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心地好い律動で漂っていた風の流れが、その規則性
を乱し始めたのは、僕が玲菜と時間を過ごすように
なって半年が過ぎてからの事だった。
その頃僕は仕事がとても忙しくなり、休日も返上で
出勤することが多くなっていた。
玲菜との時間は前のようにたくさんはつくることは
出来なかったけれど、共有できる時間はお互いに楽
しく過ごす事が出来ていた。
そんな日々の中、僕には新たに会社に入社してきた
一人の女性の教育係と言う、もう一つの仕事が与え
られた。
必然的に僕とその女性は、一緒に行動を共にするこ
とが多くなり、玲菜との時間はさらに少なくなった。
それでも僕たちは、限られた時間の中で今までどお
りのいい関係を築く事が出来ていたはずだった。
少なくとも僕はそう思っていた・・。
ある昼休み、僕は何とか時間に余裕をつ来る事が出
来たので、久しぶりに公園に向かった。
公園に着くと、いつものように花を見る玲菜の姿が
あったけれど、その日の彼女は、とても悲しげで思
いつめた表情をしていた。
「玲菜。」
声をかけると、取り繕って笑顔を見せる玲菜の目頭
が、僕には濡れているように見えた。
「どうしたんだよ?」
「なんでもないの。」
そう言って玲菜は僕から顔を逸らす。
「何でも無い訳ないだろ。」
「ほんとに何でも無いの・・・。ただ・・・。」
「ただ?」
僕はその先の言葉を促したけれど、玲菜は黙ったま
まそれを口にすることは無かった。
本当は分かっていた。
逢えない時間だけじゃない、仕事とはいえ他の女性
と共にする時間、交わす言葉が増えていく。
他のカップルなら当然喧嘩の種になる事であっただ
ろうし、それは正当な理由として保障されるべきも
のでもあった。
しかも玲菜は、実際にそれを目の当たりにしていた
んだから・・・。
きっと、つらい思いをしていたんだと思う。
それでも玲菜は、最後まで何も言おうとはしなかった。
何も言わなかったけれど、彼女の愛くるしい笑顔は
ほとんど見れなくなっていった。
僕は、何か不安に思う事があるのなら言ってほしかっ
たし、僕に不満があるのなら、それをぶつけてほしか
った。
そしたら、誤解を解く事も出来たし、玲菜を癒す事も
出来たと思う。
玲菜はそのチャンスさえも与えてくれないで、僕の前
からいなくなった・・・。
・・・・・傷つけたくないと・・・・・
傷つけていたのは僕の方だったのに・・。
それでも玲菜は、僕の幸せを願っていた。