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2ページ目

「よし、ポチ取っておいでー!」


声と一緒に私がおおきく振りかぶって投げた骨を大きな犬がすごい速さで追っていく。

ポチはこの間ダースベイ〇ーの音楽で感知したベイウルフのリーダーだ。


ベイウルフは見た目犬(というかオオカミ?)の魔物だ。1匹ごとの強さはそうでもないけど、集団で狩りをするから中々に骨が折れるらしい。

私が相手したベイウルフは50匹くらいだったかな。


この子は他のベイウルフよりも頭が良いのか、割と最初の内に服従のポーズを取ってきた。

暇だったし、たくさん食べてお腹一杯だったからペットにすることにしたんだ。


遠くに投げた骨をポチが銜えて戻って来る。


「よしよしすごいぞポチ!やっぱり仲間の匂いは追いやすいのかな?どれだけ遠くに投げてもちゃんと取ってきて偉いな~。」


鈍色の少し硬い毛をわしゃわしゃとかき混ぜる。

涙目に見えるのはきっと撫でているのが気持ち良いからだろう。


「さ、今度はもっと思いっきりいくぞ!…それ、取ってこーい!!」


軽く魔力を込めて思いっきり投げた骨を慌ててポチが追う。

森の中に消えていくポチを眺めながら腰に下げた袋から無造作に肉を掴み口に放り投げた。


「あ、帰ってきたらこのジャーキーをポチにあげよう。」


食べきれなかったベイウルフをなんちゃってジャーキーにしてみたんだ。

ぶらっくぺっぱーが付いていたら最高だけど、そんなのは無いから素材の味で勝負だ。


ちゅうちゅうとジャーキーを吸ってふやかしてから噛むのが今ハマっている食べ方。

お気に入りの花畑でこうして食べ物を食べているとまるでピクニックみたいで楽しい気分になる。


なんちゃってピクニックを満喫し、ポチを待っていたその時、ポチが走っていったその先から爆音と断末魔が響く。

そしてすぐに土煙が上がり、驚いた鳥が森から飛び立った。


「え、ポチ?」


驚いた拍子に口からジャーキーがこぼれ落ちる。


「あ、あぁぁああぁ~!!!ジャーキーがぁ!!」


大切なおやつが!!

手間暇かけて作ったのに!(まぁ、3秒ルールで食べちゃうんだけども。)


楽しい気分を台無しにされた事に怒りを感じる。

なんだかヴァンシーになって気が短くなったのは気のせいではないだろう。


未だ上がる土煙を睨み、何があったか確認すべく私は花畑から立ち上がった。

あ、それにポチも心配だしね。


―――――――――――――――――――――



濛々とした土煙がマシになると、そこには数多の魔物達が転がっていた。

周囲には焦げくさい、生き物が焼ける匂いが充満している。


「くっそ…気持ち悪ぃ。」


「あぁ、本当に。…だがすごい威力だな。一気に魔物が殺せる。」


「粉々にしてたら意味ねぇだろうがよ。…ったく。」


「まぁ、形が残っているやつらから集められるだけ集めればいいさ。」


30はいるだろうか。

粗暴な風貌の男たちと、細身で黒ずくめの男達。

彼らは転がる魔物から金になる素材を集め次々に袋に詰めていく。


「しかし、国も良い物を作るな。この入れ放題の袋も最高だが、これなんか何もしなくても魔物は殺せるし、あのヴァンシーだって仕留めちまったんだからよ。」


そう言って一見山賊のような男が持ち上げたのは30cmほどの高さがある筒だ。


「おい、気を付けろ。誤爆でもしたら笑えぬ。さっさと素材を剥いで戻るぞ。」


黒ずくめの男に鋭く睨まれた男は鼻白んだ様子で筒を置いた。


それは一見するとただの鉄筒に見える。

だが、これはこの場に散らばる魔物達を殲滅した立派な兵器である。


その仕組みは至極簡単で、安全装置を外し地面に埋め込めば良いだけ。

あとはその上を何かが踏むだけで瞬時に爆発すると言うものだ。単純だが威力は言うまでもない。


100年ほど昔の兵器を改造し、威力は強力に、魔力の消費は少なくさらには軽量化に成功した事で、こうして少人数で深淵の森に入る事が叶ったのだ。


「なんだって薄気味悪い魔族なんかと一緒に任務にあたらなくちゃならねーんだ。」


「その魔族の力を持ってしなければ、お前達はこの森に入ってものの数秒で肉の塊になっている所だぞ。」


「はっ、お前達がした事と言えば俺の国の兵器をいじくり回す事だけだろ。これが無けりゃお前達の方こそこの森に入る度胸くせによ。」


「おい!いい加減にしろ!口を開く暇があるなら手を動かせ。さっきの爆発音でいつ別の魔物がやって来るか分からないだろ。」


「それを見越して第二弾、第三弾って埋めたんだろうがよ。その魔筒の餌食になっている内にこいつらが森の入り口まで転移させる手筈だろ。」


素材拾いを手伝いもしない黒ずくめの男達はどうやら魔族であるらしい。

彼らはまるで追剥ぎのように魔物の死体を漁る粗暴な男達を蔑んだ目で見ている。


「チッ、……お、1匹だから気づかなかったがこいつはベイウルフだな。へへ、使える所は少ないが、爪と牙だけは良い素材になるんだ。…ん?なんで骨なんて銜えていやがるんだ?」


