っている様だな」


「っ.....」



瞬間、空気が変わった

千景はそう実感した。そして思った

【興味を持たれる】だけで、こうも変わるのか


こんなに怖いのか....!



「何処だ」



刹那、不気味なあの目が目前に見えた途端、また視界が変わり曇空が映る


そして腹部の痛み。まるで肉を抉り取られたような、打撃とは思えない痛みが襲ってくる



「ガハッ.......グアァアアァァ.....」


「痛いか?人の子は痛みには慣れていない。吐かせる時は強引だが一番効果的だ」



そう言ってゆっくりと歩いてくる

そして前に立ち止まり、またあの黒い影が蠢く



「何を吐けばいいのかわかるな?」



ボギャア、と骨が砕かれるような音と確かな、焼けるような痛みがまた襲ってくる



「ッガァアァァァァァッッッ.....!!」



堪らず口から赤い血が流れる

口の中に鉄の味が広がっていく....生臭い、最悪な気分だ....!!



「おい、俺は『血を吐け』なんて言ってはいないぞ?」



これが、骨が折れるって感覚か....

ヤベェ、涙が....痛てぇ.....

もう、寝ていたい。このままずっと




千景は悟っていた。自分の死に場所はここだと。だから、覚悟が出来ていた






『死ぬ』覚悟ではなく、『動く』覚悟が








「蛍に.....何の、ようだ.....」




絞りカスのような弱々しい声。それに反応し、妖怪がこちらにゆっくりと振り向く


禍々しいとも言え、美しいとも言えるその姿。

そんな存在が何のようなのか知りたかった




「妖怪が人を狙う理由....決まっているだろう




それに、




《喰らう》為だ」




言ってやりたかった






せめてもの、子供の、反撃




「俺もアイツも....テメェには殺されねぇ」



「無理だ」




そんな否定の言葉と同時に影が動いたような気がした。そして、その次に認識できた事は



″両腕″の感覚が無い、ということだった




「ああああぁああぁああああぁあ!!!!!」



激痛なんて、そんなものじゃ収まらないような


無いのに痛い!意味がわからない!叫び声が止まらない。


そのまま膝を着いて地面でもがき苦しむ

酷い痛みだ....傷口を何かでグチュグチュと抉られている様な鈍い痛みがずっと続く



わかる。踏みとどまらないと殺される



「良い悲痛の声だ.....だから無理だと言っただろう。改めて言い直す事があるのなら聞いてやる」




でも、ここで踏みとどまっても死ぬ


こんな状態で抗っても蛍に何か残す事も出来ない。何も出来ない....なんて無意味なんだ。なんて悲しいんだ....



でもこんな大怪我もしてるのに、死ぬってわかってるのに、何故か安心する



何故か.....そんなの、わかりきっている


だから俺は泣きながら、笑った






「さっきと同じだ」




「残念だ」




















ーまた、逢えるからさー








【グシャア】























体が悲鳴を上げている。傷だらけで血を流し、裸足で足場も悪い。既に蛍の体力は限界だった


途中から止まった訳では無いがとにかく進みたい、その一心で歩きながらもその体を引きずっていた。



「ハァ......ハァ.....ハァ....」



視界に森の外が映る。蛍は必死に、木を支えにしてゆっくりと、希望、不安、願い、色々な感情が渦巻く中、その霞んだ視界に映った



それは





血だまりと雨の落下音が反響し、雑音だけが残る中、返り血がべっとりと付いた呪いの妖怪と、その前にある血の色に変わった千景が着ていた服。そして、子供の両腕が落ちているという



余りにも残酷な 現実(いま)だった








妖怪はゆっくりと、口を三日月に歪ませ口を開く







「来たか、同胞よ」








end

今回はこれで終わりです

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