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ついにです。
「わーぉ、たくさん来たね。」
少し前に森にいた人間と魔族の団体を全員殺した。
ポチを殺されたし、何より魔物を殺して笑っているアイツらに少しムカついたからだ。
(ポチはもちろん私がきれいに食べた。)
これで少しは静かになるかなと思ったけど、今日この間以上に色々な種族の団体が森に入ってきたのだ。
森の入り口付近にいる奴らはこの間みたいなムカつく感じの奴らもいるけど、それじゃなくてもう少し身なりもちゃんとしている感じの奴らもいる…言いたい事伝わるかな。
「んー、すぐ殺しても良いけど。ちょっと面白そうかも!」
基本一人で過ごしているし、こんなに沢山の魔物じゃない生き物を見るのは初めてだ。
もしかしたら少しはお話できるかも。つまらなかったら殺せば良いしね!
感知魔法が張り巡らされているけど、私の事は感知できないようだ。
ちなみにこれは知られていない事だけど、感知魔法は発動した者の魔力が大きく関係している。魔力が多ければ多いほど感知できる魔力も上がっていく。
つまり、私を感知できないこいつらの魔力は低いってこと。逆を言えば私の魔力が高いってことでもあるけどね。
何で皆こんな簡単な事気づかないのかなー。
「!?」
色々な種族を観察していたその時、肌がピリつき鱗が逆立った。
集団から少し離れたその先を見る。
比較的人間が多い別の集団だ。
他の奴らより体が作られているけど粗暴な感じはせず、身なりが整っている人間が多い。
他が太陽の光を反射する銀の鎧を着ている中、唯一光さえ吸収してしまいそうな黒の鎧を着た男。
赤銅色の目がこちらを見上げていた。
見える筈はない。けど確実にこちらに気づいている。
しばらく見つめ合ったあと、その男は近くにいる金髪の男に話しかけられた事により私から視線を外した。
「…あは、おもしろいなぁ。」
ピリついたけど殺気を出された訳じゃない。
生まれてから意識した事のない心臓の鼓動を初めて意識した。
よし!またいくつかのチームにわかれるみたいだから、赤銅の男について行こう!
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見えはしない。だが確実にそこにいる。
周囲は何の反応もないので感知魔法には掛かっていない。
俺が気づいた事に向こうも気づいたようだ。
肌が焼けつくような視線を感じる。
一歩間違えれば確実にここにいる者達の命は狩られるだろうが、今は「観察」されていると言う事が正しいだろう。
「ギース、どうかしたか?」
「…いや、なんでもない。」
ヴォルフリートに話しかけられ、ソレから視線を外した。
途端に感じていた圧から体が解放される。
見上げた先でこちらを見ているソレが笑ったような気がした。
「では、当初の予定通り分かれて探索を開始する。決して単独行動は許されない。また、資材を勝手に持ち帰る事も重罰に値するので心しておくように。…各隊、団体長の指示に従え。行くぞ。」
他国の軍関係者などもいるが今回は俺が全体の指揮する事になっている。
不満そうな顔はしつつ国からの命令に歯向かうような馬鹿はいないようだ。
各隊森の先へ進み始めた事を確認し、自分の隊も進み始めようと隊列を組ませる。
「ヴォルフリート、分かっているな。何かあったら自分の命を優先しろ。」
「分かっているさ…。お前も、自分をちゃんと守ってくれ。」
ヴォルフリートのその返事に答える事無くもう一度空を見上げる。
そこは既にいつもと変わらない空の様子だった。
「お、動き始めたね~。」
面白いけど、見られたらそれはそれで面倒なので不可視・認識阻害を自分にかける。
チラッとこっちをもう一度見たけど今度は分からなかったみたいだ。
ふむ、3つのチームにわかれて行動するみたいだね。
いったい何しに来たんだろう。赤銅の男は「探索」って言っていたけど。
それぞれに大きく分けると人間・魔族・妖精族・精霊族がいる。
バランスよく配置されているみたいだけど、あからさまに1チームこの間みたいな嫌な感じの奴らが多い所があるな。
赤銅の男の所はやけにキラキラしている人間を囲うように銀の鎧を着た人間達がいる。
ちなみにキラキラは白い鎧だ。(鎧の意味あるのかな?)
皆ピリピリしてるけど、私がついて行っている限り、下手な魔物は寄ってこないはずだよ~。
赤銅の男くらい堂々としていれば良いのにな。
と言うか赤銅の男って長いな。
赤銅…赤……シャク…シャー…シャアザク…よし、赤いし、あの男の事はザクと呼ぼう!
エルフが空間上に文字を沢山出す。なんだか本みたい。
その文字とそこら辺に生えている植物を見て何か書き加えていく。
色々な植物を見て何かすごく興奮にしているみたいだけど、取り敢えず今持っている草は美味しくないぞ。
あ、それは美味しいけど毒あるし。
おっと、それは普通の花に見えるけど実は魔物だよ。
案内してあげたくなっちゃうけど、中々にザクが良い道を選んでいる。
この先に面倒な魔物がいるな~と思うとさり気なくそこを避けるように進んでいるうようだ。
多分、分かってる。
順調でつまらないから少しイタズラしちゃおう。
観察しながらおやつで食べていた木の実を、やけにキラキラした男に投げつける。
コン!
