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6.コネとカネ

 フミヤの別宅のインターフォンが鳴り響く。けたたましく、何度も、何度も。


「あぁ……? 誰だこんな時間に……! 馬鹿か!」


 連日の転出会議のため、疲れて熟睡していたところを朝早くに起こされたフミヤは怒った。辺りはまだ今から明るくなろうとしているところだ。しかし、インターフォンが止まることはない。死ねばいいのに。


「文字通り雷落としてやろうか? あぁん?」


 怒りつつも根は常識人であるフミヤはパジャマ姿ながら軽く身支度を整えて突然の訪問者を追い出そうと荒々しく扉を開き……目の前の高級士官服を着た美女を前に絶句した。


「……ぉ、ぇ? ぃゃお、おはようございます……見苦しい姿で申し訳ないです……?」

「ふっふーん! わざわざ来てあげたわよ! さぁ早くドアを開けなさい!」


 言われるがままに扉を開くフミヤ。すぐに人目につくような場所に見られて困るようなものは置いていないはずだ。それは兎も角、状況を理解することが出来ずにフミヤは身支度をする時間を貰って即座に兄であるロッシュに連絡を取った。


『……何だ?』

「ナタリア様が! 何でか知らないけど! 第4王女殿下が何で俺の家に⁉ 兄貴何を謀ったか!」

『落ち着け、何を言っているのか……何ぃっ⁉ 何でお前の家に王女殿下が⁉』


 互いにパニックになるこの状況。そう、フミヤの家にやってきた彼女はこの国が誇る200年の歴史を持つ王国の王女で王国軍第3部隊統帥司令官、キングスエン・パル・ナタリア第4王女殿下だったのだ。





「……あのー、ナタリア様。本日はどのようなご用件で……」

「うん? 有力貴族の名簿から外されてしまった友人の顔を見に来た。大丈夫かな?」


 身支度を整え、ウエノ家当主となった兄を呼んだがナタリアに追い返され、二人きりになったフミヤは恐る恐るソファで寛いでいる王女様に声をかける。どうやら誰にも見つかりたくなかったがために早朝からフミヤの家にやって来たらしい。ロッシュ兄を呼んだら怒られた。


「大丈夫かどうかは、不明ですが……」

「ふーん。ところで君が畏まると私が寛げないから止めてほしいかな。わざわざ王女としてではなくここに来るために側近たちを撒いて来たんだからさぁ……」


 ソファの背もたれに体重を預けて伸びをする彼女。そうすると胸が強調されて視線が一時的ながら集められてしまう。紳士の嗜みとしてフミヤは即座に別の場所に視線を変えるが彼女は気付いて気付かなかったことにしてあげている。


「ふー……君の家ほど安全で気楽な場所はないからねぇ~……あー怠。王族だるっ。騎士団長も怠い……側近うるさいんだよねぇ最近……」

「そうかい……」

「うん。君がメディシスのところ免職クビになったって聞いてから幾度脱走を試みたことか……はぁ。ようやく成功したよ。久し振りの休暇だぁ……」


 ぐでんぐでんになるナタリア。恐らく、ロッシュから王宮へ問い合わせが行っているだろうからその休暇は大して長くはなさそうだ。尤も、王国の足ではここに来るのにどれだけ急いでも1日はかかるが。


「にしても、久し振りに見たけど君は変わってないねぇ……若作りの秘訣は?」

「……遺伝。」

「元も子もない! あーウザっ! 乙女の敵め!」

「乙女……? いや、それはいいとしてだ。休暇は分かったけど何しに来たんだ……?」


 乙女に疑問を持ち、友人感覚と言うことでためらいなく口にしてからフミヤが尋ねると彼女は上体だけ起こして彼に告げる。


「そうそう。没落してる君の家なんだけどさぁ、私が面倒看ようか? お代は君ね。」

「……は?」


 絶句。彼女がここに来た時でも何とか取り繕ったフミヤだが、これには対応できずに正しく絶句した。フミヤを驚かせることに成功したナタリアは悪戯っぽく笑う。


「んっふっふ~……さて、政務のお時間だよ? 私が王国騎士団の団長を務めていることは君も知ってるだろう? で、その実力の程も分かっているはずさ。」

「ま、まぁ……」

「その私が見たところ……今代の勇者、ミヤケさんは君より弱い。」


 そんなわけないだろう。何せ、勇者と言うモノはただの称号ではない。それは勇者の末裔であるウエノ家の人間であるフミヤが何よりも強く知っており、功績としても最強の生物である魔王を倒した存在であるということが示している。


