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第一章 06. 其は斯くも無慈悲なハートの女王

 すみませんギャグに走りました\(^O^)/

 あまりにも更新できていないので、とにかく書かないと…ということで、書きました、はい、女王陛下登場でる。ちがった登場です。


 出窓は天井まで届くようなアーチ型で、門のような白い窓枠をしていた。その枠に足をかけ、ひとりの人間が、ひらりと器用に床に降り立つ。かつりと靴音が響く。


 背後から陽の光を受け、均整の取れた体つきが浮かび上がる。逆光で影の落ちる端正な口元が知らず、歪む。



「――――――やっと、か」



 歪んだ笑みが、国の象徴を蔽う。

 





 「―――――――――また、この国に」









     悲劇が訪れる。








   ―――――――――――――茨で囲まれた城で会いましょう (口を付けようなら、首を跳ねて差し上げましょうか)

















「シャンポール城かここは……」


 私の呟きを聞き取ったのか、ぴょこっと白いウサ耳を揺らして白兎はくるっと振り返る。


「なんですって?」

「迷路みたいってことだよ」


 ため息混じりに返すと、うー、と考え込む素振りを見せる。少し斜め上を剥いた紅玉色の瞳が、くるりと回ってもとの位置に戻ってきた。


「女王陛下が、このような構造を気に入っておられまして……何せ冒険大好きなお方ですから」

「まあそれは百歩譲っていいとしよう。でもね、」


 何で城の中に川が流れてんだこんちくしょう。


 というか何で紅い絨毯とか引かれてないんだ。城には高級なレッドカーペットって相場が決まってるだろ。

 本気で迷う……城というよりも、城砦。まるで砦だ。

 白い石造りの外壁。緻密な造りの装飾は、ドイツのノイシュヴァンシュタイン城を思い起こさせる。尤も、私は実物を見たことが無いし、というかシンデレラ城すら行ったことないから勝手なイメージで話している。


 タイルの廊下の脇には、涼しげな風情で水路が彫られている。川のように光を反射し、水面は流れ煌めいている。いや、綺麗というか粋だとは思うんだけど。でもさ、ね? 普通室内というか城内とかそういう中に水を引くとか、あんまりないじゃん? 金持ちの発想っていうか、洗練されていて雅やかだとは思うけどな? まあ要するに、くっそう金持ちめ! ってことである。


 というか城。

 今、私がいるのって城。

 金持ちなのは当り前か。


「………」


 思考回路が支離滅裂だ。余程私は混乱しているらしい。


 それにしても、この城は広い。私が現実(イギリス)で暮らしていた、あのリデル家の屋敷だって大概広かったけれど、これは正しく桁違いだろう。


「ねえ、白兎」

「……僕の名前、覚えてま」「ラビ。この城、妙に人気が無いんじゃないかな」「……確信犯ですね」


 気配を探っても、この冷たい見事な細工の城を、掃除している人間も業務に追われている人間も、私達の近辺には数えるほどもいない。だからあまり城といった感じはしない。どっちかっていうと、世界遺産などの古い屋敷に見学に入った、という感覚だ(白兎は学芸員)。気分は昔に行った修学旅行。


