ホットチョコレート
舞台は「真なる終幕」と同じ空間です。
形式は詩形式で書いてあります。
1
カリカリカリ……
カリカリカリ……
カリカリカリ……
カリカリカリ……
パラリ
カリカリカリ……
カリカリカリ……
カリカリカリ……
カリカリカリ……
パラリ
空間に響き渡るのは
文字を紙に綴る音のみ
時折の異音は
望みを映す魔導書の
ページを捲る音
他は無音に等しく
古時計の音すらも
鳴るのを潜めるよう
文字を綴る音
ページを捲る音
二つの異音を鳴らしているのは
空間の主たる人物――
作家としての想造主
彼は物語を書き続けている
寝食すらも忘却して
幾度の物語を紡いだのか
幾度の物語を描いたのか
それは誰にも分からない
2
想造主のいる空間に
新たな音と
鼻孔をくすぐる良い匂いが生じた
それは、想造主の子の一人にして娘でもある
世界の傍観者ヘカテーの
足音だった
彼女の手には一つの盆
盆に乗せられているのは
二つのティーカップ
中身は溶かしたチョコに
温かいミルクで割ったもの
鼻孔をくすぐる良い匂いの正体は
ホットチョコレートだった
それは彼女が
想造主のために作ったもの
身体を暫し休めるために
気分転換をさせるために
想造主の身を案じて作ったのだ
「想造主。休憩したらどうかしら」
「ああ、ヘカテーか。そうだな、ちょうど切りがいいから休憩するか」
ヘカテーの足音と
ホットチョコレートの匂いに
気づいていた想造主は
文字の書き綴りを
切りよく終えて
休憩に入った
3
「ホットチョコレート……ああ、バレンタインだったか」
「いつもの紅茶が良かったかしら?」
「たまには、これでもいいか」
「疲れてる時は、甘いもので補給したほうがいいわ」
「……。それは……私が根を詰めやすいから?」
「少なくとも、自身の身体を省みようとしない人に取っては、補給するべきだわ」
「……耳が痛いとこを言うのはやめてくれ」
「それは失礼」
ヘカテーが微笑み
想造主は苦笑う
「そういえば、私の出番だけども、次はいつ来るのかしら?」
「一応予定はあるけど……」
「今、手がけているものを終えたらになるのかしらね」
「とりあえず、単独でなら二本ある。死神での補足だけど」
「そういえば、賢人もやらないといけないんじゃなかったかしら?」
「そうだった……早くやらなければ」
「ふふ、充分な休憩は取れたでしょうし、私はそろそろお暇するわね」
「ああ、ホットチョコレート、ありがとう」
「……淹れた甲斐があったということね」
ヘカテーは別れ際に
そう呟いた
その言葉は想造主に聞こえたのか
それは誰にも分からない
4
カリカリカリ……
カリカリカリ……
カリカリカリ……
カリカリカリ……
パラリ
カリカリカリ……
カリカリカリ……
カリカリカリ……
カリカリカリ……
パラリ
ヘカテーが去った後
想造主は再び
魔導書を開き
物語を綴り始めた
それは変わることのない有様
いくつもの物語を
孕んでしまったが故に
抱き続けるしかない
ある種の業
想造主は今も休むことなく
魔導書を通して
物語を紡ぎ続けていく――
《終》
……ホワイトデーは、書きかけのヘカテーの話にしよう。
今年は、多少は楽できそうです。
いっそ、季節・企画ものをまとめてみようか?
(個人的な企画を出しても実行に移せない悪い癖)
「約束の断片」のほう頑張ります……。
ではでは




