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6ページ目

ナルティア王国から派遣されたエルフが不可侵協定が結ばれるより以前の森の様子が書かれた文献を広げ、現在の様子を書き加えていく。


文献でしか見た事のない貴重な植物を見る事ができ、だいぶ興奮した様子だ。


俺は手の中にある小さな歯型が付いた赤い実を見つめる。

1回目は偶然かとも思ったが、続けばさすがに偶然とも思えない。


ヴォルフリートは不思議そうにしていたが…。


死と隣り合わせの森で、こんな気持ちになるのは可笑しいだろう。

だが、何とも子供っぽい悪戯に、呆れると同時に可愛らしさを感じてしまう。

さらには俺が実を掴んでしまった事で、どこかへ行ってしまったらしい様子に少々の落胆すら感じている。


「軍司様、その手に持つ実は?」


「ああ、落ちていました。何かの生き物が食べた跡があったので見ておりました。」


記録を付けていた眼鏡のエルフが話しかけてきたので見えるように実を持つ。

見せた途端に眼鏡の奥の目が爛々と光りだす。


「そ、それが落ちていたのですか!!良く見せてください!……やはり、アガラストの実だ!」


エルフに取られそうになるが、さりげなく自分の元へ引く。

なぜか、この小さな歯型が付く実を渡す事に抵抗を感じたからだ。


「アガラストの実とは?何か特別な実なのですか?」


ヴォルフリートが聞く。


「特別ですよ!この実は群生せず見つけることが非常に難しいとされています。食べれば一時的に魔力・体力共に増強され、傷もたちまち治ると言います。……その効果から、先の戦争で使われたとも……軍司様?」


聞きながら、口角が上がっていくのがに気づき堪える。


「こんな貴重な資源がまだ残っているなんて、長きに渡って苦しんだ不作も何とかなるかもしれない。良い報告が出来るな。」


笑いを堪えた俺を見てヴォルフリートが見当違いな事を言うが、そうではない。

こんな貴重な物を悪戯に投げていたとは…。


「10メーニアの距離でこれだけの収穫があるとは喜ばしい事です。この先、森の奥にはどのような資源があるのか楽しみですね。私は、例え危険であってもこれからの調査団にも立候補するつもりです。」


今後、徐々に調査範囲を広げつつ資源量を決め確保していく事になる。

奥に進むにつれ危険度は増し、犠牲無しではいられないだろう。


勿論、国の名誉のために参加する騎士もいる。だがこのエルフは騎士でも魔導士でもなく、長い間深淵の森を研究している学者であり、自らこの調査の参加を立候補した変わり者でもある。


「…よし、ではそろそろ探索を終了し入口に戻ります。ダイレ、各隊に信号を送れ。」


「ハッ!」


探索終了の信号を流すように自部隊の者に言う。

各隊に配置したバドルデレ帝国の騎士同士、魔力を流し連絡を取り合う事になっている。

普段も使用している伝達魔法であり、長文や細かすぎる指示は難しく会話はできないが、簡単な事であれば伝達可能だ。


「………ギース様、第二部隊と連絡が取れません。どうやら、阻害魔法が掛かっています。探索魔法も掛けますか?」


目を瞑りしばらく静かにしていたダイレが目を開け言う。


第二部隊がいるのは、テレハイム国とドルテアナ国の者が多く配置された部隊だ。あからさまに意図された配置ではあったが、陛下からは放っておく様に言われていた。


「いや、俺が掛けよう。」


ダイレの申し出を断り、自ら目を瞑る。


阻害魔法が掛けられているのであれば探索魔法を掛けた場合の罠を用意しているかもしれない。

その上、既に予定された範囲外にいる可能性もあると考えれば現在どれだけの森の深さにいるのか分からない。


普通の魔力量ではそう何度も広い範囲で探索魔法を掛ける事は難しい。

だが俺には問題ない。魔力を使った探索ではないからだ。


目を瞑り集中する。


…………

……


『なにしてんの?』


「!?」


集中し、意識を傾けようとしたその時、すぐ耳元で声を掛けられた。

振り向くが誰もいない。


不思議そうなヴォルフリートがいるだけだ。だが、勿論ヴォルフリートの声では無い。


「どうしたんだ、ギース?」


「…いや…。」


誰にも聞こえておらず、誰も気づいていない。

次はただの態としてもう一度目を瞑った。


『ねぇ、なにしてんの。ねむいの?』


声だと感じたそれは声では無く、ダイレが使ったような伝達魔法のようだ。

だが実際に話しているかのように使われているそれに驚く。


眠いわけではない。NOを伝える。


『違うの?ふーん…もう帰るの?』


再びNOという事と、他の部隊を探している事を伝える。


『あ、そうそう、そいつらの事伝えてあげようと思ったんだ。あのね、そいつら殺し合ってるよ。』


いきなり核心をつく情報だ。


何があった。どこにいる?


