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2.帰省

「お父様。急なウエノ家の従者の解雇はどういうことなのですか?」


 ネフィリスシアは彼女の父親であるメディシス公爵にそう切り出した。宮中における大派閥のトップであり周囲から【暴略の魔術師】と恐れられている彼だが娘には比較的甘く、彼女がそう言いながら来たのを見て少し困った顔をする。


「……ネフィ。お前、幾つになる?」

「もうすぐ18歳になります。」


 ネフィリスシアは話の流れが読めて密かに顔を顰める。だがその細かな表情の変化を読み取ったメディシス公爵はこれ以上の説明はあまり必要ないだろうと思いつつも言葉にして説明した。


「そろそろ、結婚する歳だろう? そうであるのに男を側用人として用いていれば要らぬ噂が立つのは理解しておるだろう?」

「……はい。ですが、お父様の計画の中には……」

「あれは、止めだ。」


 ネフィリスシアが反論を返す前にメディシス公爵はそれを遮った。そして続ける。


「ウエノ家の少数精鋭の強力な騎士団……アレは乱世においては魅力的だったが、現在は必要ない。それに既に衰退しかかっているウエノ家と繋がりなど必要ないからな。」


 その言葉が実体を持った重みのように感じたネフィリスシアは僅かに顔を下げる。それを攻め時と見たメディシス公爵は更に続けた。


「それにウエノ家が所有している観光、及び食文化だがな。あれも既に今代の勇者であるミヤケが再現している。これからはウエノ家に代わってミヤケ家が強力な騎士団を持つことになるだろう。そして、これから言うことはまだ計画としては未定だがネフィにはそちらから縁談が来ている。」


 メディシス公爵はそう言って光影投射機で撮った勇者の写真をネフィリスシアの前に出す。その姿はミッドナイトブルー、濃藍色の髪に空色の目をした肌の色の白い美少年だ。


「どうだ? ネフィの隣にいて恥ずかしくない程の美男だろう?」


 その美男、ミヤケと呼ばれる彼はネフィリスシアに比べて少々年は行っているらしいが見た目はそれほど変わらない。月白……青色の系統ながら限りなく白に近い色を持つストレートなロングヘアーにシアン色で怜悧な目をした肌の白い美少女であるネフィリスシアを相手にしても確かに相応しい相手に思えるが、ネフィリスシアの顔は浮かなかった。


 それを見て内心嘆息するメディシス公爵。彼にはネフィリスシアが何を考えているの分かっている。だがそれを面に一切出さずに娘を心配して少し躊躇っているかのように口を開いた。


「……まぁ、相手は他にも多くいる。ゆっくり考えろ。」


 それだけ言うとメディシス公爵はネフィリスシアとの会話を終えた。


















「おい。愚弟。」

「何だい賢兄。」


 その頃馬車に揺られてウエノ領に戻っている二人は長い期間の別離により逆に何を離せばいいのかわからず、黙っていて気まずかった。しかし、そろそろウエノ家の領内に入るというところでロッシュの方が口を開いた。


「……そろそろ、領内だ。馬車を置いて走るぞ? 足は鈍くなってないか?」

「……まぁ、大丈夫だろ。」

「ダメそうだったら言え。負ぶって走る。」


 久し振りのズレた会話にフミヤは苦笑せざるを得ない。ここ、ウエノ領において騎士団は馬より速く走り、馬よりも持久力があるので基本的に徒歩で移動するのだ。


「家は、どうなってる?」

「お前が持ってる手紙で書いたとおりだ。色々大問題しかない。」

「……はは。」


 フミヤは乾いた笑いを浮かべた。ロッシュの下手なジョークかと思っていたのだが目の前の兄を見る限り本当のことのようだからだ。


(じゃあフーシェ兄貴はマジであんな馬鹿なことを……)


 次男であるすぐ上の兄、また妹たちのことが気になるが一先ずその問題達に立ち向かっていた兄を労わる。


「お疲れ。」

「あぁ……手遅れになる前に、お前を呼べてよかった。」

「そんなに不味いのか……」


 そんな状態であるのにもかかわらず、のうのうと暮らしていた自分のことを殴りたい気分になるが、それでは何も解決しない。風を置き去りにして走ることしばし。目の前にはすぐに視界に入り始めた実家。


 そこには妹のココと笑顔の……件の兄、フーシェがいた。


「おー! 衰えてなさそうだな! 感心感心!」

「……感心感心じゃねぇ!」


 勢いを殺さずに加速、更にそのままフーシェに飛び膝蹴り。他の家であれば極刑に処されてもおかしくないその暴挙に対して、フミヤの強力な蹴りを喰らっても嬉しそうに立っているフーシェは笑顔だ。そんな彼にフミヤは続けざまに口撃を浴びせる。


「なんっで、誰にも内緒で陛下に掛け合って勝手に領地替えを!」

「ハッハッハ! フミヤは今日も元気だな~……俺も元気だ!」

「本当に……忌々しいほど元気で困る……いっそ不慮の事故で死んでくれれば左遷の話もなかったことになるんだがな……」


 フミヤとフーシェのやり取りを見てロッシュが眉間を抑えて溜息をつきながらそう言うとフーシェはフミヤを解放してロッシュに大声で告げる。


「左遷じゃねぇって! 龍脈が近くに通ってる地下資源の豊富な場所だって言われてる場所だぜ! 開拓してウエノ家をまた盛り上げよう!」

「……龍脈の影響で強力になった魔物のうろつく地でよくもそんなに気楽に言ってくれるなぁ……まず、初期費用はどうなる? 維持費は? 販路は? どこに卸す? どう加工する? 技術はどこから……」

「その辺はロッシュの兄貴モード任せだ!」


 豪快に笑い飛ばすフーシェ。それを見てフミヤは目を閉じて何とも言えない顔になって「それは何も決めてないのと一緒だ……」と嘆いているロッシュに労わりの言葉を投げかける。


「……大変だったね、ロッシュ兄貴……」

「……わかってくれるか。」

「フミ兄様……ココは無視なの?」


 いい加減話に交ぜろとココが軽く怒りの表情で割り込んで来た。しかし、その怒りの表情と言っても基本的に無表情に近い物なので怖くもない。


「ココも大きくなったな~」

「いきなり胸の話? 助平だね……」

「大平原だろうが……」


 胸の辺りで手を組んで身をよじらせるココに思わず真面目に返事をしたフミヤは笑顔のまま殴られた。

 岩をも割る威力のそのパンチを軽く受け止めたフミヤは抗議する。


「そっちが勝手に話題振って来たんだろうが……」

「? 久し振りの兄妹のじゃれ合いでしょ? 加減忘れちゃった? ウチってこんな感じだよ?」


 踏込で抉れた地面を軽く見下ろしてフミヤは軽く苦笑を漏らすと帰って来たなと改めて実感するのだった。


 あぁ、何てイカレた家族だ……と。


「……それで、父さんは……?」

「パパ? パパは大戦後、ずっと落ち込んでたけど……転封が決まって狩りの時間が近付いて来るってなってからは……まぁやっぱり隠しきれないわくわくが伝わってくる。」

「……ホント、ロッシュ兄貴が生まれたのが奇跡だと思える家系だよな……」

「……これからは苦労を分かち合ってもらうぞフミヤ。」


 帰って来て早々、フミヤたちは別天地へと旅に出る準備を開始する羽目になった。





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