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自分の世界が数多にある中の1つだと理解している者はどれだけいるだろうか。
どれだけ世界の管理者が存在し、それに値する世界と時間軸がる事。
自分が生まれる世界を選べず、生まれた理由も分からない事を理不尽だと気付いている者は。
これはどこかの世界の、どこかの時代の
残酷非道な美しい化け物とある男の出会いのお話し。
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私はヴァンシーである。名前はまだ無い。
というより人間ですら無い。
いや、姿形は人間に近いけど。
目は爬虫類みたいな瞳孔だし、体にはこれまた爬虫類のような鱗がついている。
戦闘時に鋭く伸ばす事ができる変幻自在な爪や超人的な身体能力、他種族の追随を許さない膨大な魔力。
でも決定的に違うのは超雑食って所。
人間はもちろん、魔族や魔物、精霊族など自分達以外の種族を何でも食べる。基本足がついていて食べないのは机と椅子位だ。(人間は上手いこと言う。)
そしてさらに、ヴァンシーは食べたり殺した者の知識や魔力を吸収出来る。
あ、ヴァンシーって言うのは今の私の種族の事。人間達が勝手に付けた名前だけど、古代語で「悪魔」っていう意味。これは食べた人間の知識から得た。
で、話は戻って、なんでも食べて強くなるって、だから何って感じじゃない?
でもこれが他種族から見ればすごいことなんだ。
何故って、この世界の他種族は殺し合いは出来ても倒した相手の力を吸収することなんて絶対出来ない。
でもそれが私達には出来る。
ヴァンシーは食べれば食べるだけ、殺せば殺すだけ無限に強くなる種族だ。
そして私は輪廻?転生?でそんな種族に生まれた。
全てではないけど前世の記憶があって、元々はチキュウに暮らす黒髪黒目のジョシダイセーだったらしい。
あ、でもだからと言って人間が食べれない!なぁんてことはない。
美味いよ、人間。
プリプリの腸や滑らかな脳みそ、食感が楽しい目玉は大好き。一応血ぃ抜いて焼くよ。ってそう言う問題じゃないか。
基本ヴァンシーは道徳心が無い。
つまり残酷非道。しかもとっても好戦的で力こそ全てな種族なもんだから、弱い人間は格好の遊び道具で美味しい餌。
この間なんて、雄のヴァンシーが村を襲って若い女共は取り敢えず犯し殺して、子供は食べてた。
男共は肉が固いからって言う理由で生きたまま腸を抜かれ崖からバンジーさせてたっけ。(捨てるなんて勿体ない。男は噛みごたえがあってジャーキーにするのに持ってこいなのに。)
腸バンジーは別にやりたくないし、他の奴らと違って手あたり次第食べ散らかすなんてことはしないけど私も戦うことや食べることが大好き。
食物連鎖の頂点、他の種族に恐れられてとっても強いヴァンシーだけど、最近ヴァンシー狩りで結構死んでるみたい。ヴァンシー以外の種族が手を組んでるんだって。
ヴァンシーが危険って言うことも理由だけど、何とかこの森を自分たちのものにしたいってのもある。
私達が住んでる大きな森はこの世界の中心にあって森を囲むように6つの大陸がある。
色々な質・大きさの魔力が混ざり合うこの森でしか採れないレアな物が沢山あるから、ヴァンシーが怖くても皆やって来るんだよね。
ヴァンシーは強いから基本的に皆単独行動だけど、最近ヴァンシー狩りがあるからツルんだりしてるみたいだ。うんうん、用心は大事だね。
とか言ってる私は1人なんだけど。
ツルまないのか? いやぁ…ちょっと問題があって。
私は他のヴァンシーとは少し違う。
本来、私達の特徴は紅目に紅髪だけど私は黒目に紅い爬虫類みたいな瞳孔と黒髪だ。
まぁ、前世の記憶が少しあるって言うのも違うんだけどそれだけじゃなくて。
食べちゃうんだよねぇ。
何って、ヴァンシーを。
ヴァンシーは他種族を食べるけど同族は食べない。ってか食べれない。
食べた者の力を得るって言ったけど、ヴァンシーは個々の魔力が大きすぎて同族を食べると頭破裂するんだって。
何ソレ怖ッ!!!だよね。
多分、他の種族とヴァンシーでは魔力の質や魔力を溜めておく魔核の構造が違うから、他種族だと平気な量でも同族の魔力だと体が耐えられないんじゃないかって私は思っている。まぁ細かいことは気にしないで。
で、私はヴァンシーを食べれる。
共食いだし頭破裂するらしいけど全然平気で、実は一番の好物。
いや、同族だから一応遠慮してるよ!?
