放課後屋上の日常
ギィーーッ
あれから何度目かわからない屋上の重い鉄の扉を開ける。
初めてあったあの日と変わらない場所で長い髪を相変わらず風に遊ばせている天使こと天宮 悠紀が調律といわれる作業をしていた。
音に気付きヴァイオリンに落としていた視線を上げ、俺に向けると
「こんにちは、白樺くん」
と微笑みながら鈴を転がすような繊細なそれでいてはっきりとした声で挨拶した。
彼女とは基本的に会話はしない
ただ彼女が思うがままに奏でるヴァイオリンの旋律を屋上に寝転がって聞いている
ここだけ緩やかに時間が流れている
自由気ままな音を聞いていると
いつもいつも俺たちは時間に急かされて生きている感じがする。
曲と言う決まった旋律を弾くのではなく自由に音たちを組み合わせる、そんな音色は優しい眠りに誘われる
そんなことを考えながら夢泡沫をさ迷って居ると音が止んだ
「?」
不思議に思ってのろのろとゆっくり目を開けると、いつもより近い距離から真っ直ぐな瞳がこっちを見ていた
俺の隣に座っていると理解するまで少し時間がかかった
いつも一定の距離をおいているから
だからわからなかったんだ
「どうかした?」
ずっと喋っていなかったから少し掠れた声が出た
「白樺くんがあんまり気持ち良さそうに寝てたから少しだけ見てただけです」
そう言うと恥ずかしそうに目を伏せた
よく見ると隣に座っている天宮さんの白い頬がほんのり赤く染まってる
「え、まじ?」
確かにヴァイオリンの音色に聞き惚れていたが、まさか表情に出ているとは思わなかった。
「はい、とても幸せそうな寝顔をしてらっしゃいましたよ」
柔らかい笑顔がこぼれた
ドキッ・・・
なんだろう?
少し胸がモヤモヤする
変だな・・・
君のこともっと知りたいなんて思うなんて
まるで想ってるみたいじゃないか
天使が思っているのは楽器のこと
特にヴァイオリンの事なのに・・・
『思い』と『想い』の違いに
君と俺の心の変化に
気付けない君と俺はまだ
『こども』