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 二人の姿が見えなくなってからも、暫くその場所を離

 れる事が出来ずにいた僕は、 帰りの電車に乗り込む

 のにも、ある程度の時間を必要とした。

 電車の中、僕は一日の出来事に思いを巡らせていた。

 今日という日は一年前とは少し趣が違っていたけれど、

 同じように特別な日である事は間違い無かった。

 もう訪れる事は無いと思っていたあの場所で、遥花と

 いう不思議な少女に出会った、これがすべての始まり

 だった。

 彼女はいったい誰なのか、玲菜とはどんな関係なのか、

 何故僕のアドレスを知っていたのか、様々な疑問がす

 べて未解決のままだった。

 僕の事については、玲菜から聞いていたのかも知れな

 いと予測できたけれど、遥花は僕を初めて見るもっと

 以前から僕のすべてを知っている様な不思議な雰囲気

 を感じさせた。

 結局、遥花については思慮をめぐらせるほど、分から

 ない事ばかりで何も答えが見いだせなかった。

 ただ遥花とのであいによって、僕の心が大きく掻き乱

 されたのは確かだった。 

 玲菜との再会、これも遥花との出会いがもたらしたものだ

 った。

 ただ僕自身、この再会自体が何か特別な意味を持つと

 は、全く思わななかった。

 玲菜の存在を感じ、彼女の思いを知る、そして再会した。

 確かに胸の鼓動が速くなって、その奥深い所がとても熱

 く熱を帯びた。

 それでも僕らの関係は既に終わっていたし、また玲菜に

 ついて何も知ることが無いまま、僕たちはそれぞれの世

 界に戻ったのだから・・・。

 そうなんだ、今日という特別な日があってもそれはきっ

 と過去の思い出が一つか二つ増えただけで、明日になれ

 ばまた元の世界に戻っていくだけなんだから・・・・、

 僕も玲菜も、そして遥花も。

 

 電車の窓から見える町並みはいつもと何ら変わる事が無

 く、静かに僕を本来居るべき場所へと運んでくれている。

 運命だとかいう大層な名前をしたやつが、僕の帰りを待

 っているのだから。


 

 駅に着くと改めて今日一日、何の栄養も摂っていなかっ

 た事を思い知らされて、僕は近くの自動販売機でその場

 しのぎの栄養を補給することにした。

 僕はポケットから財布を出そうとすると、足元に何か白

 いものが落ちるのが見える。

 僕は疲れた体を屈めて拾ってみると、それは別れ際遥花

 が僕の手に握らせた、四つ折りになった白い紙だった。

 あの時、僕の心理のすべてが玲菜に向かっていたために、

 それを無意識の内にポケットに入れると、今までその存

 在をすっかり忘れていた。


 僕はその紙を開いてみると、そこにはあの時のメールと

 同じ、短くて平易な文章が書かれていた。



      吉沢書店


        東柏町美山148-9


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