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15.楽観視

 王都でロッシュが自棄食いをしている頃。新ウエノ領ではココの質問攻めから逃れたフミヤが龍脈の力で強化されたゴブリン、ここで勝手につけた名前ではダークゴブリンと呼ばれるそれと戦っていた。


「ギャッギャッギャ!」

「あー、子鬼たちはようやく寄れば死ぬって学習したか……」


 途中までは近接戦の勘を取り戻すためにまともに戦っていたが、途中からは疲れたので一定値の魔力が陣の中にあることで燃え上がる仕組みの罠をその辺に張り巡らせて手抜きをしていたフミヤ。ゴブリン相手では本来なら陣が起動するまでの魔力がないが、ここにいる強化されたゴブリンたちでは有り余る魔石がその辺に零れるほどのインフレぶりだ。

 そのため、陣から零れ出た魔石を回収して強くなるゴブリンが出ては内部割れして新たな勢力を生み出そうとする。フミヤは面倒なので魔石は最後に回収するタイプのため、群れの下層ゴブリンが姑息に魔石を拾い集めて新たな群れを作ろうとするのにはノータッチだ。


(目に見えて減って来たな……次はどんなのが出てくることやら……)


 ダークゴブリンも減ってきたことでフミヤは溜息をつく。進めば進むほど危険な魔物が出てくる上に相手は賢くなっているのだ。開拓を止めてほしい気分も間違いなくそこにある。しかし今は領土も市場も需要も何もかもが拡大期。下手に規制すると色々と崩れてしまう可能性があるため手を出せない。


「ずっとこのレベルならいいんだけどね……そろそろ交代だし、魔石の回収に入るか」


 フミヤが受け持った時間に終わりが近づく。そうなると頭の中はここに逃げてくる羽目になった出来事が占めるようになる。


(黒歴史が……あ~……あったなぁそう言えば……寧ろ何で忘れてたのか……)


 ナタリアとの出会い方、魔具を通して聞く感じではかなり強烈な出会いのようだったが自分の頭の中に蘇るのは当時の自称勇者としての行動のみ。つまり、自然と忘れたのではなく自分で思い出さないようにしていた中の行動の一つだったということだ。


(あの頃は、俺本気で自分のこと勇者と思ってたからなぁ……今思えば痛い痛い……あぁぁあぁっ! そう言えば色々言ったよ。自意識過剰にもほどがあることをさぁ!)


 思い出して身悶えし、その八つ当たりの様に遠巻きに罠を見ているダークゴブリンを燃やす。子鬼の集団はそれでフミヤには勝てないと判断して撤退していった。


(……あ~思い出すと寒気が……初代の真似をしようとしてたから今から考えるとハーレムを作ろうとしているとも思いかねない……あぁぁあぁっ!)


 当時の自分が行った若気の至りを思い出して爆炎を生み出すフミヤ。逃げていたダークゴブリンは哀れな被害を受けて撤退途中なのに半分が更に死んだ。


「あ……あっちのも拾いに行かないと……」


 領土の内側から交代要員である父親の代に活躍していた騎士団が出てきてフミヤの後ろで集まり始めている。急いで回収を行ってから父親が来る前に代表格の老人に交代の旨を告げてフミヤは後ろに下がる。


「痛ぇよ……うぐ……」

「任せろ! 根性入れて治してやるからな!」

「……できればココ様が……」


 領主館に戻ろうとするフミヤだが、その途中で怪我をした領民と兄であるフーシェが暑苦しいやり取りをしているのを発見し、その光景を見守っているギルド員のタチアナに声をかけてみた。


「……あ、お疲れ様です。フミヤ様……」

「お疲れ。で、アレはどうしたの? 魔物入れなかったはずだけど……」


 何があったのかと尋ねるフミヤに対してタチアナは何とも言えない表情に乾いた笑みを浮かべて答えてくれた。


「地中から大きなミミズのような魔物が出てきまして、怪我をした方が倒したのはいいんですけどミミズの牙でやられたんです……おかしいですよね?」

「……地中か。うーん……そっちは俺よりココの方がいいか」


 タチアナの評価を岩盤のような大地を進んできた魔物に対するものだと思ったフミヤはそう感想を漏らすがタチアナは端正で怜悧な表情を興奮させてフミヤに詰め寄った。


「違います! おかしいのは領民ですよ! 百歩譲って、騎士団の方と領主の方々が魔物を倒すのはわかりますよ? 戦闘員ですから! 領民ですよ? しかも、相手は【竜の眠る地】の魔物! 何で一対一で勝ってるんですか⁉」

「……怪我してるんだから、あんまりそう言うこと言わない方が……」

「私がおかしいんですか⁉ 現物見てないからわからないんですか? 見ても多分理解してもらえないんでしょうね! うぅぅ……どれが常識なのか分からなくなってき始めましたよ……」


 王国領を出る時の自信満々な態度は面影も残していないタチアナ。それはそうと、フミヤからすれば領民と兄、フーシェの全力の抱擁の方が何となく見ていて嫌だ。ガチムチ系の美男子でまだ通る兄が純朴で細身の領民を汚している気がする。


「フミ兄ぃ! 終わったと聞いて探したよ! さぁ続きを聞かせてもらおう!」

「お、ココか……」


 タチアナが常識を確かめるために自分に言い聞かせている小言に付き合いながら兄と領民の割と長い抱擁の図を見ていたフミヤだが、不意に妹から声を掛けられて我に返った。ココの方はお預けを喰らていた犬のように兄の恋愛話を聞こうとしているが、フミヤの方は押し付ける用件があるので慌てない。


「あっちで兄貴に抱きしめられて苦しんでる領民の回復……」

「アレはもうすぐ終わるでしょ。それより!」

「じゃあ、あの人が怪我した理由についてタチアナさんから聞いてその対策頼んだ。地中から魔物が来たらしいから俺よりお前の方が適任だろ」

「……う、チッ! 後で聞かせてもらうから! タチアナさん、疾く説明をば」


 この場の問題をココに押し付けることで様々なことから逃れることに成功したフミヤ。兄妹の内、一人だけで館に戻ると部屋のソファで横になる。


「……あー、黒歴史思い出したくないけどそうも言ってられないよなぁ……」


 何だかいろんな人と関わった記憶がある気がして……そう呟いたがフミヤは違和感を覚えた。しかし、その違和感もすぐに霧消して楽観的な考えが頭を占めることになる。


「でもまぁ、思い出すのはナタリアだけでいいかな……生きて帰った時点でもう確定だろうし。仮に今から領土が潰れるような事態があれば俺は死んでるから考える必要はなし」


 第4王女とはいえ、王家の血筋。現在の領土とウエノ家の力から考えてこのまま成功すれば王家とのつながりを強化する上ではまず、邪魔が入ることはないだろう。王国で王族に逆らえる者など過去のウエノ家か現在権勢を誇っている宮廷魔術師一族のメディシス家……それから軍部の長であるラッツケンプ家くらいなものだ。

 ウエノ家は既に没落。繋がりがあったメディシス家からは凋落するウエノ家は切り捨ての対象となっており、メディシス家と対立しているラッツケンプとは一時期メディシス家の派閥にいたことからかかわりがない。


(王子だったら継承権とかで揉める可能性もあるけど王女だし、7人中4番目。メディシスもラッツケンプもそこまで気にしないだろうから……まぁ、通るだろうなぁ)


 深くは考えないが、そんな気がする。何も知らないフミヤはそう思いつつ魔物狩りで多少疲れたため術式で体を清めてからベッドに入り、少し遅めの昼寝をすることにしたのだった。




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