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4月7日
温かな陽気に街中が包まれ、多くの人々がこれから目の当た
りにする新しい世界へと期待いっぱいに踏み出していく頃、
僕の温もりに満ちた季節は、突然終わりを告げた。
””””””
尚人へ
ごめん。 もう傷つけたくないから・・
いままでありがと。 さようなら
””””””
ちょうど一年前のこの日に一通のメールを残して、彼女
は僕の前から姿を消した。
一見見たところ何かに脅えてでもいるようなつぶらな瞳、
肩より少し伸びた髪は、その一本一本が細く繊細で小さ
くまとまり、胸元の膨らみも控えめで体全体が華奢で小
彼女を、初めて目にした時の印象は、‘おとなしくて、
あまり目立たない娘’だった。
メイクも薄くほとんどしていることすら分からないほど
であった彼女は、オシャレに余念がない同年代の女の子
達から比べると随分と幼く見えて、そのことがより一層
‘目立たない存在’に感じさせたのかもしれなかった。
それでも、控えめな彼女の身体のパーツや仕草の一つ一
つからは、神秘的とも思える清潔感を感させる何かがあ
り、まるで彼女の周り半径三十センチほどの狭い空間は、
とても温かく澄みきっているように感じられた。
もっとも、その不思議な魅力に気づくまでには、随分と
時間を必要としたのだけれど ・・・。