「……広いね」

「ですよね。僕もあまり知らない区域に入る時は地図が手放せません」


 区域。区域ですか。一つの屋敷の中をそんな風に区分してるんですか。本気で博物館かここは。寧ろ美術館。


「繰り返すけど、この城に使用人はいるの?」

「……前は、いたんですけどね。女王様が、数人を残し解雇してしまわれました」


 どう考えても人手足りなさそうなんだけど。


「全員に次の職場を与えてからですけどね。お人よしというかなんというか……」

「人手足りないでしょう」「ええ」


 即答かよ。


「忙しいんですよねほんとー。掃除とかゴミ除去とか清掃とか大掃除とか」

「それみんな同じじゃない?」「だって大変なんですもん」


 確かに。


「年末の大掃除って何日くらいかかる?」

「一ヶ月くらいでしょうかねえ?」


 それじゃ師走に突入した瞬間から大掃除じゃねえかよ。ていうか不思議の国にも年末大掃除はあるんだ。

 こぽこぽと、可愛らしい音を立てて緩やかに流れいく小川。あいにく魚は居ないが、綺麗過ぎる川には魚は生息しないと聞いたことがある。


「白兎」


 話しかけてかえってくるのは勿論満面の笑顔と弾むような「はいアリス、なんですか?」という返事である。


「ねえ、時刻。さっきまであんなに焦ってた癖に、大丈夫なの?」

「ええ、もう三時をとっくに過ぎてしまいましたし。ここは開き直るの一手かと」「問答無用で斬首刑だろ」「そんなことありません、先程跳んで距離を短縮しましたので、もう二十分程遅刻するのを免れることができました」「大して変わらないな。一分でも二十分でも遅刻は遅刻だ廊下に立たされろ」水が一杯入ったバケツを両手に持って。そしてバケツ・ローリングゲーム(バケツ回し)に挑戦して失敗して水浸しになればいいのに。


 なんて暗いことを考えていた罰が当たったのだろうか。突然歩みを止めた白兎の背に、顔から突っ込んだ。これ以上鼻が低くなったらどうしてくれるんだろうか。


「―――――ここです」


 目前には、扉。


 レリーフはトランプのスート。精緻な彫琢。触れることに躊躇いすら覚えるような彫刻。この城は装飾が美しいと思っていたが、分けてもこの扉は飛び抜けて緻密に彫られていた。


 四回のノック。小気味よい音が、廊下に反響する。


 こくっと唾を嚥下し、幾分か緊張した面持ちで白兎が扉の取っ手を握る。一刻の後、蝶番の軋む音を響かせて、戸が開き――――



 金属が激しくぶつかり合う音に、木に銀が喰い込む音。現実のものである風圧と、視界の端にひっかかった飛来物が、私の肌を粟立たせる。

 見れば、開け放たれた右側の扉の中央若干左寄り上部に、湾曲した巨大な刃の武器――俗に言う大鎌という奴が、重力を華麗に無視して突き立っていた。


「遅い」


 ごもっとも。


 室内から響いた極々真っ当な指摘にしかし、白兎は爽やか笑顔全開で返す。


「途中で帽子屋邸に寄って参りましたので。"アリス"は、"女王"より先に"帽子屋"に会うしきたりですし、仕方のないことです」

「まあ道理だな。……って詭弁だろそれ! 正式なルールじゃねえし! 慣例だ悪習だボケが!」


 室内にいた声の主はキレる。まあ妥当なキレ方だろう。


「いいか白兎、身分上では”白兎(補佐官)”より”女王”が上だ! カードは対等でも位は違うって何遍言ったら理解すんだボケ!」


 罵詈雑言叩きつけられながらも、それをとびきりのスマイルで受け流せる白兎はきっと鉄壁のメンタルを持っているに違いない。

 というか、



「……誰?」



 目前―――白兎と向かい合って、引き抜いた大鎌を今にも振るわんと構える青年。――――誰?


 扉の影から容姿を観察するに、とても長身。それに痩躯。胴が短く足が長い。白いシャツの胸元に、細い深紅のリボンを結び、黒いタキシードの様な洋装の美男子。短く刈った散切りの黒髪、切れ長の瞳は赤。白兎よりも濃い―――血の色だ。


「つまりラビ貴様は俺に殺されたいわけだなああん? よく分かったその望み叶えてやろうほらその細い首を差し出せ」

「嫌ですね陛下、ちょっと会わないうちに耄碌されたのでは? 僕の何処がアナタに殺されたいと思ってるドM野郎に見えるんです?」

「貴様言わせておけばっ……言うに事欠いて耄碌だと!? 俺は貴様と同い年だカスが!」


 陛下…………陛下?


