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第4話

久し振りに読み返したら、何となく続きが書きたくなった。

文体の違いはまぁ仕方ないんじゃないかな(適当)

目の前に広がる滔々とした大河。

向こう岸に屯する醜き鬼達。

紅く染められた巨大な日本式の城と、その前に列を作る大量の亡者。

そして、周囲を飛び回る蒼白い火の玉。

明快に、冥界。

という訳で、私若竹佳代は、冥界へと飛ばされてしまいましたとさ。

めでたし、めでたし。

……このままでは、この物語だけでなく、わたしの人生も終了してしまいそうなのですが。


「そこの所、どうなのですか、リヒテンシュタインさん?」

「いきなりそう言われても、儂にはモノローグを読むという高等技術は使えないのじゃが……」

「あなたは馬鹿なのですね。そこはご都合主義でどうにかしやがる所でしょうに」

「儂に言われてもな……」


リヒテンシュタインさんはそう言ってしわしわに萎びた頰を掻きました。そんな事をすればただでさえボロボロな肌が更に酷い事になるでしょうに、全く。やっぱり馬鹿な人なのです。


「モノローグを読めないとは言ったが、流石に今酷い事を思われた事くらい分かるぞ?!」

「その程度の探知能力なのですか。三下ですね、ゴミが」

「何故そこまで言われねばならんのじゃ……。というか、お主は人のモノローグが読めるのか?」

「わたしは、神の視点を持っていますので」

「神の……視点?」

「主人公に不可能はないのですよ」

「最近流行りのチート主人公じゃの」

「その気になれば、この冥界だって3分で制圧出来るでしょう」

「どんな能力じゃ、それは……」

「作者に直接この先の展開を指図出来る程度の能力なのです」

「それは本当に反則(チート)じゃの?!」


ふふん、わたしは(しゅじんこう)なのですから。


「ところで、これ本当にわたしは現世に還れるのですよね?」

「心配しなくてよいぞ。儂が今迄術に失敗した事など……。二、三度しか無いからの」

「そのセリフで心配するなと言うのは無理がある気がするのですが、これはわたしの勘違いなのでしょうか……」

「何を言う、儂のこれまでの人生で二、三度じゃぞ?! 確率的に言えば、0.1^4にも満たないじゃろうに」

「4畳? あなたは随分と慎ましい生活をしているのですね」

「そういえば、お主は小学生じゃったの……」


何故か遠い目をするリヒテンシュタインさん。過ぎ去った過去の栄光にでも思いを馳せているのでしょうか。


「まぁ、こんな所で話続けるのも何じゃ。さっさとエンマ様の元に向かうぞ」

「おー、あのクソガリメガネですか」

「お主、それを本人の前で言うんじゃないぞ……」

「善処はします」

「あぁ、これはダメなやつじゃの……」

「まぁたとえ何があったとしても、作者を脅せば都合のいい展開が手に入りますし」

「お主の人生は楽しそうじゃの……」


リヒテンシュタインさんはまた遠い目をしました。過去の栄光とは、そこまで捨てがたいものなのでしょうか。

未だ小学生であるわたしには、理解出来ない話です。


「というか、何でエンマの元ではなく、こんな離れた所にテレポートしたのです? いちいち三途の川を渡るのも面倒でしょうに」

「だって、折角なら観光したいじゃろ?」

「観光」


冥界を、観光。


「お前は子供に何を見せやがろうとしてるですか」

「いや、流石にお主を地獄に連れてゆく気はないのじゃが……。儂もグロ耐性は無いしの」

「なら、一体何処にわたしを連れてゆくつもりなのですか」

「……遊園地とか」

「遊園地」


冥界に、遊園地。


「……何でここに遊園地などというものがありやがるですか」

「だって、鬼達にも娯楽は必要じゃろ。ただでさえ鬼達の雇用はかなりブラックじゃしの、そういった娯楽施設が無いと、やってられんじゃろ」

「鬼達も大変なのですね……」


最高に鬼畜なのは鬼達ではなく、エンマだったようです。


「でも大丈夫なのですか、鬼の遊園地とか。ジェットコースターがやたらと速かったりとか、お化け屋敷がやたらと気合が入っていたりとかしないのですか」

「いや、そこは大丈夫じゃ。なにせあの遊園地は鬼達のストレスを軽減するためのものじゃからの。かなりストレスフリーな設計になっておる。じゃから、そういったアトラクションよりも、やたらと可愛らしいキャラクターが園内を闊歩するショーなんかに力を入れておるようじゃの」

