序章
その時彼女は、森の中をひたすら走り続けていた。
母親に手を引かれて....
「ねえ、お母さん。私たちいつまで走らなきゃいけないの?」
幼い少女が母親を見上げてそう言った。その少女の名はアスラ・トーステッドといい、当時六歳だった彼女は、そのとき何が起こっているのか全くわかっていなかった。
「もう少しよアスラ...もう少し....」
母親はそう言うと、アスラの手をきつく握り締めた。走ることをやめずに...
「そこまでだ!アスカ・トーステッド!!」
その親子の行く手を阻むかのように、黒いローブを着た男たちが数人...アスラたちのの前に立ち塞がり、やがて取り囲んでいく。アスカは足を止めると唇を噛んだ。
(ここまでか....でもこの子だけは!)
アスカは、アスラを守るように前に立つとその男たちを見つめた。
「大人しく我々に同行すれば、娘は見逃してやろう...」
「...わかりました。でも、これだけは約束してください...今すぐこの子を逃がすこと...そして、これ以上巻き込まないであげて..お願いです。」
「いいだろう...最後に娘に言い残すことはないか?」
黒ローブの男の一人がそう言うと、アスラを指し示した。
「アスラ...お母さん、少しだけこの人達とお話があるの。先行っててくれる?」
アスカは、アスラの前で身をかがめると彼女の肩に優しく手を置くと穏やかな表情と声でそう言った。幼い彼女を不安にさせないためだ。
「いや!お母さんと一緒じゃないと!!」
「すぐ行くから...ね?」
優しくアスラの頭をなでると、アスカはそう言った。
「わかった....」
「いい子ね。それから...絶対に立ち止まったり、振り向いたりしてはだめよ?ただ走りなさい...わかった?」
「うん...」
しばらくして、アスラは戸惑っていたがすぐに走り去って行った。立ち止まらず、振り向かずにただひたすら走り続けていた。しかし、この時彼女は気づいていた...二度と母親と会うことが出来ないことを...それでも立ち止まらずに走り続けた。
「絶対に仇を討つから....いつか必ず...」
わずか六歳の少女は、そのときそう決意した。それから、十年の月日が経った....
初めての投稿です。この話はずっと昔に書いたものなので、結構読みにくいかもしれませんが、それでも最後まで読んでいただけたらうれしく思います。