ただ生まれたて(基本ヴァンシーは生まれた時から成人の姿だ)はお腹が減りすぎて結構食べちゃったけど。
だから私は生まれたてで普通のヴァンシー以上の力を持ってしまった。
もぅね、凄いよ。
残酷非道なあのヴァンシーが私に会うと青ざめて隠れちゃうんだから。ちょっと悲しい。
仕方無いじゃないか。弱肉強食でしょ?
ってことで今日も今日とて平和なおひとり様だ。
最近見つけたお気に入りの場所で寝転がって木漏れ日を受ける。
周りは鬱蒼としているけど、木が途絶えて小さな花畑になっているここはまるで秘密基地みたい。
この森で目覚めて2年ほど、行動範囲が寝床にしている大樹と、近場の川だったから、こんな穴場があるなんて知らなかった。基本引き籠りだからな!
ひとつ欠伸をしてから完全に寝の体勢に入ろうとしたその時、花畑に大音響の音楽が流れた。
ダダスダッダダ、ダダスダッダダ、ダダダ~ダ~ダン!!
洋画の未来からロボットがやってくる某SF映画の音楽。そしてそれをBGMにアナウンスが流れる。
『只今、4時53分の方向、侵入者を確認致しました。武器所持なし』
お、どうやら昼寝前にかけておいた感知魔法に獲物が引っ掛かったみたいだ。
ターミ○ーターの音楽だったから1体。ちなみに複数ならダース○ーダーの音楽である。
「落とし穴」
特大のね。
『落とし穴完成。落下まで6m』
5、4、6、2、1………
グォオォ!!!
唸り声と大きな地響を聞いてむくりと起き上がる。
小さな花びらを頭を振って落としながら今日の夜ご飯になるであろう獲物が落ちた穴へとルンルン気分で転移した。
「あは、大当たり!」
目の前には直径と深さが10Mはありそうな大穴。
その中で恨めしそうに唸り声を上げながら出てこようともがくオオトカゲ。
『ドメティアオオトカゲ、A級魔物。硬い鱗は剣も通さず口から吐くブレスは盾をも溶かす強酸です。知性は低く時には自分の尻尾を敵と勘違いし食べる事もあり、殺してもしばらく動き回ります。』
「えぇ…自分で食べちゃうって痛くないのかな。」
頭が悪いって可哀そう。
この間食べた人間が持っていたスキルの「鑑定」の説明を聞きながら頭上に大きな槍を作り出す。
鱗が硬いって言ってたから細くてシュッとしているけどとっても固い槍にしよう。
二股に分かれていて禍々しい赤色。刃から持ち手の部分をネジネジにすれば完成。
分かる人には分かるよね。
「じゃ、いっくよー!」
今日の夜ご飯はオオトカゲのソテー!
いくら硬いと言ってもたかがA級の魔物。身を守る鱗は私が作ったロン〇ヌスの槍をムースの様に滑らかに通すだろう。
手を振り上げあとはそれを下ろすだけ。
と、思ったんだけど…
グケ、グケ、グケ、グケゴロロロロロロロ!!!
「わぁああああ!!」
穴を覗いていた私に向ってオオトカゲがゲロを吐いきた!
間一髪で避けたそれは、天高く舞いそして
ぐぎゃぁああああ!!!!!!
吐いた超本人であるオオトカゲがいる穴に全て戻っていった。
『ちなみに、吐いた酸で自らが死ぬ個体もいます』
「そ、そんなぁ~…」
穴の中からジュウジュウと立ち込める煙を見ながら肩を落とす。
さすがに何でも食べるからと言ってこれは食べれない。
とほほ…知性が低すぎるのも考えだな。
力ばかりあってもしょうがない。
それを使いこなさなきゃこの世界では生き残れない。
生まれて2年余りの月日で私はそれを身をもって学んだ。
デーデーデーデーデデーデーデデ~!デーデーデーデーデデーデーデデ~ン!
『只今、12時の方向、侵入者を確認致しました。武器所持なし』
「なんだって?!やったね!」
しかもダースベ〇ダー!私は獲物を逃がさないように直ぐに空を駆けた。
鬱蒼と眼下に広がる森はどこまでも続いているかのように見える。
この森に、この世界に住む数多の種族が喉から手が出るほど欲する物がたくさんある。
私にその価値がわからないけど、賑やかなこの森が私は好き。
ジョシダイセーなんかより、今の方がずっと自由。私はきっと生まれた意味を知っている。
私はヴァンシーである。でも、他とは少しだけ違うヴァンシーである。
人間も、魔物も、そしてヴァンシーも。
全てが私の獲物であり、私の敵だ。
これはどこかの世界の、どこかの時代の
残酷非道な美しい化け物とある男の恋物語