第六夜 銀杏木の竜の座 第七夜 村の祭りの前の夜
第六夜 銀杏木の竜の座
北の山を流れるラウーマ川を下っていくと、ダーチの村が見えてきます。
村の入り口には大きな銀杏の木があって、村人は皆一度はこの銀杏木に登って村を見下ろしたものでした。
そんなダーチの村の銀杏の木に、青い旅人が登っているのが見えて、隣村から帰ってきたばかりの青年が声をかけました。
「誰だか知らないが、そこの眺めは最高だろう! でも一番てっぺんまで登っちゃいけない。そこは北の山の竜のための場所だから」
青年の声が聞こえたのか、旅人は軽い身のこなしで木から下りてきました。
「竜の座のある木があるのが嬉しくて登ってしまった。君はこの村の人間か?」
「そうだ。この木にはとてもたくさんの銀杏が生るけど、てっぺんの銀杏は採っちゃいけないって言われてる。竜の取り分なんだそうだ。そうやって、来年の豊作を願うんだ」
それは北の山のほど近くにある村々に伝わるお話です。
「元々は竜ではなく森の鳥や動物達のために取っておけと言ったつもりだったんだが」
旅人は笑って呟きますが、青年の耳には届いてないようでした。
「村に泊まれる所はあるだろうか、人を捜しているんだ」
青年はそれならば家に泊まるといいと言って、旅人を招待しました。
人捜しをしているのなら、それも手伝おうと青年は約束しました。
「オレの名前は、ジョウ・レッド」
「私はブルゥ」
二人はようやく名乗りあって、レッドの家へ歩いていきました。
第七夜 村の祭りの前の夜
レッドの家は、広い畑と大きな木というのどかな風景に囲まれていました。
まだ日も高いせいでしょうかお父さんもお母さんもいません。
お父さんはここから山を越えた向こうの町に野菜を売りに出かけていて、明後日帰ってくる予定で、お母さんは、お友達の家で一緒に洋服を作る仕事をしています。
「では、畑は君が一人で面倒見ているのか?」
「耕すのは牛のまろや、馬のカイが手伝ってくれるし、山の竜のお陰で雨も順調に降ってくれる。収穫は父さんも母さんも手伝ってくれるし、一人でやるのは種まきくらいで、大変な事なんて無いさ」
そう言って笑うと、レッドはブルゥにパキラの実で作った果実酒を振る舞いました。
これは、この地方ではめでたいときにしか飲めない貴重なものです。
それを訪ねると、レッドはまた大きく笑いました。
「明日から村の祭りなんだ。だからあんたは運がいい。年に一度の上手い御馳走にもありつける」
一日早くこれを飲んだって事は、母さんには内緒にしてくれと、レッドが片目を瞑ると、ブルゥの顔にも笑みが漏れました。
「ところであんたの捜し人の事を教えてくれないか」
やっとたどり着いた本題です。
ブルゥは腰に下げていた剣を取りだしました。
「この剣を抜ける人物を探している。それがどんな人間で、いくつなのか、男か女かも解らないんだ。これまでいくつもの村や町を捜したけれど見つからない。必ず居るはずなんだが……」
あんたは本当に運がいい! と、レッドは手を叩きました。
「明日は村中の人間が集まる。そこで力自慢大会とでも言って、その剣を抜かせるんだ。もしこの村にお探しの人間が居れば一発だ!」
それは名案だと二人でうなづいた所に、レッドのお母さんが帰ってきました。
「祭りの前にお客さんなんてうれしいねえ、ジョウ、一日早いけどパキラ酒をふるまってあげな。あたしは前夜祭のごちそうだ」
お母さんは気前よくそう言ってブルゥに御馳走を振る舞ってくれました。