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58.四家会議

「……これはこれは、フミヤ君、だったかな? ウエノ家の。懐かしいな……遠いところからようこそ」

「ご無沙汰しております。本日は兄弟共々、よろしくお願いします」


(うわ、ラッツケンプさんだ……ホントに久しぶりだな……病気って聞いてたけど大丈夫なのか?)


 メディシス邸、大会議室。そこでフミヤは【魔通話】に近い場所で待機していた状態からラッツケンプを迎えに出口まで移動する。席順は【魔通話】が設置されている奥にウエノ家代表ということでフミヤ。その隣に【魔通話】の技師としてネフィリスシア。


(……ネフィが近いから公爵の顔が怖いんだけど……だからと言ってネフィを押し返すと反抗期なのか逆に詰めてくるんだが……ネフィの婚約者(ミヤケさん)もいるし止めてほしい……)


 それに続いてフミヤ側の隣にラッツケンプと侍女。ネフィ側にメディシス公爵と使用人が2名。そして入り口付近の下座にミヤケとそのハーレムの中から有力貴族の娘であるヴェロニカと彼の愛人代表のシェリーが並んでいる。


「本日はお集まりいただきありがとうございます。早速ですが、魔族との争いとその不可解な点に関する情報交換及び、対策についての会議を始めさせていただきます……ネフィ、【魔通話】は大丈夫か?」


 父親の問いかけに対してネフィリスシアは首肯する。それと同時に【魔通話】から音声が流れてくる。


『問題ありません。通話越しに失礼します。ウエノ家当主のロッシュです。若輩者ですがよろしくお願いいたします』

「ラッツケンプだ……いや、技術も進んでいるな……今日はよろしく頼む」


 遠く離れた顔の見えない相手との会話ということに驚きの様子を見せつつ応じるラッツケンプ。軽く開会のあいさつが終わった後、まずはミヤケによるメディシス側の情報提供が行われた。


「……人に寄生する魔族、か……それが事実であれば王国を揺るがしかねない事実に発展するが……何故、そのようなモノがいるのにもかかわらず大戦時に表に出て来なかったのか……ウエノ伯爵、どう思われる?」


 深刻な顔をして受け止めたのはラッツケンプだ。彼は自陣営で自分の意見の大きさが周囲を左右してしまうことから改め、習慣となったまず他者の意見を聞くということをこの場でも行うことでロッシュに話を振った。


『……結論から申しますと、過去の大戦は向こうでは今回の戦いの仕掛けを作っていたに過ぎないと考えています』

「ほう? その根拠は」


 興味深そうな態度を示すラッツケンプ。それに対して先の大戦で大功を上げたミヤケは苦い顔をした。彼からすれば命懸けで魔王を倒したのに向こうが本気ではなかったと言われたと同じことで、それを自分の想い人を略奪しそうな雰囲気を出している相手の家族から言われたのだから仕方のないことだろう。

 そんな態度は【魔通話】で見ることは出来ないため、ロッシュは何の躊躇いもなく普通に告げた。


『今度はこちらからの情報提供になりますが、魔族の社会制度は人類とは異なり一部の蟲と同じようなものであることが判明しました』

「ほう? 蟲……」

『蜂や蟻等に見られる女王制です……彼ら、いや彼女たちは女王さえいれば滅びることはない。また、過去の我々の認識では一般の魔族と異なり、高い知能と能力を合わせ持つ魔族のことを魔王と認識していましたが……魔族の王は女王。そして、知能個体は繁殖用の雄に過ぎないことが判明しました』

「嘘をつくな!」


 ここでたまらずミヤケが口を挟む。今回の掃討戦に関する失態で立場を危うくしているという自覚がある中で、過去の成功すらも奪われるということを危惧してのことだ。そんな彼に続くように彼の愛人であるシェリーが冷たい声音で告げる。


