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麻薬

「謎の怪人たちといえば、実は昨夜も、トリューマン邸に出没しましてな」


「トリューマン……?

 さて、聞いたことがあったような、ないような……」


 ダントの言葉に対し、カリスはあえてとぼけてみせた。

 トリューマンという男は、それなりの地位にあるとはいえ、王都金庫院のイチ役人に過ぎない。

 通常、第一王子という立場にある人間が、そんな役人一人一人について覚えているはずもないのだから、これは極めて自然な反応である。


「王都金庫院の役人で、いわゆる法服貴族でしてな。

 もっとも、この頃は郊外へ囲った愛人宅で寝泊まりしていて、屋敷には帰っていなかったようですが」


「浮気は男の甲斐性、という性質の人間なわけだ。

 そのような人間の屋敷に噂の怪人が出たということは、愛人を養うため裏金にでも手を付けていたか?」


「いや、今回は、そのような話ではないのです」


 空とぼけて呼び水を使ってやると、あごひげにさわったダントが続きを話す。


「愛人宅へ通う父の留守を預かっていたドラ息子が、問題でしてな。

 夜な夜な、屋敷へ知り合いの若者を招いては、享楽的な宴にふけっていた」


 ――享楽的な宴。


 いかにも持って回った言い方に、苦笑いを浮かべた。

 あのくらいの若者たちが、しかもあんなものまで使っていたのだから、どのような宴であったのかなど、考えるかでもないことだ。

 が、そんなことを自分が知っていてはおかしいため、神妙に続きをうながす。


「で、気持ちを盛り上げるためにですな、クスリを用いていた。

 いや、ハッキリ言ってしまうと、麻薬を使うパーティーであったわけです。

 ただし、そのドラ息子本人は麻薬を使っていなかったようですが……」


「何も知らず無警戒な若者が遊び目的で集められ、クスリによって染め上げられ、それなしではいられなくなる……。

 後は、クスリの対価として存分に絞り上げてもよし、そやつの父親なりに働きかけさせ、何か便宜を図らせてもよしというわけか。

 なかなかどうして、救えぬ悪党だな」


「いかにも。

 手下も含め、クスリの被害者以外は皆殺しとなっていました」


 葡萄酒で喉を潤しながら、ダントが思い出すようにつぶやく。

 人手不足の王都自警団であるし、この様子を見た限りでは、ダント自らも朝から検分に立ち会ったのだろう。


「と、なると、問題の本質はクスリの出どころだな。

 まさか、ドラ息子本人が栽培していたということはあるまい」


「はっ……!

 いかにも、そこが肝要であると考え、調査に乗り出している次第です。

 一体、かの息子はどこからクスリを仕入れていたのか……」


「まだ、目星はついてないのか?」


「まだですなあ。

 こういった悪事に手を染める小僧ですから、裏の世界でもそこそこの付き合いがあったようですし」


「そうなると、さすがのお前でもそう簡単にクスリの出どころを探れるものではない、ということか……」


 そこまで言って、カリスもグラスの水を一口含んだ。

 正直、少し当てにしていたところはあるのだが……。

 やはり、世の中というのは、そう簡単にいくものではないらしい。


「これよりは、自警団総出で寝ずに駆け回り、クスリがどこから出てきたか探り当てる所存です。

 何しろ、裏との付き合いがあったとはいえ、たかが役人のせがれが仕入れられたクスリですからな。

 こんなものは、まだまだ序の口……」


「放っておけば、王都中にクスリが蔓延するやもしれぬわけか……」


「そうまでいかずとも、要職に就く人間がトリコとなるだけで、(まつりごと)はままならなくなるでしょうから、な」


「うむ……」


 ダントとうなずき合い……。

 半ば、昨夜の事件に関する報告会となった昼食は、お開きとなる。

 その間、カリスの目である少女は、ただ背後に控えて感覚器としての役割に徹していたが……。

 そうしながらも、真に『目』としての決意を抱いてくれていると、異体同心に感じるカリスであった。


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