天使と約束
「ハァ、ハァ・・・ハァッ」
1階から4階までの階段を駆け上がってきたせいで息が上がる
いつの間にかヴァイオリンの音色は消え果てて静かな放課後になっていた。
俺が右の扉、翔哉が左の扉のドアノブを握り一気に開いた
ギィー
重い鉄の扉を開くと新緑の香りを含んだ風が俺達を一瞬包んで逃げていった
空の明るさに目が慣れて改めて屋上を見ると
だいぶ奥に小柄な影が立っていた
小柄な影は動かなかった
動けなかったのかもしれない
「君がヴァイオリンの精?」
呼び掛けながら近付いていく
近寄るほどに影が明瞭になっていく
腰まである黒い長い髪が風に遊んでいる
「はい」
俯いている少女は観念したように蚊の泣くような返事をした。
パッと顔を上げると
「あの・・・私のことは誰にも言わないでください、お願いします」
さっきとはうって変わった必死な表情と声で訴えた
「なんで?」
あんなに綺麗な音色なのに
人柄が滲み出ている優しい音なのに
そう思った
「私が弾いていると知ったら幻滅する人が居ると思うから・・・だから、噂だけで良いんです。」
彼女は頭を下げた
「だからお願い、言わないで」
気づいたら口走っていた
「誰にも言わないから君が弾いてるとき聞きに来てもいい?」
隣の翔哉がびっくりしている
でも、君の奏でる音色が忘れられないんだ
「えぇ、良いですよ」
彼女は華やかに笑って了承してくれた