「ロッシュさんはウエノ家が先の大戦で何も出来なかったからそんな嘘で誤魔化して、キリュー様を貶めようとしてるんですかね?」


 その発言はこの場にいるミヤケとヴェロニカを除く誰からも歓迎されなかった。現在行っているのは意見交流会であり、魔族に対する意見に関係のない家同士の喧嘩の場ではないからだ。


『……現在、【竜の眠る地】には公爵様の使節団を襲撃した魔族を拘束しており、その筋からの情報です。嘘ではありません』

「フミヤ」


 ネフィリスシアからフミヤに口を挟むように指示が出る。これで理解するのだから相当なものだが、当人たちに特に意識はない。


「単独での襲撃で王国騎士団の護衛の内、ルイスが殺害されています。また、当家のココ。公爵家令嬢のネフィリスシア様に対して呪いをかけており、尋常ではない手練れでした。この件の詳細は今の話し合いにあまり関係がないので王国第二騎士団の方より上がってくるものをお待ちいただきたいところですが……まだ生まれて間もない王族の個体だそうです」

「ふむ……あの面々で死者が出るとは思いませんでしたな。従来の見識から見てもそれだけの手練れであれば魔族の中でも相応の地位持ちであることは間違いありますまい……」

「物々しいものだと聞いていたが……それでも、か」


 曲がり何も王族であり、第2騎士団団長の実力を持ち合わせるナタリアが動いたということで万が一のことがないように軍部としても調べていたため、ラッツケンプも多少はその編成知っており今回の事件の重大性を理解する。

 しかし、戦場に向かっていたミヤケからすれば話が勝手に進んでいるだけで何らわからず、面白いものではなかった。


『続けます。また、【竜の眠る地】に太古より存在する【賢き魔物】との接触の結果、魔族は雌型個体の方が強い「出鱈目を言うな!」……信じられない気持ちも分かりますが、人間、魔族両方の敵である魔物の長からの情報です。この雌型が強く、女王がいる限り魔族が滅びないという視点で見た場合、先の大戦では敵のほとんどが雄型、女王がいなかったということから来るべき戦に対しての陽動であったと私どもは考えました』

「ふむ……」


 そう言ってラッツケンプは考え込む。流石に、ウエノ家にとって都合の良すぎる話である。先の大戦で魔族の女性との戦いで本戦に参加できずに失脚した彼らからすればこの説を語ることで多大な恩恵が得られる。


(ただ、信憑性に欠けるな……)


 そう考えるのはメディシスだった。それもそのはずで、先の大戦で大功を上げた側からすれば伝説や迷信の類に近しい魔物の長という眉唾物の存在が人の言葉で語るということ自体が信じられないのだ。しかも、それが人間に有利な情報を与えるなど信じられない。


(そもそも、この言葉という物自体が神々より人間に与えられた特権であり、魔族はまだしも魔物が語るなどあるはずがない)


 下手をすれば宗教問題にもなるこの話。しかし、相手は若輩ながらも老獪な宮廷貴族たちを相手に大戦での失態後も自らの家を守り抜いた海千山千のロッシュだ。無能な味方に足を引っ張られることがなければ今も中央で権勢を保つ程度のことは出来ていただろう。


(……その彼が、わざわざ分かり易い嘘を吐く訳がない。いや、逆にそれを逆手にとっているのか? しかし、彼の説が本当であれば大戦時に何故、あのウエノが活躍できなかったのかという話に説明はつく……)


 信じるべきかどうかで悩むメディシス公爵。今回、彼の目的としては人間に寄生する魔族についての話がしたかったのだが思いもよらぬ話に発展しており、混乱しているのだ。ただ、今その元々の話のことを思い出したことによって彼の思考は切り替わる。


「いやいや、伯爵の話も一理ありますな。しかし、今回は人間に宿る魔族の話をするということでありその件についてはまた別の機会にいたしましょうか。では、話を元に戻しましょう」


 そして会議は仕切り直しとなった。




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