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36.ウエノ家

 王国に伝わる創国の物語。その第1章。


 昔々、人がまだヒトであった時代。神々がまだ現世うつしよに在り、世界に直接干渉していた遥か太古の時代のことでした。


 生命が活動を可能とする条件の整った、奇跡のようなとある星。その宝石のような星のたった一つしかない大陸に1対の姉弟神が降り立ちました。二柱はその世界を支配していた悪しきドラゴンから国を取り返して平定し、大地に豊かさをもたらします。

 姉の名は、ネアルーモ様。弟の名は、モルデーグァ様。二柱はドラゴンたちの代わりにこの星で最も優秀だった種族であったヒトに加護を与え、人間とすることで平和を作ることに成功しました。


 ですが、その平和も長くは続きません。


 その星に恐ろしく、凶悪な魔神が流れ着いたのです。ネアルーモ様とモルデーグァ様は何とかその魔神を追い払うことに成功します。ですが、それには多大な犠牲を払うことになったのです。それが、姉神様であるネアルーモ様の汚染。悪しき魔神の力でネアルーモ様は穢されてしまったのです。

 ネアルーモ様は悪しき魔神の毒が平和なこの地に現れることを厭い、モルデーグァ様に自分ごと魔神の毒を封印するようにお願いされました。

 モルデーグァ様は当然、そんなことは出来ないと首を振りますがネアルーモ様の意思は固く泣く泣くその通りにします。しかし、モルデーグァ様はネアルーモ様のことを諦めませんでした。モルデーグァ様は悪しき魔神の毒を魔族という形で少しずつ地上に出し、彼の忠実な僕である人間に処理させることで姉であるネアルーモ様を救おうとなされました。


 その人間こそが、初代国王キングスエン・モルデーア様でした―――




 これが、王国民の知る人間の始まりの物語。しかし、異世界の民であるウエノ家には別の物語が伝えられているという。

 それをこれから聞いて儀式を開始しようとしていたウエノ家の現代の子どもたちは兄が土で出来た拘束具によって縛られて地に伏した状態で弟が何度目ともなる説明を繰り返し、兄が理解したことを自分の口で話させるという作業を行っていた。


「……つまり、この人は敵じゃない。ここを出るために言うことを聞いた方がいいと」

「……もういいよそれで」


 フミヤはフーシェ説得のために頑張ったのだ。色々話したが、もう今やるべきことだけを伝えることで満足することにした。そして説得が終わったとばかりに最初の説明時には協力してくれていたが途中で離れたウエノ家のご先祖様である初代勇者の方を見る。


 彼は白い地面を見下ろして難しそうな顔をしていた。そこで視線だけでは気付かなかったのだろうと判断したフミヤは声をかける。


「あの、説得終わりましたけど……」

「そう。遅かったね……君たちのお父さんが命懸けで稼いでる時間を何だと思ってるのか……」


 溜息混じりにそう言って彼は首を回し、フーシェを拘束している土の手錠と足枷を見るとフーシェの戒めは即座に粉々になった。


「さて、じゃあ説明した通りだ。俺がこの世界に派遣されることになった時に俺が元居た世界の神様に効いた話をしよう」

「そんなのいいからさっさと儀式させてほしいんですが! 親父がピンチなんですよね⁉」

「ちょっ、オイ! ちょっと引っ込んでてアホ!」


 ご先祖様の話を遮って自分の都合を押し付けようとするフーシェを掴んで無理矢理後ろに引き下げるフミヤ。しかし、実を言えば彼もフーシェと同じ気持ちだった。それでも言動に出すほど子供ではないが。


「……残念ながら、もうどうしようもない。そもそもこの儀式は術者の命と引き換えに行う物だからね……その辺の説明も、これからだ」

「でも親父は戦ってるんでしょう? なら、早くしてほしむがもご……」

「お前シャレにならんなホント」


 ここまで酷かったか? と思いつつフミヤはフーシェの始末をして正攻法で話を進めようと初代勇者の方を見て謝罪する。しかし、彼は苦笑して首を横に振った。


「ここは精神世界だから思ったことが出やすいのも仕方ない。それほど気にしてないよ」


(微妙には気にしてるってことか……)