足が一本吹き飛び既にこと切れているベイウルフの口には骨が銜えられていた。


ベイウルフの牙と爪は磨いて加工すれば非常に切れ味の良い武器となる。

魔族の男と言い争いをしていた髭面の男がベイウルフの口から骨を引き抜こうと力を入れた。


だが、骨を引き抜く事は叶わなかった。


なぜなら、骨を掴んでいたはずの男の手は肘から下が無くなり血が噴き出していたからである。


「え…?え、あ…あぎゃああぁあ!!!お、おれの……腕!おれの腕が!!」


男は一瞬何が起きたか理解できない表情で自分の腕があったであろう場所を見て、一拍後に襲う痛みと驚愕に男は叫び声をあげた。


「な!!なにが起きた?!」


「魔筒は反応していないぞ!」


「ベイウルフが生きていたか?!」


周囲に仕掛けた魔筒は起動していない。

魔族の感知魔法も反応を示さなかったのか、黒ずくめの男達も騒がしい。

まさか、事切れたと思っていたがベイウルフが生きており仲間の腕を嚙み千切ったのか。


騒然としたその場の誰しもが気づかなかった。

自分達の中心に女がいる事に。


「ねぇ…何をしているの?」


いつの間にか自分達の中心に、血で毛が濡れたベイウルフをその腕に抱いた黒い襤褸を纏った女が佇んでいたのだ。


「この子は爪と牙だけではなく、その肉も臓物も美味しいのに。毛皮だって硬いけど水を弾くから雨の日に役立つし、皮は靴の素材になる。」


腕の中のベイウルフを撫でていた女がその顔をゆっくり上げた。


「散らばっている魔物達だって、無駄になる所なんてない。ぐちゃぐちゃになった肉片は捨てて、皮だけを、あるいは牙だけを、爪だけをお前たちは奪っていくんだね。」


ありえない状況の中、それでも誰も動けなかったのはゾッとする程の優し気な女の声色からなのか。


その場にいる呆然とした面々が正気に戻ったのは、素材を集めていた人間の内、半数以上がその命を刈り取られ、首を無くした体から血が噴き出した後だった。


「この世は弱肉強食だから殺す事が悪いとは思わない。でも、私のペットに手を出したんだから…死んで?」


正気に戻った魔族が逃げるための転移魔法をかける。

だがそれは一切反応する事は無い。


「な…っ!転移が使えない!!」


「そう、使えない。…お前達を逃がさない。」


叫んだ男の直ぐ耳元で女の声がする。

咄嗟に防御魔法を己に掛けた魔族の反射は誉めるに値するが、そんなものまるで存在しないかのように、後頭部から正面へ貫通した手によって、魔族の男は絶命した。


「ヴァ、ヴァンシーだ!!!!色が違うが、こいつはヴァンシー、ぐぺ…ッ」


女の正体に気づいた男の首がねじ切れ、それに恐れをなして逃げようとした男が己が仕掛けた魔筒を踏み抜き爆発する。


先程魔物を狩っていた時と同じように土煙と血しぶきが舞う中、場違いなほど美しいヴァンシーは笑っていた。


残っている魔族達が己が出せる魔力を合わせ魔法を放とうとするが、それすらも放つ前に消し去られる。

見えない圧力に体と顔が潰され、飛び出した臓物と共に崩れ落ちていく。


気付くと30いた魔族と人間は最初腕を落とされた1人の人間の男を残し全員が元の形が分からない程ぐちゃぐちゃになっていた。


こんな筈ではなかった。

自分はただ不作による貧困から抜け出したかっただけなのに。

魔族と自国が共同で再開発した武器により、深淵の森での資源集めは簡単になった。

最初はいつ死ぬか分からない状況に神経を擦り減らしたが、それも何度かの成功を重ねると慢心が生まれた。


単純な仕掛けの魔筒に吹き飛ぶ魔物を笑い、「悪魔」と恐れられたヴァンシーを殺した時は国の中枢を担う人物から直々にお褒めの言葉をもらい、背筋が震える程の喜びを覚えたのだ。


だが今は全く別の意味で面白い位に震えている。


飛び散った肉片を踏み潰しながらこちらに近づいてい来るその様は間違いなく「悪魔」だった。


「…は、はは、は、あひゃ、ははははっ!!」


もはや男の精神は正常ではいられなかった。

自分に近づいてくる死をただ笑いながら見つめる事しか出来ない。


男の頭を細い指が掴む。


「ばいばい。」




――――深淵の森に入っていた5つの集団がたった一人の生存者を残し全滅した。

その生存者も片腕を無くし更には何が起きたか喋れないほど気が触れてしまっていた。ただただずっと笑っている。


人間側のほとんどは不作地帯の荒くれ者ではあったが、それでも国の軍を任せてる腕が立つ者も中にはいた。魔族側とて転移までできる魔力が高い優秀な人材だった筈だ。

気が触れた男の言葉の断片から憶測するに、その人材が全員殺されるだけの非常に強いヴァンシー()と遭遇してしまったと考えられる。


これだけの犠牲が出たからには再び秘密裡に国家間で手を組んで深淵の森に入る事は難しい。だが自国のみで入る事は不可能だ。


ならば数か月後に控えた国家会議で何とか各国から人員を出させ、資材を手に入れる手筈を整えるしかない。


この考えが自国から出した人員によって裏切られる事をテイハイム国国王デバノはまだ知らない。


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