68.裏表
これまでの遺恨を取り敢えず暴力で解決しておいたフミヤとロッシュはこれからについての会議を始めることにした。勿論、フーシェとヘンゼルも同席……彼らは正座中で椅子は与えられていないが、反省中の札を首から提げて出席はしている。
「……王族、まして直系男子たる余に何たる仕打ちか……」
「おや? 現在行方不明中のヘンゼル様にそっくりな方。もしや、ヘンゼル様ご本人と仰るのでしたら忠義の一族である私どもとしては丁寧に事情を聴いた上、その詳細な資料と共に王都にお届けいたしますが? いかがいたしましょうか?」
「ナンデモナイデス……」
この仕打ち、ことが解決したら覚えておけと内心で思っただけでロッシュに睨まれるヘンゼル。下手な誤魔化しで逃れよう試み、フーシェの方を見る。
フーシェの方は未だに納得していないようで不満げに呟いた。
「結果としては上手く行ってんだからいいと思うんだけどなぁ……」
「あ? まだ説教が足りなかったか?」
「ナンデモナイデス……」
ロッシュの一睨みで長兄の威厳を霧消させて俯くフーシェ。ロッシュが支配する家族会議となっているがこの場で唯一その支配力を回避しているフミヤはロッシュに尋ねた。
「それで、どうするんだこれから……」
「こちらからはどうにも出来んな。そこのいい歳した問題児どものせいで事が起きてからしか対処が出来なくなってる」
「だよな……」
問いはただの確認になった。現状、ウエノ家はラッツケンプ家の敵であり、ベイリー卿の暗殺実行犯であり、王族の誘拐犯だ。こうなった以上はフミヤと共にこちらに出て来たネフィリスシアも誘拐されたことにされるだろう。そうしなければメディシス家が怪しまれるため、公爵はそう手を回すしかない。
つまり、王国首脳部と軍部、政務部の全てを敵に回しているというのがフミヤの現状だ。それを匿っているウエノ家も似たようなものだろう。
というのに、問題児たちは声高に反論する。
「それは違う! 国民に国の現状を広く知ってもらうために動くべきだ! 魔族やそれに与する者たちの手はすぐそこにまで迫っている! 一刻の猶予もならぬぞ!」
「そうだそうだ! そんでもっていっちょ派手に暴れて魔族どもを蹴散らし、国威けーよーとかをやって国を盛り上げてなんかこう、頑張るんだよ!」
ロッシュは問題児たちを睨むが、今度の彼らは引き下がらなかった。そのため、大袈裟なまでに溜息をついてロッシュは説明する。
「それをどうやってやるというんですかね? 目に見えないところで動いている敵の話を目に見えている敵に仕立て上げられている私たちがして信じるとでも?」
「余が動けばよかろう!」
自信満々にヘンゼルが立ち上がる。この場にいるのはただのヘンゼルであり、王族云々の話はどこかに行ってしまっているようだ。だが、ロッシュはそれを流して続ける。
「これは大変名誉なことですが、我々の行動は王国の方々に非常に、過大なまでに評価されてましてね。例え王族を連れて行ったとしても偽物を仕立て上げたと決めつけられてしまえば国民は簡単にそれを信じてしまうのですよ」
「だったらその現場に皆を連れて行っちまえばいい! 実物見りゃ呑気にくっちゃべってる暇ぁねぇだろうがよ!」
「同じことだ。自作自演と言われてそれを信じてしまうのが今の王国の現状「やってみなきゃわかんねぇだろ!」……」
フーシェも立ち上がり、ロッシュに詰め寄る。ロッシュはそれを座ったまま体を動かして見上げるだけだ。
「お前の言う理屈は何となくわかるよ! でもなぁ! 今動かなくてどうすんだよ! 死んだ人は生き返んねーんだぞ! 魔族にやられた皆の前で信じてもらえないから戦えませんでした何て言えるのかよ!」
