5(逆)
それにしたって、なんで俺は喪主を三度も四度もをやってるんだろうな。ははっ。若い頃は結婚式にばかりで、それが一段落すると今度は葬式ばかりになる。なんと云うか、……なんて云うんだろうな。
君たちのお母さんはあまりこっちのことを話していないだろう? でも今回ばかりは無理矢理、引っ張り出した。と云うか、それがマチコばちゃん──大叔母のことを僕らはそう呼んでいたんだけど、君たちから見るともうひとつ上になるから、大々叔母さんになるのかな? 曾お婆さんの妹ってなんて呼ぶんだろう。まぁいいか。マチコばちゃんはちょっと認知症も進んでね。でもはっきり云われたんだ、亜希子を呼べって。
ウチのことは良く知らないよね。五人兄妹だったこととか。ふたりしか残ってないけれども。僕が次男で兄貴が一人に妹三人。亜希子は一番下だ。兄貴は仕事中に倒れてそのままさっさと逝ってしまった。倒れるほんの数日前、一緒に呑んだばかりだったのに。あっけないものだね。仕事一筋、独身だったのは幸いかな。
一番上の妹は生まれてさえ来なかった。僕が君らのお母さんと一周りも違うのは、そんなところかな。
なんかこう聞くとだいぶ酷い家系みたいのようだけど、数字で云うならそう凄いことでもない。慰めにもならないけどね。けれども美紗子だけはちょっと違う。美紗子は亜希子の双子のお姉さんなんだ。つまり君たちの伯母になる。
あの夏、僕と兄貴は青春十八切符で色々と寄り道をして、さんざん遊んだ後で到着した。
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女の子はキヌコと名乗った。
「アキコ」姉が名乗った。「この子はミサコ」
逆なのに。
そっと目配せしてきた姉の口元にはイタズラっこい笑み。助けてくれたのに、そんな態度はどうなのかなってちょっと思った。
キヌコは云った。「盆までお父さんは忙しくてさ。暇してんだ」
「ウチと同じだ」姉が応えた。
三人で手水舎で手を洗って、木陰の石段に並んで腰を降ろした。三人はすぐに仲良くなった。よく話し、よく笑った。思い返すに人気はなく、蝉の声も聞えず、凪いだ空気に包まれて些か肌寒く、夏を締め出したようだった。
キヌコが笑う、姉が笑う、自分も笑う。楽しい時間を疑うことは一片もなかった。また遊ぶ約束をした。再び会うことはなかった。
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「犬歯。糸切り歯」芳彦叔父は続けた。「中には身体改造と云ってね、やすりを使って自分で削って尖らせるひとも居る」
気味悪い、と母は顔を歪める。
「八重歯は鬼歯とも云うんだ。鬼の歯」




