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全然返信していませんが、皆さんの感想は大事に読ませていただいてます。嬉しいです、ありがとうございます!
深淵の森の探索で起きた一部のテイハレム国とドルテアナ国の行動を受け、各国はその責を厳しく追及した。
また、2国が秘密裏に手を結び以前から深淵の森へ入っていたと露呈した事も悪かった。
当初、2国を排除した上で深淵の森へ入る部隊への物資のみを提供させる事、確保された資源を援助と言う形のみで配当する事が挙げられた。
それは、困窮する国にとって、物資を渡し代わりに援助と言う名の「管理」をされてしまう事を示していた。
だがここに待ったを掛けたのがバドルデレ帝国であった。
この世界状況の中で不平等を強いれば必ずどこかで歪みが生じる。管理される国から管理する国へ民が流れ出してしまったら、それこそ本末転倒であると説いたのだ。
しかし、犠牲者が出てしまった以上、責を問わない訳にもいかない。
審議の元、テイハレム国はバドルデレ帝国、ドルテアナ国はナルティア王国の「監視役」と共に今後の資源管理を国が行っていく事となった。
「解剖の結果は?」
「仰っていた通り、脳を喰い散らかされておりました。」
捕縛した者達の解剖の任をギースから受けた魔法医学者は、暗がりでも分かる程顔を青ざめさせながら答える。
本来であればそれぞれテイハレム国とドルテアナ国に送還する予定だったが、その道中で全員が死亡すると言う事態に陥ったのだ。
各国の見張りがいる状況での死亡は、送還された後に待つ自分の運命を知っていての自死という事で片づけられた。
勿論、あの異常な状況とその死に疑問を持つ者も多くいたが条約を破り森に入って資源を持ち出していた事は事実である。
真相を追及する時間もテイハレム国とドルテアナ国には無く、これ以上騒ぎ立てるよりもバドルデレ帝国の温情を飲んだ方が良いと判断されたのだった。
また他国もわざわざ自国の利益にもならない事を追求しようとは考えなかった。
ただ、ギースだけはその死の真相を確認する為に、死体を自国に持ち帰り魔法医学に解剖を命じたのだ。
結果、脳から植物の根の様に張り付いた虫型の魔物が出てくる。
「しかし、このような魔物見た事がありませんでした。まさか、動物などはまだしも人間をも操ってしまうとは…。恐怖も何も感じずに訳も分からず行動を強制され、最後は脳を食われてしまうとは何ともゾッとします。痛みを感じないという事が唯一の救いですな…。」
深淵の森で聞こえた声が言っていた通り。
ギースは深淵の森で聞いた声を思い出してた。
女と言うよりは、幼い子供の様な無邪気さを持った少女の様な声だった。
あのような所で女がいる筈もない。人間以外の生き物であり、張り巡らされた先鋭達の感知魔法にも引っかからない力を持っている生き物。
あの時、ソレがいる場所を分かってはいたが警戒する気も追う気にもならなかったのは、あまりにも相手に敵意がなく純粋な好奇心だけが向けられていたからだった。
無意識に頬に触れる。
ー…ばいばい…―
今でも時折、黒い残像が目の奥にチラついた。
「陛下には俺から報告しておこう。…くれぐれも、この事は漏らすな。」
「…は。」
とは言ったものの彼は報告するつもりは無かった。
何故なら既に事の顛末をベフルベーズは把握しているからだ。
今回の原因が、脳に寄生した魔物だという事を知っているのはギースとヴォルフリート、バドルデレ帝国含め一部のナルティア王国の者だけだった。
何故この事態が内密になったのかは言わずもがなである。この世の中、全て助け合い精神だけで成り立つものではない。
果たして、どこからどこまでが思惑通りだったのか。
自分が駒になっている自覚もあるし、実際に汚い事に手を染めた事も片手では足りない。
国への不信感も忠誠も、罪悪感も何もかもギースは感じた事は無かった。