「フーシェが言いたいこともわかる。だがな、俺は現ウエノ当主としてウエノ領の全ての者を守る義務がある。死人は生き返らない。それは当然だ。だからこそ、生者を守らなきゃいけないんだろうが……はっきり言っておく。俺たちに全てを救うなんて出来ない」
「んなの……」
「それとも何だ? お前はもし王国と事を構えることになったとしても、その戦いで斃れた者たちにやっぱり出来ませんでした。許してくださいで済ませるつもりか?」
「……ッ!」
どう見ても納得いかない表情をしているフーシェに「それに」とロッシュは続ける。
「俺が何の根拠もなしに言ってると思うのか?」
「どういう……」
机を叩きつける様にロッシュが出したのは何通かの手紙。フミヤが横からその内の1つを覗き込むとどうやらそれは冒険者ギルド行きの物だった。内容は、今回の魔族侵攻に関する物。それに対する返答は。
「これが結果ですよ。冒険者ギルドを始め傭兵ギルド、魔術ギルド、魔薬ギルド、魔具、武器、各領主、中央貴族、王族……その殆どが言葉を選びはしても『にわかには信じられん』で一致してます。当然、間に細工が入れられるような間抜けな真似はしてません。直接、影から渡した物に対する返事です」
「馬鹿な!」
押し殺した怒りを滲ませてロッシュは努めて冷静にそう告げる。声を上げたのはヘンゼルだった。弾けるようにロッシュが出した手紙の下へ駆けるとそれを集めて矢継ぎ早に次の手紙を見ていく。
「嘘だろオイ……おかしいだろそんなん……」
声を上げたのはフーシェだった。言葉もないヘンゼルの代わりに茫然とした表情で呟くが、ロッシュは冷静に告げる。
「魔族の侵攻を信じる側の主軸だった老ラッツケンプ様が亡くなったこと。現状の対魔族戦における最大発言力者であるミヤケが敵に回っていること。ラッツケンプ邸での騒動のせいで軍部もこちらの話に聞く耳を持たないこと……他にも要因ならいくらでもありますが、聞きたいですか?」
「おぉ……どうして……今こそ国が一つになって立ち上がらねばならぬ時というのに……」
顔色を悪くしてふらつくヘンゼル。ロッシュが目配せしてフーシェに彼を支えさせるとロッシュは長兄に告げた。
「どうやら客人が体調不良のようですね。フーシェ、万が一があったらいけないので別室で回復を」
「別にこの場でも……」
「お前はこれ以上ウチの立場を悪くする可能性があることを実行するのか?」
「……わかったよ」
不承不承という顔を隠しもせずにヘンゼルと共に部屋を後にするフーシェ。残されたのはフミヤとロッシュだけになるが、彼らは部屋の外に隠された気配を感じて黙ったままだった。
だが、そのまま無為に時間を過ごすという訳にはいかない。先に切り出したのはフミヤだった。
「……で、今回の本題は何?」
ぶっきらぼうな口調にロッシュは軽く笑いながら答えた。
「ほう? 何の話だ?」
「恍けるなよ……」
声の上での会話。だが、会議室のテーブル上には異なる会話が繰り広げられていた。即ち、魔力文字による会話が。
【そのまま続けてくれ。あの暴走しそうな二人が相手だとこうせざるを得ん】
【了解。で、これからどうするのかについての話に戻す訳?】
【そうだ】
テーブルの上では滑らかに話が進んで行く。だが、会話は遅々として進んでいない。外の二人が飽きるまで適当に誤魔化すことが決められているのだ。
「これからどうするのかについての話なのに、何もしませんなんて結論なら集める必要がないだろ」
「下手に動かれると困るということを先に伝えておこうとした、そういう可能性は?」
【まずはこれを見てくれ……さっき見せた表向きの手紙ではない、各陣営におけるウチの賛同者だ】
【……これは中々……王都の防衛圏を保持するぐらいなら行けるんじゃない?】
ここから数時間にかけて本物の会議が行われることになる。




