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 そのメールが届いたのは、もうお昼も近くなってから

 だった。

  

 相変わらずぼんやりと天井を見つめる僕の頭上で、携

 帯電話の着信音が鳴った。

 もともと今日は、誰の誘いも受けるつもりはなかった

 けれど、何気なく携帯を見てみると、それは見覚えの

 無いアドレスからの短く他愛もないメールだった。


 ””””””

  久しぶりだね。 元気してた?


  良かったら連絡く下さい。

 ””””””


 きっと、最近知り合ってアドレスを交換したの内の

 誰かなんだろうと想像することができたけれど、今の

 僕にはどうでも良い事で返事も返さずに携帯を閉じた。

 それから十分ほど過ぎたころ、同じアドレスから再び

 メールが届いた。

 それは、一通目と同様に短くて単純な文章であったけ

 れど、僕を驚愕させるには十分な内容だった。


 ””””””

  今ね、あの公園にいるの。


  リナリアが可愛く咲いてるよ。

 ””””””


 「玲菜。」

 

 思わずその名前を口にしてしまったけれど、もうひと

 つの感情が真っ向からそれを否定する。

 そんなはずはない、アドレスだって違うし、きっと誰

 かの趣味の悪い悪戯に決まってる。

 そうだ、そんなはず無いんだ、だって彼女は自分から

 いなくなったんだから。

 もしも、もしも彼女だったとしても、今さら連絡がき

 たって何も変わることは無いのに。

 彼女を否定する気持ちは次第に強くなっていったけれど、

 それと比例するように、僕の胸の鼓動はどんどん速く

 なっていた。

 それから間もなくして三通目のメールが届いた。


 ””””””

  良かったらこれから会えないかな?


  ずっとまってるよ。

 ””””””


 このメールを見てすぐに、僕の足は公園の方へと向か

 っていた。

 反発する気持ちは強かったけれど、‘確かめなくちゃ

 いけない’という思いの方がそれをはるかに上回っていた。

  

 

 公園に向かう電車の中、僕の頭の中は自分自身に向け

 られるたくさんの疑問であふれていたけれど、僕はそ

 のいずれにも答えを見出すことは出来なかった。 


 

 公園に着くと、僕は‘広場’の方に足早に向かった。

 ‘広場’には、週末とあってかたくさんの人の姿があ

 り、早速僕はその中から玲菜の姿を探し始めた。

 子供を抱いた母親が、一瞬玲菜に見えて息をのんだけ

 れど、すぐに幻覚だと気づいて胸を撫で下ろした。

 僕は、ひとしきり辺りを見渡したけれど、玲菜の姿を

 見つけることは出来ないでいた。

 

 「やっと来てくれた。」


 それでも繰り返し辺りを窺う僕の背中の方で、独り言

 とも聞こえる一言が聞こえてきた。

 高鳴る鼓動を抑えきれないまま、僕は声の方へと、振

 り返った。

 

 

 そこには、まだあどけなさが残る一人の少女が立っていた。

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