「?」
ぷぷ!頭に木の実が当たった男はキョロキョロと不思議そうに周りを見渡している。
もう一個投げてやれ。
コン!
「?」
また当たった男が今度は空も見上げてキョロキョロしいている
ぷぷぷ!間抜け!
それ、もう一個~
パシッ!
「あ。」
キラキラした男の頭に木の実が当たる直前、後ろに控えていたザクが木の実をキャッチした。
ザクは手の中にある木の実を見た後、こちらを振り返る。
あ!なんだその呆れたような目は!
ちょっとすごいなと思ってやったけど、調子乗るなよ!
なんだか悔しくて、見えていないだろうけどアッカンベーをしてから別のチームがいる所に転移する。
ザクは冗談が通じない男のようだ。モテないな、うん。
転移先にいた別のチームを見下ろす。
ふむ、こっちのチームは妖精族と精霊族が少し多いみたい。
こいつらは美味しいからすっごく好き。
特に妖精族は食べた瞬間、砂糖菓子みたいに口の中で甘く溶ける奴らもいる。
デザートに丁度良い。
…ふむ、ここはつまらn、順調みたいだね。
魔物に襲われたみたいだけどレベルが低いレッドフラワー(人食花)だったみたいだし。
最後のチームの元へと転移する。
こっちも中々に順調……ん?なんだか様子が変だぞ?
「~!……~~!!」
「~~~!!」
あらら、騒がしいな。
少しだけ近づいてみると、人間と魔族VS妖精族と精霊族と一部の人間で揉めているという事が分かった。
既にどちらから何人か血が出てけが人がいる様子だ。
「血迷ったか!これは大きな問題に…グァッ!!!」
「お前達、今すぐその武器をして…ック!」
妖精族が体を斬られ、銀の鎧を着た男が剣を受ける。
攻撃をしている方はこの間森に入っていたような奴らだ。
魔族とちょっと山賊みたいな見た目の人間。
妖精族と精霊族は分かりやすく言えば文系が多いから正直あまり役に立たない。この2種族よりも魔族は魔法が得意だし、銀の鎧達は優秀みたいだけど、魔法が少し苦手みたい。
あ、銀の鎧が1人魔法で燃やされた。
「ひひ…ひひひひ!」
山賊の様な男たちは不快な笑い声をあげて涎を垂らしている。
目がちょっとイッちゃっている感じで気持ち悪い。
魔族の方も目が虚ろで目ん玉が左右反対方向を向いちゃっている奴もいる。
ん…?あー、なるほどね。これは頭の中に入られてるな。
目を凝らすとそいつ等の頭付近から何かの信号のような魔力が一定に発せられている。
深淵の森の水辺付近にいるヒルのような小さな魔物。
獲物の皮膚を食い破り、痛みも無く侵入するそいつは、脳まで行きつくとまるで植物の根のように触手を張り巡らせる。そうなってしまうと後はゆっくりと脳を食い荒らされちゃうんだ。
痛みを感じないように快楽物質を一定の間隔で発信し、宿主が最後の最後まで死なないように操る。なんで殺してから脳を食べないのかと言えば、宿主を操って次の捕食対象まで連れて行かせるためみたい。
食い破った皮膚はすぐに魔物が治しちゃうし、痛みも無く侵入されるのも面倒だけど一番厄介なのは宿主の能力をそのまま使えるっていう所。
私にはそもそも近づいてこないから大丈夫だけど、通常こいつに入られないようにする為には、体に魔力を纏って守るしかない。
精霊族と妖精族は意識せず自然から魔力を吸収できるから、常に薄いベールの様に体の周りに魔力が漂っている。鎧の人間達は身につけている鎧に守護魔法が掛けられているみたいだから無事だったのかもしれない。
というか、そもそも何でこのチームはこんな森の奥に入っちゃっているんだろう?
ザクが森の奥に行っちゃだめって言っていた気がするけど…。
観察している間に人間&魔族の方が優勢になっているように見える。
既に自我もないし斬られて痛みを感じないからだろう。
別に私には関係ないし、逆に普段なら面白がって見ているだけだ。
でも、今日はなんだかソワソワする。
頭に赤銅がよぎって、何だかこのままにしておくのは後味が悪い。
「……ま、まぁ、このままだと何かあれだし。別に、私はこのままでも良いけど。ほら、アイツら自我もなくして気持ち悪いし?またこの間みたいに変な筒使われてもうるさいし?」
誰に聞かせるでもなく早口で呟く。
ヤサシイ私はザクにこの状況を教えてあげるためにもう一度奴の所へ転移した。
別に本当に気まぐれなんだからね!勘違いしないでよね!