「どこのデ○ズニーランドなのですかそれは」


地獄に夢と希望の国とは、酷い皮肉なのです。


「まぁ、鬼達はあの容姿じゃからの。可愛いものを求めて止まないのじゃよ」

「ないものねだりというやつなのですね。何というか、ダメな自分に絶望して萌えに走るキモヲタみたいなのです」

「身も蓋もないの」

「ならば、わたしはその遊園地に行きたくなどないのですよ。わたしは可愛いものにはあまり興味がありませんので」

「10歳児が何を言う。お主の年頃なら、プ○キュアに夢中になっておるものだろう」

「わたしはプ○キュアよりもま○マギが好きなのです」

「夢が無いの……」

「家庭環境が特殊なものでして」

「……」


リヒテンシュタインさんは黙り込んだ。使えますね、このセリフ。


「……遊園地に行かぬならば、お主は何処に行きたいと言うのだ?」

「キャバクラとか」

「おい」

「キラキラのおねーさんたちにチヤホヤされたいのです……」

「お主は人生に疲れた中年男性か」

「失敬な。年頃の女の子ならば誰もが抱いている欲望なのですよ」

「何故お主はそんな荒唐無稽な事を自信満々に言い切れるのじゃ……。というか、たとえ此処にキャバクラがあった所で、どうせキャバ嬢は鬼しかおらぬぞ?」

「えっ」


わたし様、絶句の巻。


「て、天使様は……。天使様は何処にもおられぬのですか……」

「天国は基本的にこことは無干渉じゃからの。天国へと上る許可が出た亡者のみ自動的に天国に転送される事になっておる。じゃから、天使がここに出現する事は先ず無いの」

「……ちょっと作者に文句言って来るです」


わたしはウインドウを開き、フレンド一覧から渦原渦子の名前をタップして、出てきたメニューから通話を選択。数コールでガチャっと音がして、怠そうなハスキーボイスが何処からか聞こえてくる。


『……はい、宮村ですけど』

「……お前、いきなり本名バレしてるですよ」

『うぇっ?!』


そんな素っ頓狂な声の後、ドシンというくぐもった音。わたしは華麗に無視をした。


「……何か、何処からか見知らぬ声が聞こえて来るのじゃが」

「作者なのです」

「えっ」

「だから、作者なのです」

「……そうかの」

『おお、そこに居るのはリヒテンシュタインさんかい? ははっ、変わった名前だね』

「お主が設定したんじゃろうが!!」

『うん。だから、自画自賛? 面白い名前考えたよね僕っていう』

「……こんな訳の分からん小説を書くなんぞ一体どんな人物なんじゃろうと思っておったが、どうやら頭が相当にアレな人間らしいの」

『お褒めに預かり光栄だよ』

「褒めとらんわ!!」

「あーあー、それで作者。これまでの経過はちゃんと知ってるですね?」

『そりゃあ、僕が書いてるからね』

「なら、わたしが言いたい事も分かるですね? そう、この世界にエンジェルデリを作れと!」

「いつの間にやらR-18になっておる?!」

「や、折角ならもっと奮発してもいいだろうと思いましてね」

「8年早いわ」

「いいではないですか、ここは冥界なのですよ? 地上の法なんて関係ないのです!」

「うわぁ……」


リヒテンシュタインさんが本気で引いていた。


「やはり、蛙の子は蛙なんじゃの……」

「家庭環境が特殊なものでして」

「そのセリフを言えば全て許されると思うなよ、お主」

「わたしは悪くないのです!」


たとえ元々生まれ持った性質がどんなものであったにせよ、子供というのは育った環境から多大なる影響を受けるのですから。


『……あー、うん。君の言いたい事は分かったけどさ』


やがて、宮村さんは言いました。


『そんな事してたらストーリーが進まないじゃん』


何とも身勝手極まりない、その言い分を。


『……いや、身勝手極まりないとか、君にだけは言われたくないんだけど』

「知るかバカうどん」

『えっ?』

「リョナ界の天使さんなのです」

『あぁ、うん。何を言ってるのかは分からないけど、君に対してマトモな応対を望む方が無駄だという事はよく分かったよ』

「で、結局わたしに天使の性奴隷はくれやがるのですか?」

「また要求が悪化しておる?!」

「まぁ、乗り乗りかかった船ですので」

「アカン……。これ突っ込んだら講談社に訴えられるやつじゃ……」


リヒテンシュタインさんはそう言って頭を抱えました。やはり、冥界の空気は生身の人間には毒になるのかも知れません。

わたしはほら、半人半霊ですし。


「で、宮村さん?」

『無理っ、以上っ!』


ブチッ。

ツー、ツー、ツー……。


「……」

「……」

「……じゃあ、行くかの?」

「……そうですね」


わたしは大人しく、リヒテンシュタインさんの後をついて川の渡し場へと向かってゆきましたとさ。

めでたし、めでたし。

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