「白兎」

「ですから言ってるじゃないですか僕の方が誕生日は遅いって。記憶力落ちたんですか」

「黙れ! たかだか数カ月の違いが脳に影響を及ぼすか!」

「そんなことよりそろそろこの鎌除けてくれません? 邪魔なんですけれど」

「聞け白兎」

「なんですか、アリス?」


 おい、他人と話している最中に後方を向くな。ほら、青年の眼がみるみる据わって……


「死刑だ! こいつの首を切り落とせ! いや俺が切り落とす! 地獄で後悔しろこのドカスが!」

「わわっ、ちょっと、本気ですかぁ!?」


 今まで余裕のあった白兎の雰囲気が一変した。狼狽し、一歩後ずさる。


「黙れ白兎…そうだな、罪状は『偉大なる女王陛下に口答えした罪』だ」


 なんか白兎百回は処刑されていてもおかしくはなさそうなんですが。というか青年、眼が据わっとる。怖い。いやマジで怖い。

 なんだか、私はこういった風景に、何度も立ち会った気がする。その記憶に内心首を傾げながら反芻して、ようやく分かった。


 まるで、私と母のようだ。


 けれどもこれは、どこかがちがう。


 すぐにそう悟った。私たちの関係とは、彼らの関係は、なにか決定的に違うものがあるのだ。そしてそれは、私がどうしても手に入れられない、なにかのような気がする。


 私がどうしても******、なにかのような気が、


「ほーら最期に何か言い遺したいことはあるか。言え、三秒以内に。いーち、にーい、さー…」

「ままま待ってください陛下! アリスを連れてきたんですよ、少しは待ってくださいよお!」


 その台詞の効果は絶大だった。少なくとも、少し前に私に見せた超絶美麗笑顔ほどには。


「”アリス”、を………」


 はた、と、振り上げた兇器をそのまま止め(下ろせよ)、青年は呟く。


「"アリス"が……? いるんだな、そこに?」


 いえ私はアリスではありません、と言える勇気は私には無い。扉の陰に身を隠してはいるが、どうも隠れおおせるせることは不可能そうだ。

 私は、スカートの裾を整えると、ゆっくりと足を踏み出した。


 ――――ビタッ


 金属が柔らかい壁に張り付くような音―――ナイフが、私の頬のすぐ隣の扉に、突き立つ音。私の頭部の高さに飛んできたナイフは、柄の部分がくすんだ金色をした飾り用だった。これをこうも投げられるとは、投げた人は一体どんな技術を持っているのだろう。屋敷の客間に置いてあったそれは少なくとも、人が投げられる重量ではなかったはずなのに。


「ほほう」


 嘲笑めいた笑みを浮かべながら、その青年は声を上げる。しかし、その嗤いは私に向けられたものではなかった。


「ラビ。貴様こそ、随分と腕が鈍ったようではないか。たかだかナイフ一本如き、反応できんとはな」

「……お言葉ですが陛下。彼女はとても運動神経がよろしい様子なので、敢えて何もしなかったのです」


 しかし、そう返す白兎の表情には、少々分かりやすすぎる虚勢が浮かんでいた。


「そう怒らないであげてください。こいt…この人は意外に単純バk…単細b…ええと、素直だから、頭に血が上ってただけなんです」

「………ラビ。お前、あんなか弱そうな少女にフォローされて恥ずかしくないのか?」

「…………一生の不覚です」


 失礼な。女だからってなめないでほしいものだ。


「素晴らしいな、アリス。当たらないように加減はしておいたつもりだったんだが」


 拍手をしながら、青年は私の方へ歩み寄ってくる。確かに、飛んできたナイフは私の顔の右横へ逸れた。私が身をかわさなくとも、致命傷には成りえなかったはずだ。


 母の癇癪に堪えていた頃の杵柄、だろうか。

 だとしたらあのひとも何かの役には立つのね、と、少し自嘲も込めて苦笑する。


 青年は長い脚を、私の二メートルほど手前で止めて、不敵な笑みを浮かべた。


 正直言って、心臓がばくばくばくばくしてて本当にビビってたりするんだけど。私の取り柄は感情を顔に出さないことである。がんばって笑顔を作って、声が震えないように深呼吸をして、


「お褒めいただき、光栄の至りで御座います、陛下」


 白兎のように無礼な態度はとらない、非の打ち所のないように跪き、頭を垂れる。陛下は、国の総てを統治なさる方だ。私の国でも、国の政治は女王陛下が執り行っている。尊敬と敬愛と、畏怖の対象。高貴と権威と、国の象徴。


「顔を上げろ、アリス。お前は、この世界で俺よりも位が高いんだからな」


 ……一人称が「俺」で三人称は「陛下」。察するに、王様、なのだろうか?

