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 「あのさ、そろそろ帰んないと。」


 遥花は何も言わなかったけれど、僕の目にはその表情

 が一瞬曇った様に映った。


 「ああっ!」


 少し間があってから、公園の片隅を見つめた遥花が驚

 嘆の声を上げる。


 「ねえ、見て。 リナリアが咲いてるよ。かわいい。」


 時間が一気に巻き戻ったようだった。

 今ここに居るのは遥花で、その容姿も性格も玲菜には全

 く似ていなかったけれど、僕の目の前の空間だけは、あ

 の時の光景がそのままに再現されているようだった。

 玲菜の温かで澄んだ空間に久しぶりに触れた様な気がし

 て、僕は胸が熱くなるのを感じた。

 出来る事なら僕は、この幻想の世界にいつまでも触れて

 いたいと思った。

 

 「あ、かすみ草・・・・。」

 

 そう言って、白とピンクの小さな花びらの群れを見つめ

 ていた遥花は、今までに見せなかった真剣な表情で僕を

 見つめて言う。

 

 「かすみ草の花言葉知ってる?」


 その表情で一気に現実世界に戻された僕は、その余韻か

 ら何も口に出せなかった。

 

 「切なる願い。」

 

 そう言って遥花はかすみ草に視線を戻して続ける。


 「私にはね、一つ願い事があるの。」


 「願い事?」


 「うん。 でもね、自分ではどうする事も出来ないの。」

 

 そう言うと、遥花はもう一度僕を見つめる。


 「ねえ、今あなたは幸せ?」

 

 思いもよらない質問だった。

 あの日以来、僕はずっと前をだけ見てきたし、仕事もプ

 ライベートも人並み以上の成果を上げてきたと、ずっと

 思っていた。

 それでも遥花から向けられた問いに、僕は何も答える事

 が出来なかった。


 「玲菜ちゃん、いつも心配してたんだよ。」


 「玲菜が?」


 「あなたには幸せになってほしいって・・。」


 僕の幸せ・・・・?

 

 玲菜と過ごしていたあの頃、もし同じ質問をされたら僕

 は、はっきりYESと答えていただろう。

 僕の幸せの中心には玲菜がいて、玲菜のいない幸せなん

 てあるはずが無かった。

 一年前のあの日、玲菜は僕の前から突然いなくなって、

 それなのに、僕の幸せを望んでいる。


 今僕は、幸せでは無かった・・・。

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