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67.事後報告

8月27日修正完了。

「おー、いらっしゃい! よく来たな!」

「はっはっは、久しいなフーシェよ。相変わらず、と言ったところか? して、ロッシュよ。先に言っておくがこの場に私がいることの意味を考えた上での発言を頼むぞ?」

「……分かってますよ」


 ウエノ領にて。


 ゼンシュの町で犠牲となった民たちへの黙祷を済ませたヘンゼルを連れてフミヤ一行はウエノ新領土の屋敷に辿り着いていた。

 そこで待っていたのは王族を迎えるための盛大なパレード……ではなく、王族を拉致して来たという噂と言う名の事実が広められているフミヤを捕えるための軍事行動……でもなく、フーシェの友人を迎えるという簡素な形での歓迎だった。

 これは簡単なことで、ヘンゼルを王族ではないただの一個人として扱うという名目上必要な行動だ。この【竜の眠る地】はウエノ家こそ脅威を抑えることが出来、知能のある魔物に関しては追い払う契約を結んだが、王国からすれば危険地帯ということで簡単に人を送ることなどできない。

 ましてや、魔族と争いごとをしている最中で人が足りないというのに派兵してウエノ家と事を構える可能性があることなどできやしないという考えから今回の行動に至っている。


「さて、では私も兄の友人であるヘンゼルに言わせていただきますが」

「何じゃ?」

「馬鹿ですか貴方は」


(出た……)


 黒い兄を見てヘンゼルをここまで輸送して来たフミヤは何とも言えない顔をする。対するヘンゼルはまさかそんな口をフーシェではなく常識人的なロッシュからされるとは思っておらず、フリーズしている。


「よっくもまぁ稚拙な策を適当にやってみたもんですねぇ? えぇ。魔族の奸計に陥ってラッツケンプ家と事を構えるやもしれぬ、フミヤをどう無事に戻して魔族と戦いながら王国との関係を取り持つにはどうすべきかと色々と考えを巡らせていたところにまさかの誘拐事件を被せてくるとは。少し狂ったらウチが取り潰されてたかもしれないのですが、その辺はどう考えていたのでしょうか? 是非とも我々では予想だに出来なかった素晴らしい妙案があったのでしょうね? さぞかしご立派な。無知蒙昧な私にご教授願いたいのですが?」

「う、うむ。色々と考えておったぞ……? まぁ、我なりに、な……」


(……? ロッシュ兄貴と一緒に考えたとか言ってたけどそれは……?)


 道中、ヘンゼルから聞いた話と齟齬があると思いながらフミヤが成り行きを見守っているとその答えをロッシュが言ってくれた。


「因みに貴方がフーシェと共に考えて王城からの脱走を実行してから私に出してきた分の計画なら全部聞いていますが。それだけではないんですよねぇ、当然?」

「も、もちろんじゃぞ?」

「では、お聞かせ願いたいですね」


 これ以上ない位に目が泳いでいるヘンゼル。フミヤはここに入って来てからフーシェの周囲に彼の魔力が強めに纏わっているのを見てどうしたのだろうと思っていたが、どうやらそれはロッシュからお仕置きを受けた上で治療中のために出来たものであると理解した。


 そんなフミヤの理解は兎も角としてヘンゼルはロッシュに成り行きと計画を理解してもらうために恐る恐る口を開いた。


「ま、まぁ……要するに、王とは己の力のみですべてを成し遂げられるのではないのでな、優秀な「おや? 今はただの友人としてのお話を聞いているのですが? もしや、貴方は王族の方であると言うのでしょうか?」う、いや、その、私はだな、違うのじゃ」

「では、自分でしっかりとこの状況に対してどうすべきだと判断していたのか。この後をどう動かすのか教えてください」

「……フーシェが何とかなるって言ってたから……というより、ロッシュなら何とかしてくれるって言ってたから……」


 ロッシュの笑みが一段と深まった。だが、どう見てもそれはいい意味ではない。それを見て分からぬ者はこの場におらず、ヘンゼルも理解して、理解した上で駄々をこねるように言い始めた。


