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 「ねえ、早く。」

 

 少女を追ってやって来たのは、たくさんの丸太とロー

 プで造られたアスレチックコースだった。

 たくさんの子供たちに混じって飛んだり跳ねたりする

 少女は、‘一緒にやろうと’手招きする。

 正直とても恥ずかしかったけれど、少しでも玲菜の事

 を聞き出そうと僕も仕方なく丸太の上を飛び回る。

 途中何度も玲菜についての質問をしたけれど、少女の

 耳は相変わらず都合の悪い事は聞こえないらしく、

 ただ笑ってコースを駆け回るだけだった。


 「ほら見て、上手でしょう。」


 丸太の道を器用にバランスをとりながら渡りきると、

 満面の笑みを浮かべる。

 

 「あのさ、君はいったい誰なの?」

 

 その問いにも答えようとしない少女に、僕は続ける。


 「名前ぐらい教えてくれたっていいだろ?」


 「遥花はるか。」

 

 僕の質問に初めて答えてくれた少女は‘ほら行くよ’

 と言ってまた遊びの世界に戻っていった。

 

 初めに受けた印象どおり、遥花はとても元気で活発な

 だった。

 遥花は小さな子供しか持ち合わせていないはずの、遊

 びに対する体力と探究心を持っている様に感じられた。

 何度も階段を駆け上がって、何度も大きな坂を滑り落

 ちる遥花の姿は、周りの子供たちと同化していてあま

 り違和感を感じなかった。

 時々バランスを崩して転がり落ちると、そのたび僕の

 方を見て大きな声で笑って見せる遥花を見ていると、

 まさに無邪気という言葉がぴったりで、その見た目以

 上に幼い印象を受けた。


 一通りアスレチックを楽しむと、次に遥花が向かった

 のは人工の池だった。

 

 「あっ、なんかいるよ。 何あれ?」


 「鯉だよ。」


 「あれは?」


 「あれは・・・鮒かな。」


 「あれは?」


 次々と水辺の生物を指さして問う遥花はそれに満足

 すると、水面を静かに泳ぐカルガモの親子を追いか

 けるように池の周りを駆け回った。

 その姿が僕にはとても危なっかしく思えて、遥花の

 後ろについて回った。

 本当に小さな子供の子守でもしている気分だった。

 無邪気過ぎる遥花に僕はいつの間にか振り回されて

 いたけれど、一緒に時間を過ごすにつれて、その可

 憐な魅力に引きつけられた僕は、一瞬ではあったけ

 れど一年前の痛みから解放された。

 

 走り回って体力も無くなりかけた頃、公園はうっす

 らとオレンジ色に染まり始め、人の姿も疎らになっ

 ていた。

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