門の脇に柊と南天を植えた家で
しいな ここみ様企画「冬のホラー企画4」参加作品です。
お題は「あの子」。
何か甘い匂いがすると思ったら、もう柊の花が咲く時期なんだな。向こうの家の南天も、もう赤い実を付けている。懐かしいな、俺が昔住んでた家も、門のところに柊と南天を植えていたんだ。
そうそう、どちらも魔除けだよ。柊の棘と南天の実の赤が、邪悪なものを寄せ付けないんだってさ。
でも、母さんは門の柊の棘にお気に入りの服を引っ掛けていたから、せめて柊は門のところじゃなくて庭の鬼門の方角に植え替えられないか、ってぼやいてたな。あと、忌々しそうによく言ってたよ。
「ちっとも魔除けの効果なんてありゃしないのに」
どうしてそう決め付けられるのかって?
うん、古い家なら多かれ少なかれあると思うんだけどさ、ウチも、割と出る家だったんだよ。
何が、って?
幽霊だか、妖怪だか、何かそういうものがさ。いや、普通、古い家なんて、そういうものだろう?
え、違うのか。それなら、お前のいう通りなんだろうな。
何が出るのかって言われてもな……。俺自身は見たことも聞いたこともないからなぁ。
家に爺さんと婆さんしかいない時に、二人して茶の間で謡曲を聞いていたら、廊下を歩く足音が聞こえたとか。
母さんが珍しく会社の仕事が休みだった日、爺さんと婆さんが出掛けたんで、台所に茶菓子を用意して、ちょっと一息つこうとしたところで、郵便配達員が何か届けに来て、ほんの少しの間だけその場を離れたら、戻った時にはもう茶菓子がなくなっていたとか。
叔父貴夫婦が赤ん坊連れて遊びに来たら、赤ん坊が誰もいないはずのところを見て笑ったとか。
飼ってた犬が庭で、まるで誰か家族の一人と遊んでるみたいに、お座りやお手の仕草を繰り返してた、とかさ。
うん、特に実害はなかったけど、他所から嫁いできた母さんにとっては、充分に気味が悪かったんだろうな。
それで、俺はどうなんだって?
いや、だから言ったろ、そんな不思議な何かなんて見たことも聞いたこともないんだって。
ああ、でもそうだなぁ……。
俺ってさ、他に兄弟がいなかったから、風邪引いて熱がある時なんかは家の中で一人で遊ぶしかなかったんだよな。
大人しく寝てろよ、って?
それはそうなんだけどさ、熱が四十度出た後で三十八度まで下がると、なんか妙に楽になって、遊びたくならないか?
俺はそういう時、座敷に布団を敷いてもらって、円筒形のストーブの中で赤々と火が燃えているのを眺めたり、枕元に持って来たミニカーとか、おもちゃの恐竜とかで冒険映画のワンシーンを再現したりしてた。空のマッチ箱におはじき一つ入れてさ、古代の石板、とか言って。
なんでおはじきなんか持ってるんだって?
元から家にあったんだよ。もしかすると婆さんのだったのかもな。父さんも叔父貴もおはじきに興味はなかったらしいけど、婆さんはおはじき遊びに詳しかったから。……俺は父さんたちと一緒で、そこまでおはじき遊びに興味はなかったな。キラキラして綺麗だとは思っていたけど。
それで、気が済んだら寝るんだけど、そういう時の夢に、決まっておかっぱの女の子が出て来るんだよ。毎回同じ子なんだけど、現実に会ったことは一度もない。でも、向こうはこっちをよく知ってるし、俺も夢の中では、その子が家にいるのが当たり前だと思ってた。
それから俺が高校に入る頃に、家を建て替えることになってさ。家族で集まって、この家での思い出を話してた。当然、この家で起こった不思議なことも話題になった。そしたら皆、心当たりがあるみたいで、あんなことがあった、こんなことがあったって言うわけ。それで、俺が何も言わないからさ、叔父貴が聞いてきたんだよ、お前はどうなんだ、って。
俺は正直に言ったよ、不思議なものを見たことも、妙なものを聞いたこともないって。
そしたらさ。婆さんが不思議そうに言ったんだ。
「あら、アンタはしょっちゅうあの子と遊んでいたじゃないか」
いや、誓って俺は家では一人で遊んでいたんだよ。
でもさ、父さんの上に、本当なら伯母さんがいたってことを知ったのもその時だった。面識はないし、父さんも叔父貴も会ったことはないんだそうだ。何しろ、父さんが生まれる二年前に、四つで亡くなったそうだからさ。
うん、俺の体験はそれだけなんだ。大した話じゃないだろ?
幼馴染から聞いた話を二割ほど参考にしました。昔、そのお家に遊びに行ったことも二度ほどあるのですが……。夏でもひんやりしたお家だったな、ということしか覚えていません。




