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 家に戻ってからも、遥花の言葉が頭の中に浮かんでは

 僕の胸を強く痛めた。

 

 ‘あなたはどうしたいの?’

 

 自分がどうしたいか本当は分かっていたはずだった。

 それでも僕はこの一年で、心の奥にそれを押し込んだ

 まま気づかないふりをしていた、玲菜に再会してからも

 ずっと・・・。


 部屋で悶々と時間をやり過ごしていると、携帯の着信音

 が鳴った。


 ””””””

      ねえ、あそぼうよ!


      公園で待ってるよ。

 ””””””


 それはあの時と同じ、登録の無いアドレスからの短くて

 簡単な内容のメールだったけれど、今の僕には誰からの

 メールなのか知る事が出来た。

 

 「仕方ないな・・。」 


 独り言を言いながらも、僕はすぐに公園へと足を向けた。

 遥花と接するとそのたび激しく胸を刺激されたけれど、

 何故だか僕は、彼女の事がとても愛らしく思えてその誘

 いを拒む事は出来なかった。


 公園に着くと、休日だというのに不思議と人の姿がほと

 んどなかったので、遥花を見つけるのはそう時間がかか

 らないと思った。

 しかし、僕は暫く公園を探し回ったけれど、遥花を見つ

 ける事が出来ないでいた。

 それでも仕方なく、歩きながら辺りを窺う僕の前に現れ

 たのは玲菜だった。

 

 「怜奈。」


 再び突然の再開に驚きながらも僕が声をかけると、こち

 らに気づいた彼女は驚いた表情を見せる。

 

 「どうしたの?」


 「あの子に呼ばれて来たんだけど、見当たらないんだ。」


 「遥花ちゃん? 私も呼ばれたから来たんだけど・・。」

 

 そう言って、改めて周りを見渡す僕たちではあったけれど、 

 遥花の姿を見つける事はできなかった。


 「あの子はどんななの?」


 「私もあんまり深くは知らないの。 一ヶ月くらい前に突

 然姿を見せて、それから何となく一緒に暮らすようになったの。」


 突然現れた少女、それは僕の時と同じだった。 


 「そういえばさっき、あの本屋に行ってきたよ。 怜奈が

 好きな花、あの子に見せてもらったよ。」


 そう言うと怜奈は戸惑ったような表情を見せると、俯いて

 何か考えるようなそぶりを見せる。

 

 暫く時間をおいてから怜奈が重い口を開く。


 「何も聞かないんだね・・・、あの時の事・・・。」


 僕は何も言わずに怜奈を見つめると、彼女は続ける。


 「尚人に逢ったら、きっとすごく責められると思ってた。

 私は勝手にあなたの前から逃げ出したんだから。」


 「もういいんだよ。」


 「ごめん・・・、私・・・、」


 何かを伝えようと、必死で言葉を探す怜奈の声を遮る様

 に僕は言う。


 「なあ、あれから玲菜は本当に幸せだった?」


 驚いて僕を見る怜奈に続ける。


 「俺は、全然幸せじゃ無かったよ・・。 一人になって

 色々頑張ったけど、やっぱり怜奈がいてくれないと俺は

 幸せにはなれないって分かったよ。」


 僕がそう言うと、怜奈は再び俯いて‘ごめん’と小さな

 声で言うと、大粒の涙をこぼし始めた。

 その涙は、まるで何かの結界でも解かれたかの様な勢い

 で、怜奈の頬を幾つも流れ落ちた。

 僕は涙で大きく震える怜奈の体を、包み込むように正面

 から彼女を抱きしめた。

 僕の胸の中で肩を震わせる怜奈は、ようやく振り絞った

 小さな声でまた一言‘ごめん・・。’と言う。


 「もうどこにも行かないでほしい。 ずっと俺のそばに

 いてくれないか?」


 僕がそう語りかけると、怜奈は更に激しく嗚咽する。

 怜奈は何も答えなかったけれど、涙をぬぐっていた手を

 頬から離すと、僕の背中にその手を回して、静かに僕に

 抱きついた。

 

 僕は怜奈が泣きやむまで、いつまでも怜奈を抱きしめていた。


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