「だってだって、余だって皆のために何かしたかったんだもん! 民の手紙を直接呼んでみたら絶対おかしいって分かるのに父上は『忙しいから一々そんな些事には関わっておられぬ。担当の者が問題ないと報告しておる』って!『王たる者臣下を信じるのも務め』って! だったら余だって臣下を信じて自分が為すべきだと信じたことをやってみてもいいじゃん!」

「はい? 私は貴方の担当者にも王族誘拐犯の担当者にもなった覚えはないのですが」


 一刀のもとに切り捨てた上に「王族ではないと会ってすぐに自分から仰ったのに言い訳に自分が使われるとは情けないとは思わないのですか?」と追撃まで加えるロッシュ。ヘンゼルはもう王族の威厳など飛行中に落としてしまったのかの様に涙目になっている。


「実際に王国の危機だったし、結果は上手くいったんだからいいだろうに!」

「結果論で全てを話すのであれば計画なんて必要ありません。その時に限界まで情報を集めて結果を予想し、絞り込んで自分たちが求める結果にするんです。今回の一件において貴方は自分がそう思うからという情報で、任せるべきだと決めた相手に情報を提供しない状態で丸投げし、後はその相手に身をゆだねるという王族どころか一般人としてもあるまじきことを実行したということを心に刻んでおいてください。いいですか?」

「……はーい」


 明らかに納得していない返事。だが、ここで反論したら10倍にして返されるのが分かっているのでヘンゼルは黙ってそれを受け入れたらしい。


 当然、そんな適当な謝罪などロッシュが受け入れる訳がない。


「では、今の話で何が悪かったのか自分の口で仰ってくれますか?」

「きちんと話を通してから物事をするようにってことじゃな」

「分かっていただけて何よりです。では、次からは気を付けてください」


 明らかに安堵したヘンゼル。だが、フーシェの方を盗み見ると何故かまだ引き攣った笑みを浮かべている。気になったヘンゼルが先程から怖くて直視していないロッシュの顔を見ると全てわかっているかのように視線を合わせてロッシュは微笑んで言った。


「さて、今回の罰はどうしましょうかね」

「え……余、じゃなかった。私……反省してるって。言ったよね?」

「えぇ。大いに反省してください。それはそれとして、ウチの可愛い弟を危機に晒した罰を与えなければ気が済みませんので……選んでください。精神にくるものか、肉体に来るものか、はたまた両方か」


 天使のように見える悪魔の微笑み。ヘンゼルは必死の抵抗をするが「後には残さない」と意味深な発言をしてロッシュはそれを封じ込めながら移動を開始する。それを見送ったフミヤは呟いた。


「いやまぁ、ロッシュ兄貴も普通に俺の事を危地に晒してたけどな」

「はっは。それを言うなら俺だってさっき地獄みせられたぞ。可愛い兄のことを何だと思ってるんだ」


 筋肉だるまの兄が可愛い訳はないと思いながらフミヤはフーシェに笑顔を向けて告げた。


「そう言えば、訓練室は使えるようになった? 王都に向かう時にそろそろできるって聞いてたけど」

「おぉ! そこでロッシュに襲撃されたから今は少し壊れてるな! ただ、すぐに直すって言ってたから多分「行こうよ。模擬戦」……ん? まぁいいが、ロッシュに痛めつけられたから……」


 フーシェはそこで自分の弟が笑っているのに気付いた。その笑みはロッシュが浮かべていた物よりも大分悪意に染まっており、お前の都合など知ったことかと如実に語っているかのようだ。 


(あっ……怒ってる)


 フーシェは色々と察しながら後に燻ぶらせておいた方が危険だと判断して己の運命を受け入れた。




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