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3.現地調査

「メディシス様、ご機嫌麗しゅう……」


 ……麗しい訳がない。表情は元々が無表情に近いモノであり、口数も元来少ない上、周りに当たり散らすこともないので家族以外は気付いていないがネフィリシアスのここ最近の機嫌はかなり悪いモノだった。


 特に、今いる様なサロンでの最近の動向を探る会話はネフィリシアスの機嫌を更に悪くさせるものだ。それは表情には一切出さずとも周囲が一応窘めるのを見てネフィリシアスの苛立ちはさらに募る。


「宮廷内ではメディシス家の皆様と王室の繁栄の噂でもちきりですよ……」


 ネフィリシアスは笑顔で告げる男にも周囲で覚られぬように嫉妬の視線をぶつけてくる女たちとも既に話したくない。何か理由を付けて退出したいと思いながらも自宅で過ごす時間を少しでも潰すために会話を行っていた。


(…………私が貴族でなければこんな思いをせずに……)


 実際には存在しえない、たらればの話を思い浮かべつつ上辺だけの会話を続けるネフィリシアス。懊悩とした感情は行き場をなくして彼女の胸に滞り、苛んでいるかのようだった―――










 一方でウエノ家の兄妹は視察と言うことで転封先にて家族会議を行っていた。


「……多いぞ。想定していたよりも……もの凄く魔物が多い!」

「全部ぶっ飛ばせば問題ない! 魔核獲り放題! 金もがっぽりだ! ハッハッハッハ!」

「フミヤ。アレを最優先で沈めておいてくれ。」

「ラジャー……」


 兄を自らの手にかけることになるのは残念だ。などとくだらないジョークを心内で呟きつつ実際、妹の奮戦により何とか会話が出来る程度に小康を保てている現場で溜息が起きる。


「さて……本当にこのバカ兄貴を放り投げて全滅させることが出来ればよしとして俺らは帰る?」

「……それは割と後の方の手段だな……現場は最悪ということが分かった。今回は退こう。」

「何~? 帰るの~?」


 奮戦していた妹のココがこちらに戻って来たことで獣臭い魔獣や臭い涎をまき散らす害獣どもがこちらにやって来た。それらを蹴散らしつつココに応じる。


「一旦帰るみたいだぞ。飢えてる奴らがこれだけ強いとなると深部に行けば流石に俺らでも鎧袖一触で蹴散らすことは出来なさそうだしな。」

「フミヤ兄ぃなら行けるんじゃない? ちょっとバーッとやって来てよ。」

「無茶言うな、死ぬわ! 大体仮に倒せたとしても後をどうするつもりだ!」

「そうだぞ! ここにいる獣どもは俺らの大事なお金になるんだからちゃんと可愛がってやるべきだ!」

「……フミヤ、浅かったみたいだぞ。しっかりしろ。」


 今度こそ完全に長兄を沈めてウエノ家の一行は魔獣どもから魔核を抉り取りつつ一時的に引き下がって魔物のテリトリー外にある一軒家で会議を始めた。


「表層の連中であればウチの騎士団で問題なく対処できることは分かった。これは収穫だ。」

「まぁそうだね……ただ問題は数であってその処理をどうするかが問題だよ。」

「いい物は多そうだが、値崩れを起こさんばかりにいやがるからな……」


 問題は値崩れだけではない。魔石の利用方法によっては強大な力を得ることになる。単にそれを保有するだけでも、転封に恨みを持って反逆するのではないかと恐れられることが容易に予測できる。だからと言って魔石を周囲に回せばその領主がウエノ家に対する脅威になることは自明の理だ。


「あぁなんて面倒なんだこの……! しかもウエノ家が中央から離れることで中央周辺の貴族たちが何やら蠢動している動きまである……」

「……まぁその辺はなぁなぁで、家のことだけ考えてればいいんじゃ?」

「そうだ! 最悪建国すれば問題ながぁっ!」


 フミヤの肘とロッシュの拳が決まり、フーシェはその場で転げまわる。決して人体から聞こえてはいけない音、むしろ人体が発する音とは思えない音が甲高く響くがこの場にいる誰も気にしない。


「おいフーシェさんよぉ、何言ってんだ?」

「フーシェ兄様、流石に庇えないよ今のは……」

「その前に謝れ! 全く……他の家だったら打ち首だからな……」

「その前に殿下への反逆であんたが打ち首獄門だよ。」


 適当過ぎる兄に溜息をついてフミヤは攻撃を入れた後は不気味に黙っているもう一人の兄を見る。しかしどうやら次兄を埋めることではなく事業モデルを考えているようだった。


「中央で動いてる奴らの勢力的に考えて……いや、足りないな。あの程度で今考えてる分を費やすと無駄に刺激してしまって相手を削り過ぎる。だからと言って中央に合わせるとこの場にそぐわないものに成り下がってしまうからな……」

「んー……やっぱりこちらから打って出て魔石を獲得すると大変なことになりそう?」

「なりそうじゃない。確実に大変なことになる、だ。」


 魔物が来ないエリアから少しずつ領地を拡大。そしてその場に入ってくる魔物を狩ってその魔物からとれる魔石をわざわざ一度砕くことで威力を調節。そして魔具を作っていくことにせざるを得ないという判断を下したロッシュ。それを聞いてフミヤも頷く。


「これしか手はないからな……全く、初期領土だけで考えれば領地が一割程度になったのと変わらん……」

「楽でいいじゃねーか! ハッハッハッハ!」

「……財政的に楽じゃねぇんだよこの馬鹿が……」


 無駄な工程を挟むのにはコストが必要だ。しかも今回の無駄な工程はかなりの技量が必要になる。魔核は魔物の体の中で最も大事な部分ということで非常に硬く、また魔術の行使のために複雑な構造をしているからだ。ついでに魔核を壊せば当然、中に貯蔵されていた魔素が辺りに出てくるのでそれに対する設備も必要になるだろう。


「頭が割れそうだ……」

「ほー、ロッシュが頭を抱えるなんて珍しいな。」

「誰のせいだと思ってんだ!」


 温厚なロッシュも流石に怒った。やりっ放しですべて投げてくるこの兄を謀殺してやろうかと考えたがこいつなら武力ですべて鎮圧しかねず、余計な手間が増えるかと考え直す。


「何かないのか、このアホを止めるのは……」

「まーロッシュが本格的に家を継いだら流石に従うけどなー」


 暗に自分は継がない。そして本家の麾下に入るということを言うフーシェ。その点に関してはフミヤはノータッチなので何も言わないがこの状況でその宣言は責任逃れともとれる発言だった。


「……今はその問題は置いておく。とりあえず、これからの方針だけは決まったが……」


 そこで不意に言葉を切るロッシュ。視線は小屋の外に向いており、分かっていたけど今更気付きたくなかったのにと言わんばかりの表情をしている周囲の兄弟を見る。


「まずは、脱出から始めないとな……」

「……一点突破。魔核を拾う暇もできそうにないなぁ……」

「あたしたちが散らかした魔核のせいで次に来たときはもっと強い魔物たちがお出迎えとかになったら……いや、なるだろうなーの間違いか、はぁ……」

「ハッハッハッハ! 俺たちにかかれば問題はない!」


 最後にもう一度弟妹揃って長兄に攻撃を入れた後、ウエノ4兄弟は結界の外で小屋を包囲していた魔物の群れを全力で一点突破し、撤退にかかった。




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