「わかんない、って顔してるねぇ……まぁいいよ。本当はここから国防の問題について話をしようと思ってたんだけどさ。そして次の話なんだけど……君たちも上手くやったもんだよね。左遷って名前で魔石の確保に動くとは……」


 本人の悪戯が成功したかのように笑うナタリア。魔石の商売に関してはこちらも考えており、実際に領地移転の暁には大いに活躍してもらうつもりなので迂闊なことは言えずに沈黙する。


「聞いてるよ~? 現地調査で大量に魔石を確保したって。そして、見て来たよ? 魔物の死骸を。残念ながら魔核は他の魔物に食べられた後だったけどさ。」


 つまり、次に行った時は死んだ魔物の魔核を食べて強力化した別の魔物たちの熱いお出迎えがあるらしい。今から憂鬱になるが、そんなことを気にせずにナタリアは笑いながら話を続ける。


「さてさて、4人であれだけ動けて大量の魔石を確保できた。なら、君たちお抱えのこの国屈指の軍隊を使えば? 魔石を確保して土地を平穏にしたら龍脈も自由に使えるよね。そうなれば……」


 クスクス笑い、距離を詰めてくるナタリア。身動ぎできずにフミヤとの距離は触れこそしないものの熱が伝わるほどの至近距離になる。


「……他の輩は君たちがこのまま潰れると思ってるけどね。私たちは、君たちの実力を知る第三師団だけは君たちのことを本当に理解して、今後ともいい関係を築きたいと思っていてね……その条件として、血の繋がりを……第三師団のトップである私と、家督を継がないながらも大きな影響を持つ君との絆を作りたいと思ってるよ……」


(ダメじゃん。終わってるじゃん。クイーンが至近距離に来てウエノ家っていうキングにチェックかけてる。キングを逃がすために俺生贄だよ。まぁナタリアなら小さい頃から付き合いあるし何より美人だからいいと思うけど……)


 フミヤは色々諦めた。しかし諦めたのはもし成功したらという仮定に基づく最後についてであって、この場はまだ交渉締結にまで至らせてはいけない。相手もリップサービスを多分に使っているのだから鵜呑みにして言いなりになってはダメなのだ。


「じゃあ、成功のために「援助については任せてくれ。」……話を聞かせてくれるか?」


 先回りしてにこりと妖艶に微笑む彼女に終始押されっ放しのフミヤ。事前投資としては巨大すぎるほどの援助の話を受けて頬を引き攣らせつつ既に準備された契約書を手に取る。相手はこちらの状況を既に読みといており、交渉に入った時点でこちらの敗北はほぼほぼ避けられないものだとフミヤは一目見て理解した。だが、負けたからといって完全に降伏するのではなくこちらからも条件をつけさせてもらおう。


 フミヤの一個人としての技量が試される時だった。





 日が昇り切る頃には政務の話は大まかには終わり、後はフミヤを通してではなくロッシュと第三師団政務官の間で行われることになった。


 この後は友人として、そしてこれから付き合うかもしれない相手との気楽な話になる。


「で、側近さん……ギルバートさんだっけ? 最近うるさいらしいけど何で?」

「……もう20歳超えたんだから結婚しろって。で、勝手に相手選んでそれに似つかわしいようにお淑やかに振舞いなさいってさ……あ~怠い。ねぇフミヤ。頑張ってね。君との結婚生活なら私は自堕落でもいいんだからさぁ……」


 将来はその魅力的で大きな尻に敷かれることになるかもしれないとフミヤは苦笑いして誤魔化すしかできなかった。




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