 あれ、でも。

 陛下は華麗かつ無駄のない動きで、鮮やかに頭を垂れる。熟練の執事のように嫌みのないその仕草に、わずかに微笑のような色を浮かべた柘榴石(ガーネット)の瞳がまたたいた。



「申し遅れました、客人(アリス)。我が名はロザリオ。”不思議の国”の”ハートの女王”だ。以後、お見知りおきを、」



 Ms.Alice…? と、ほんの少し悪戯っぽく私の目を見つめた彼―――彼女? は、耳に心地よいハスキーな声色で、優美に名乗った。ロザリオ。アンティックの十字架と同じ名だ。


 私はその十字の名を冠した陛下のご尊顔を、恐れ多くも拝見(観察)する。


 こうして間近で見れば、本当に美形だ。レイピアの切っ先すら思わせる眼差しに、濃いピジョン・ブラッドにも見える虹彩。抜けるように白い肌と、(ジャパン)のような短い黒髪が好対照で、まっすぐに通った鼻筋といい、きれいな倒卵形の輪郭といい、そして均整のとれた野生動物を思わせる(もっとも、先ほど出逢った青紫色の獣とはまた別の意味で、だが。)体躯といい、まさしく正統派の騎士のような美貌だった。


 で、しかし。


 どうしても、どうしてもわからなかったので、私は覚悟を決めて、顔をあげた陛下に声をかけた。



「失礼ですが、陛下」

「なんだ」


 首を傾けた彼(彼女)に、私は恐る恐る、口を開く。



「大変失礼なこととは重々承知でおりますが、陛下の御性別は?」



 …………………空気が凍った。



 彼の後ろで、白兎がムンクの『叫び』と化している。"陛下"の表情がごっそり抜け落ちる。まさしく能面のような無表情。


 あ、これ死んだわ。


 あっさりと生への未練を断ち切った私に、陛下の宣告が下される。



「…………………………白兎」



 あれ、私じゃない?


「貴様……教えてなかったのか?」

「あ、アリスぅぅッ!」


 悪い白兎。女王陛下って聞いてたんだけど、すっかり忘れてた。だって外見が外見だし。


「白兎………お前は一度死ぬべきだ」

「アリス―――ッ!」


 白兎の悲鳴に、私は耳を塞ぐ。聞いてはいけない……あれは亡霊の誘いだ。そのおぞましき悪魔の呼び声を聞いた人間は最後、地獄へ連れていかれてしまうのだ。はい、分かりました天の声! 絶対聞きません!


「あーりーす――――っ………」


 悲鳴が突然途切れた。剣呑な金属音が、彼が声を出せるような余裕のないことを如実に示している。


「アリス。お前の勘違いの原因は殺してやるからな? お前に罪はないんだ。悪いのは全てこのカスだからな?」


 陛下。なんだか笑顔なのに後方に炎が見えます。幻覚かな。というか、怒りのヴェクタをを無理やり白兎に向けているとしか思えない。実際の責任、私の方が大きいと思うのだが。


「アリス! 助けてください! さっきのナイフは!?」

「……私にあの式典用のナイフを投げろと?」


 無理です。という意味を込めて瞑目し、白兎に手を合わせる。声にならない悲鳴が響く。いやでも、あれは本当に無理。普通に投げられません。ていうか闘えません。ましてや、巨大な鎌と相対するには。人の肌くらいなら、斬ろうと思えば斬れるけど。


「だそうだ。というわけで潔く死ね、白兎」

「陛下! お待ちくださいマジで!」


 敬語とタメ口が混ざっている。なんというか、新鮮だ。

 口元の笑みをさらに(怖い感じに)深めた女王陛下は、そのまま鎌を振り上げ、宙を切るように脇から短く構え、切りつける。


「おおお落ち着いてくださいっ! 衛兵は!?」

「ああ兵か? あいつらは今稽古じゃないか? ふっははははははは! お前の味方は誰もいないぞさあ潔くGo to hellッ!」


 女王陛下、どう考えてもそれは悪役の笑い方です。



「さあ、白兎―――――お終いの鐘だ」



 銀の刃が、振り下ろされた。









 その日、城内には今までかつてないほどの規模の白兎の断末魔が響いたという。

 アリスさんの母国はちなみに、作中でも表記されているようにイギリスです。だから作中では登場人物はみんなイギリス英語を使っていらっしゃいます。アーイカーンフラーイ!!←落ちつけ

陛下の容姿は落ち着いたらアップします。結構目つき悪い設定ですよ……^^;


◆◇◆↓女王様設定画描きました。マジでごめんなさいひどいです<(_ _)>

http://5638.mitemin.net/i53682/

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