『魔物に頭の中へ入られちゃって脳ミソを食い散らかされたんだよ。もうアイツらは駄目だね。()()なると元には戻らない。ただの操り人形で痛覚もなく体力も無くならない。で宿主の魔法は使えちゃう。』


…そんな魔物が…。


『普通水辺にしかいないはずなんだけどね。場所はね、んーと、左の方にまーっ直ぐ行ってぇ、ハミガキコみたいな味の草を右に曲がってぇ。』


待ってくれ。ハミガキコが分からない。


『え?こっちってハミガキコ無いの?じゃあ何で歯磨くの?』


歯はクスクスの葉を煮だして…いや、そうではなく、もう少し分かるように教えて欲しい。


『えぇ~?わがままだなぁ。んー、もう面倒だからこれあげる。…ハイ!』


「ッッ!!!」


ドン!と頭に衝撃が走ったかと思うと、声が言う第二部隊の場所が直接情報として入って来た。

こんな魔法聞いた事がない。


『と言うか、全然驚かないし教えてくれって素直に言っちゃうんだね。私に殺されると思わないの?』


殺すなら、既に入口の時点で殺されているだろう。


『まぁ、たしかに。』


礼を言う。


『ん!ん、んんん…まぁ、うん。気まぐれだし…。』


…ふ、ああ。ありがとう。


『べっつに!!じゃあ、あとは精々がんばればいいよ!』


………

……


存在が遠ざかり、目を開ける。

体の気だるさを感じ、あの存在がきっかけかは分からないが自分も「会話」をしていた事に気づいた。


「ギース、分かったか?」


「ああ。行くぞ。」


声が渡してくれた問題の場所を頭に思い浮かべる。


長いようでほんの短い時間。

ほんの少しの時間の回顧でも、声の言う事に全く疑いを持たず信じている自分がいた。




―――――――――――――――――――――――――




お!いけいけ!そこだ!あぁ、避けられた。惜しい!

あ、だから斬っても無駄なんだよ。死んでないよ、ホラ起き上がった。あぁ~!シムラ後ろ後ろ~!


見下ろした先で繰り広げられる戦いをオーガチップスを食べながら観戦する。

状況はあまり良くないみたい。


まだ大丈夫だけど、体力も無くならない操り人形と限界がある人間達。

ザクの仲間であろう人間達に傷が増え、どんどん動きが遅くなってきている。


ザクは間に合うかな。

間に合ったとしても、果たしてこの状況をどうにか出来るか。


そもそも仲間でもないのに私が言った事を本当に信じたのかな。

あの場では、殺される危険性もあったから信じた振りをした可能性だってある。


そう思うとその可能性の方が大きい気がしてきた。

だって私だったら信じない。


それならそれで良いか。


ー…ありがとう…-


ふと、低く響いた魔力が思い出される。

魔力での会話は言葉ではないから、直接頭の深くに染み渡る。


馬鹿みたいだ。ただの気まぐれにお礼言っちゃってさ。

思い出したそれを追い出すかのように頭を振る。


でも、なぜか消えない。

あの色が、声が、魔力が消えない。



その時、今まさに思い描いていた色が視界の端をよぎる。

チカチカと太陽の光を反射した赤銅の色彩が、しなやかな獣ように木々の間から躍り出てきた。


「ギース様!!」


そのまま1人の人間と剣で競り合っていた男を斬り捨てたザクの後ろから他の騎士達も出てきて、今まさに押されていた人間達が一気に活力を取り戻していく。


「おい!今すぐ武器を下ろして投降しろ!!」


助けに来た騎士達が叫ぶ。

無駄だよ、もう思考も何もないのに。


また躊躇っている内に劣勢になっちゃうのかな。

さっきと同じパターンかと残念に思っていると、正気を失い攻撃しようとしてきた魔族の胸から刃が突き出た。


「な…っ!ギース、なにをしている?!」


「そいつらに説得など通じない!正気に戻る事は無いと思え!!」


……ふぅん、そこも本当に信じちゃうんだ。

助ける手立てがあって、私が言った事が嘘だったらどうするんだろう。


ザクはどんどん敵を斬り捨てていく。


ただ、よく見ると殺してはいない。

立てないようにしているに加え、生み出した魔力を溜めるための器官を的確に壊していっている。


致命傷でも動き続け体力も無くならない。そして宿主の魔法を使える。

ザクは私が言った事を全て信じ、その全てを封じる手を打ってきたのだ。


「既に魔物に侵されて助かる事はない。痛みも感じていないようだから、立てなくした上で魔核を壊していけ。」


「…お前が言うならそうなんだろう…ッハァ!」


ザクの言葉を聞いたキラキラも向かって来た男の一撃を躱すと、素早く相手側に入り足の腱を斬った後胸をを貫く。


「だが、小さな魔核を正確に壊すのは中々困難だな。」


とか言いつつしっかり壊しているんだから、あのキラキラの剣は飾りじゃないみたいだね。


他の戸惑っていた奴らも、ザクとキラキラを見てすぐにそれに倣う。


そこからはあっと言う間だった。

劣勢だったのがまるで噓かのように事態が収束する。


魔物に寄生された奴らを全員生きて捕まえる事は出来なかったみたいだけど、それでも最小限の犠牲だってザクの仲間が言っていた。



こんなことがあって、ザクはこの森が嫌になったかな。怖いと思ったかな。

また、ここへ来るかな。


忙しく他の奴らに指示を飛ばしているザクを見下ろす。


攻撃は一切当たっていなかったけどよく見ると頬に小さな擦り傷がある事に気づいた。

…探知系の魔法は全て遮断しているし、パパッと治すくらいならいいよね。


ザクの横に降り立つ。

よし、気づいていない。


ザクの傷がついた頬に触れるか触れないかくらいに手を伸ばす。

本当ならこんな傷、遠くからでも治せるけど…。なんとなく。


きっとこれが最初で最後。


治癒をかけ、傷が治ったのを見てすぐその場を離れる。


「ばいばい。」


転移する前にザクがこちらを振り返ったのは気のせいだろう。

触れられなかった手のひらが冷たいのも、きっと気のせいだ。



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