今彼がこの国でベフルベーズに使われているのは全くの偶然であり、もし別の国に生まれていたらその国で同じように生きていただろう。
だが、何故かあの声については誰にも報告する気にはならなかった。
自分の命にすら執着せずただ命令をこなすのみのだった彼は、それが生まれて初めて感じた独占欲とは気づかない。
次に深淵の森に入るのはエイプ月2-3日。約一月後である。
その時には10フィートではなく30フィート以上の範囲で探索を行う予定だ。
次の探索で命が終わるかもしれないが、彼は既に深淵の森へ行く事を待ち望んでいる自分がいる事を感じていた。
くだらない人生に終止符を打つのであれば、あの声が良いとさえ思う。
(次に会った時には、本当に殺されるかもしれないな。…殺されるのであれば、全力で戦う。だがその時は、どうか姿を見せて欲しい。)
灯を反射する窓の外には暗闇が広がっている。
それと同じ色を思いながら、ギースは長い間外を見つめていた。
…一方、そんな男に大重量の思いを馳せられているとは露知らず。
もぐもぐ
「んでさ、思ったわけよ、なぁんかキナ臭いってさ!」
「ぁ…ぁ…。」
もぐもぐ
「あの魔物は本来水辺にしか絶対にいないんだよ。でも、森の水辺はアイツらがいた所よりもっと奥にある。それに、この前森にやってきた男達と似ている雰囲気の奴らにしか寄生していない。」
「ぅぅう…。」
もぐもぐ
「それにさ、ザクだって緊急事態だって言うのに何となく冷静だった。もちろん驚いてはいたようだけど、何かが起こる事だけは分かっていたんじゃないかな…って、聞いてるー?」
「ぅ、ぅぅ、やめ、やめへ…」
全く!私が名探偵コ〇ンばりに名推理をしてるっていうのにアヘアへ?してるばっかでさ。
持っていた頭を抱え直し、その頭と目線を合わせる。
「ねぇ、聞いてるのー?」
「ぁは、あぇえ…?きい…?」
あー、もう駄目かな。
ザク達が帰ったあと、なんだかすごくお腹が空いて私は何かしらをずっと食べている。
今は運悪く私の目に留まったヴァンシーの雄の頭を開いて脳ミソを堪能中だ。
維持魔法と治癒魔法を掛けているから、首だけになって脳ミソを食べられていても死んでいない。
生きたまま、食べられると言う珍しい経験をさせてあげているのだ。
「脳ミソ食べ過ぎて馬鹿になっちゃったか。」
泣きながら笑っている雄が不快になり、寝床にしている大樹の上から地面に投げつる。
下では待ち構えていたかのように何かしらの魔物が食べ残しをバリバリ食べ始めた。
「ぃ、ぃぁぁぁー…ぁ…。」
「さようなら、くれんどらー。」
ちなみに、私の前世の記憶はすごく偏ってるんだ~。
物語がとにかく大好きだったのは覚えてるんだよね。
雄のヴァンシーには魔法をかけたままだったからしばらく唸っていたけど、少ししてまた静かな夜に戻る。
はぁ…食べても食べてもお腹が減る。
大好物のヴァンシーを食べても気分が全く晴れない。何でだろう。
何かが足りない気がしてしまうんだ。
ー…ありがとう…-
「また、会いたいな…。」
言ってからハッとして口を塞ぐ。
私、今なんて言った?会いたい?誰に。
目の奥に赤銅がチラついた。
「会いたい。…私、お前にあいたかったんだ。」
今度は直接ザクと話す事を想像すると、さっきまでの空腹が一気に薄れる。
私、アイツを食べたかったのかもしれない!
だから他のものを食べても満足できなかった。うん、すっきりした!
森はすごく居心地が良いけど、他のヴァンシーだって森の外に出ているし私だって出てみても良いかもしれない!今まで興味がなくて一度も出た事が無かったけど、シャカイベンキョーだって必要だ。
「…よし、私会いに行く!」
そうと決まればすごくワクワクしてきた。
人間が沢山いる所に行った事がないんだもん。
待ってろよ、ザク!
いま会いに行きます!
夜空には瞬く星と赤味がかった丸い月が浮かんでいる。
どことなくあの男を思わせるそれを、私は長い間見つめていた。
浮かれていたからか、そんな私を見つめる紅い目に気づかずに。
イチャイチャまでが遠い…ですが、必ずやってきます。