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その場所は、僕の住む町から電車の駅で二つ離れた
ところにあった。
僕がその町を訪れたのは、次の日の午後になってか
らだった。
遥花と公園中を走り回った僕は疲れ果て、目が覚め
ると既にお昼をまわっていた。
遥花から渡された手紙、それはきっと玲菜に繋がる
ものと思われ、僕は今の玲菜がどんな生活をしてい
るのかとても興味があった。
その場所に近づくと、幾つもの店が立ち並ぶ通りに
たどり着いた。
‘美山商店街’そう書かれた看板が掲げられた入口
に足を踏み入れると、食欲を刺激される匂いがどこ
からともなく漂ってきた。
匂いの元をたどるとそこには、小さな精肉店があり
店先で煙をたてながら焼鳥を焼いていた。
その斜め向かいには、いかにも‘おふくろの味’と
いった、きんぴらゴボウや肉じゃがが並ぶ家庭的な
雰囲気の総菜屋があった。
ここは、たくさんの人で賑わってるわけでは無かっ
たけれど、一人一人の生きるエネルギーを感じさせ
る場所だった。
そんな中で僕の探す店は、商店街も終わりに近づく
とても奥にあった。
吉沢書店と屋根に控えめに書かれたその建物は、と
手も小さな造りの店だった。
僕が、一般的な雑誌や漫画が必要最小限に並べられ
た店の前から中を覗くと、狭い店内には百科事典の
ような大きくて分厚い本やとても古そうな本が、所
狭しと並べられていた。
「何かお探しかい?」
中を窺う僕に話しかけてきたのは、おそらくこの店の
店主と思われる七十代くらいの老婦だった。
その老父は、突然話しかけられて動揺する僕を、訝る
ように一瞥すると続ける。
「玲菜が目当てなら帰んな。」
心の中を見透かすようなその言葉に、さらに動揺する
僕が何か言葉を探していると、店の奥から聞き覚えの
ある声が響いてくる。
「私のお客さんだよ。」
そう言って現れたのは遥花だった。
「あんたのお客さんかい? あたしはてっきり、あの
子たちと一緒かと思ったよ。」
「あの子たち?」
「この店にはね、たいして本に興味も無いのに、玲菜
ちゃん目当てに通ってくる男の人たちがたくさんいる
んだよ。」
そう言うと遥花は二コリと微笑む。
「うちの看板娘だからね。 売上にも繋がってたから
助かったんだけどね。」
「玲菜がここで働いてるんですか。」
自慢げに話す老婦に、僕は尋ねる。
「もういないよ。 あんたが来る少し前に出て行ったよ。」
そう言うと老婦は、行先は知らないと言った。
僕に逢わなくなってから、玲菜は僕の知らないこの町
で多くの時間を過ごしていた。
僕の住む町から電車で僅か十分のこんなすぐそばで・・。
僕が訪れた時には、既に玲菜はどこかにいなくなっていた。
近くに居るのに、絶対に重なることの無い時間、僕は
とても歯がゆくて悔しい気持ちで一杯だった。
「ねえ、見せたいものがあるの。 来て。」
そう言って手招きする遥花の後を、僕は黙ってついて行った。