第11話 賞金首
「まずは、私の仕事から。私は確かに商人よ。だけど……“表じゃ扱えないもの”を扱う仕事をしてる。いわゆる――闇商人ね」
「闇……」
剣聖の言っていた通りだ。
「そう。武器や薬品、禁制素材の密輸から傭兵の派遣まで幅広くね」
「お、おぉ……」
思ったよりも悪党! 絶対に前の世界じゃ交わらないタイプの人種だな……。
てことは、俺はなんか怪しい荷物の取引現場に居合わされたってことか……教会の中にいた人も悪人だったのかな。
そりゃ剣聖も俺が悪と決めつけるわな……。
「君を助けたのは、君に”商品”としての価値を見出したから」
「商品……?」
「何も知らなそうな表情、高価そうな服、汚れていない身体……これは、確実に温室育ちだと、そう確信したわけ。ということは、確実に身分の高い人間……上手く恩を売れば、貴族や大商会の血族であればパイプが作れるし、官僚の関連であれば王政に噛めるかもしれない。悪くない善行だと思ったの」
そりゃそうだ、闇商人とも呼ばれ懸賞金もかけられるような人が、ただの一般人の俺を簡単に助けるわけもない。そこには絶対に損得勘定があるはずだ。でなければ、ただの良い人になってしまう。
「けど、君が生き残ったという事実。私の観察眼が濁ってたってことね。君は勇気と覚悟を持っていた。生き残るために策を弄せる頭があった」
「……大袈裟ですよ、本当に。何度も言いますけど、助けてもらってないと死んでたわけで……だから、理由はどうあれ感謝してますよ」
「そう、ありがとう。それで、今後なんだけど……」
そう、重要なのは今後だ。
スローライフを送るなら、やっぱりまず必要なのはお金。であれば、冒険者は外せない。
「はい、俺は改めて王都に行ってみようかと。そこで冒険者なんか初めてみようかなって」
まさにそれこそ異世界ライフ!
この生得魔法や、今回の経験を活用すれば、無双とは言わなくても俺の求める、自由な生活が待っているはずだ。それは、前の世界みたいに正解がないからこそできる、俺の新しい人生だ。
「あーっと……」
しかし、ユーナさんはなにやら歯切れ悪く声を漏らし、顔が少し気まずそうに曇る。
えぇ……なんか不安なんですけど。
「……どうしました?」
「実は、君が眠っている間にね……」
そういって、ユーナさんは俺に一枚の紙を渡す。
羊皮紙って奴だろうか。少しくすんだその紙を裏返してみる。
するとそこには、俺の名前と、おそらく俺を模したであろうイラストが書かれていた。
ナイフを持ち、一丁前に目の高さで構えている。意外と上手く書けてるじゃん。
「上手いですね。ユーナさんが書いたんですか? 結構絵心ありますね。画家とかいいんじゃないですか?」
「いや、そのイラストの下を見て」
「下……?」
視線を落とすと、そこには俺の名前と何やら0が連なる数字が記載されていた。
「えーっと……"紙刃の回避"ライカ…………100,000ゴールド!?」
え……!? これって……まさかこれって……。
「まさか……賞金首ってやつですか……?」
ユーナさんは、なんとも気まずそうにうなずく。
「な……なんで俺が!?!?!?」
嘘だろ……俺の……スローライスが……。
しかも10万ゴールドって……。
「……ちなみに、10万ゴールドってどれくらいですか……?」
「まあ……騎馬一頭くらいかな、騎士が使うね」
わかんねえ……。
「10ゴールドは?」
「10? まあ、パン1つとかじゃない? ……本当に知らないの?」
怪訝な顔をするユーナさんに、俺はあはは……と適当に笑顔でごまかす。
この世界の物価はよくわからないけど、パンが日本円で100円くらいとしたら……大体1ゴールド10円くらいかな……?
つまり、俺の懸賞金は日本円で約……100万円!?
「え、それって……結構やばくないですか?」
そうね。とユーナさんは同意する。
「賞金首はその額で脅威、禍種、大禍、国崩に分類されるわ。この額はギリギリ禍種級に分類されるわ、大出世ね」
「そんなところで出世しても嬉しく無いんですけど…….なんでこんな高いんですか俺!?」
「おそらく、私の警戒度が高いせいで額が跳ね上がってるわね。もちろん、剣聖を相手に生き延びたという実績も加味されているはず。この額は、それだけ剣聖が君を意識しているという証明でもあるわ。まぁ、妥当な額ね」
これが部活動で他校から意識されてるとかならハッピーなんだが、今回ばかりはまったくもってうれしくない。
「禍種級ともなると、騎士団の評価としては単独で小規模な村ひとつ壊滅させるくらいの脅威、ってのが一般的な基準ね」
「過大評価過ぎる……そんな破壊力俺にないですよ……。もしかして、結構狙われますか……?」
「覚悟しておく必要はあるかもね。脅威と禍種の下の方は、賞金稼ぎからすれば難易度的にローリスクハイリターンの商品だから」
「商品って……彼らにとっちゃ、俺たちは動く金貨ですか」
「まさにね。倒せば金貨を落とす魔物ってとこかしら」
おいおい、完全にRPGのモンスターじゃねえか。主人公たちもこうして金策してたのかね、本当は……。
「ライカは違うけど、少なくとも私たちは犯罪者だからね。そんな連中、全うな人間からすればそんなものでしょ」
「達観してますね……」
「自分の行為に自覚的なだけよ」
俺は改めて手配書を見る。異世界にきて、まさかいきなり指名手配とか……。
というか、俺は誤解なのに……。描いていた異世界生活が、すでに崩壊しそうだよ。