 フミヤは言外のメッセージをきちんと受け取ってフーシェに言動には気を付けるように再三の注意を行ってから彼を助け起こすとフミヤたちは聞く態勢に入る。そこでようやく彼の話が始まった。


「……改めまして、異界の民……地球の、日本人だった上野 大貴です。君らの先祖にあたる……そうだね。君たちの8代前だから500年近く前の人間かな。これから、俺に……まぁ八百万の神々から与えられた力の説明をさせてもらうよ」

「巻いてくれません?」

「すみません! すみません!」

「……まぁ、現実味がないだろうから。多少は大目に見るけど……いい加減にしろよ?」


 迸る殺気。それは確かに初代勇者の凄みと言うモノを示していた。これを受けてようやく相手が凄い人であると理解したフーシェが大人しくなり、フミヤも胸を撫で下ろした……その時だった。急に空間に亀裂が入り始め、振動し始める。


「……っ! 今回は俺の方が悪かったらしい……ごめん、相手が悪かった。巻きで行くよ」

「何が……」

「あぁもう! ……今君たちに使うことが出来そうな能力は……これだけでも聞いて行きな! 火と雷は黄泉の国の禍の力で5つの雷神が一柱、火雷ほのいかづち! 君はお父さんが倒れたら水を継ぐ……」


 急いで初代勇者は二人に言葉を送る。だが、途中で自らの儀式に対する権能が失われ、声が出なくなったことに気付く。更に、子孫たちの返事すら聞こえなかった。それでも、二人が頷いたのを見て何とか一部だけでも伝えることが出来たと息をつく。


「はぁ……流石、この世界の原初の支配者だよ……確かに、元の世界で底辺だった俺でも正気を保ってそれなりに長生き出来る程度にしか力は注がれてないけど……まさか、神話を見立てた儀式を中断させるとは……」


 儀式が中断されたことで彼の姿も消え始める。やがてそれは跡形もなく消え、空間すらもなかったかのように全てが崩壊した。







「ほ、ほ、ほ……ようやっと出て来おったな? 小童……」


 フミヤが意識を覚醒した時、そこは妙な空間に飛ばされる前の死臭と血煙漂う戦場の真只中であり、目の前にはフミヤの父親であるヒグラが血の池の中に俯せに沈んでおり、その隣に右手から血を流しているフェリルが立って笑っていた。


「……テメェ……! よくも!」

「ほ? ……我の呪印の気配が急に……まぁいい。目の前の敵を喰ろうてから肉の様子を見に行くか……」


 激高するフミヤに対してフェリルは気にした素振りも見せずにウエノ家の領土の方を見て首を傾げていた。そんな隙を見逃さずにフミヤはフェリルに躍りかかる。


「【火雷ほのいかづち】!」

「ほ? 早いの……」


 先祖より託された術式のコードを吠え、フェリルに肉薄したフミヤ。心臓が熱い。体が恐ろしい速度で動く。儀式前には圧倒されていた相手に、拳が届いた。フェリルが宙を舞う。


 ―――――だが、フミヤの手に手応えはなく降りぬいた拳は非常に軽い感触で伸びきっていた。


「……いやはや。やりおるのぉ……人間が」

「この、化物が……」


 宙で体勢を立て直したフェリルは余裕の笑みを見せつつ殺気を全開にして遊ぶ気もなしにフミヤを睨みつけた。


「どうやら仕切り直しのようじゃの……全力で行くぞ!」


 最早人間には正常に聞き取ることが不可能な高速詠唱。全力で身体強化を行い、傷すら完治したフェリルがフミヤに襲い掛かり、北の大地における戦いの最終幕が開けられることになった。




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