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20.王都の動き

 ネフィリスシアの発明の話は即座に王宮内を駆け巡った。一般には快く受け取られた魔具【魔通話】だが宮廷内にてメディシス家と対立している家にとっては面白い物ではない。また、当のメディシス公爵も扱いに少々困る有様だった。


(……有用性は理解できる。だが、ネフィだけが作れるという現状で広まってしまうと……)


 コントロールがし辛くなってしまう。これを避けるために何とか【魔通話】を作れる人材を探して勇者にまで当たったのだが、彼は【魔通話】で何が出来るのかということは知っていてもその原理や作り方は一切しらないようだった。結果、誰にも噂の魔具の謎は解明できなかった。


(これで勇者がネフィのことを更に気に入った、それだけが収穫か……)


 そんな勇者だが、明日から魔族領行きのため、その前に会いたいとネフィリスシアのところに行っている。メディシス公爵としてはそのまま結ばれてほしいところだが父親として見るのであればネフィリスシアは到底受け入れないということは見て分かる。


「まったく……勇者の何が悪いのか。ネフィもそろそろ諦めてほしいところだが……」


 相手として悪い相手ではないだろう。少なくとも、宮廷内をうろついている輩に比べれば妻を幸せにするだけの甲斐性はあるはずだ。メディシス公爵は頑固な娘のことを思いつつ溜息をつくのだった。





 そんな娘のネフィリスシアは今現在、勇者に絡まれて絶賛大不機嫌だ。


「いや、本当に驚いたんだよ。電話……いや無線なのかな? どっちかはよくわかんないけど、この世界でこんなに早く発明されるなんてさ!」

「……ありがとうございます」

「これさえあればいつでも話できるよね、いいな。俺もほしい」


(……うざい……)


 興味のない相手に一方的にまくしたてられているこの時間、ネフィリスシアとしては【魔通話】の量産に努めたい時間なのだが、この男は空気を読んでくれない。それに加えて侍従たちも空気を読まない。


(フミヤだったら……)


 ネフィリスシアがこれほどまでに不快になる前に穏便に相手を追い出していたところだろう。しかし、侍従にはメディシス公爵からネフィリスシアとミヤケの仲を取り持つように言われている。

 父の命あらば例え仕えている当人であるネフィリスシアが会いたくないと言っても枠を無理矢理作ってねじ込む程度の暴挙はやってのけるところだ。


「特に俺なんてさ、よく外に出されてるから連絡が取り辛いんだよ。まぁ魔術使えばできなくもないんだけどね? そんな時にこれが出来るなんて運命的だと思ったよね」

「……魔術があるのでしたら、これは不要かと」

「え? 魔術とこれ、繋げられるの?」

「……そんなこと言ってません……」


 ネフィリスシアは時計を見て遠回しに時間がないことを伝える。ここに来た彼とて直に出発するということで時間はないだろう。来てすぐに時間がないのを縫って会いに来たというアピールを受けたため間違いはないはずだ。しかし、当初彼が言っていた時間を過ぎているというのに彼は帰らない。


「あの、時間……」

「気にしてくれてありがとう。でも、君と話す時間は何物にも代えがたいからさ。」


 とうとう直接言ったネフィリスシアだが、それでも彼は気にしなかった。これは不味いのではないかと控えているメイドに視線を向けるもすげなく無視される。


(あの子、本当に私に仕えている自覚はあるのかしら……!)


 父親直属のメイドとはいえ、ここまで思い通りにならない相手ならば自分で新しい侍従を雇った方が良いのではないか。勇者の自慢話を聞きつつそう思うもメディシス公爵がそんな自由を許すわけがないと自分で却下する。


(いいから早く行ってくれないかしら……)


 彼とて暇ではないはずだ。そう思いながら適当に相槌を打っているといきなり扉が開いて小さな美少女が現れた。


「キリュー様! もう出発の時間過ぎてますよ!」

「シェリー……ノックもなしに入ってくるなよ……」


(失礼なのは間違いないけど、あの子は確か……)


 どうやってここに来たのかは不明だが、彼女は確か勇者の愛人であり元奴隷と噂の少女、シェリルだったはずだ。その身分から無礼な作法ばかりしているが勇者の庇護にあるために咎められず宮廷内で嫌われている人物である。現に、ネフィリスシアの後ろに控えていたメイドも嫌そうな顔をしている。


「ウチのシェリーがご迷惑をおかけしまして……」

「構わないわ。それより、その子が言う通り……」

「……ですね……」


 何かと喚こうとしているシェリルの口を塞いで頭を下げるミヤケ。気まずくなったのかこれまでの勢いは失せてすぐに退室して行った。それを見送ってネフィリスシアが溜息をつくと背後からこちらに聞こえないようにメイドの恨み言が聞こえた。


「勇者様があれほど武勇伝を分かりやすく語って、偉大さを示してくださっているというのに……お嬢様は女を捨てていらっしゃるのでは……?」


(誰が……)


 誰もが同じ人に懸想するとは思わないでほしい。ネフィリスシアはそう吐き捨てたい気分になったが、その時間すら惜しいとばかりに無言で作業に取り掛かるのだった。





 宮廷。その中でもネフィリスシアの発明を最も嫌っている場所。そこにはただ一人の男の姿があった。


「人間どもが……」


 黒褐色の肌に薄紫色の長い髪、一つの目に黄色と青色の配色がされているダイクロイックアイを持つ冷たい美貌の主は怒りを露わにして室内を歩き回っていた。


(15年かけた計画がこれでは頓挫してしまう……北の獣の動きが信用できない今、過去以上の領土を得るために動くべきか……!)


 荒く息を吐いて乱暴に椅子に座る男。ネフィリスシアの開発した【魔通話】は彼らの計画を本気で脅かすものだったのだ。それは現在、檄を飛ばしたのにもかかわらず彼らが本気で動けない理由にも直結した問題に繋がるものである。


(ウエノ家と連携を取られては計画が台無しだ……二面攻撃にて北の獣がウエノ家を抑えている間に領地奪還、並びに侵略を成さなければならないというのに……)


 彼らの計画ではウエノ家を北に追いやった後に同盟を結んでいる魔物、【賢き魔物】と呼ばれる北の集団がそれを抑え、その隙に領地を奪い取るという算段だった。

 だがしかし、その北の魔物たちは動くという連絡だけを残して未だに動きがない。再三、使者を派遣しているのだがまだ時ではないと動かないのだ。

 こうなってしまえば、北の魔物たちのことは信用できない。それに、計画のためとはいえ引くことを強いられていた魔族たちもそろそろ限界を迎える。


(……【魔通話】で緊密な連絡を行うようになる前に、仕掛けるべきだな……)


 男は、計画を断行することに決めた。【魔通話】の有用性は疑う余地もなく、少しケチをつけて設置を遅らせるのが関の山だ。そうなるのであれば不自然に思われないようにある程度促しつつそれ以上の問題で掻き消すことを上策とする。


(それに、丁度勇者が我が同胞たちの盛り返しを鎮圧しに向かうところだ……そこで安心させたところで、食わせてもらうぞ人間ども……!)


 これが最後の通達だ。北の魔物たちに連絡を送り、男は内部からの撹乱に力を注ぎつつ本国へと【魔通話】の危険性の連絡、並びに早期の計画実行を伝えることにした。




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