それぞれの道——再会の誓い
森の静寂の中、ゼルガスはゆっくりと体を起こした。
「……本当に、助かったぜ」
まだ完全ではないが、レイシュナの癒やしの魔法のおかげで、動けるほどには回復していた。
「また無理しないでよ」
レイシュナは腕を組みながら、じっと彼を見つめた。
その視線には心配と、ほんの少しの名残惜しさがにじんでいる。
「……で、これからどうするの?」
ゼルガスはしばらく沈黙した後、意を決したように口を開いた。
「——俺の魔力を取り戻す」
レイシュナは驚いたように目を瞬かせた。
「魔力を取り戻すって……そんなことできるの?」
「ああ。——心当たりがある」
ゼルガスは遠くを見つめるように言った。
「昔の知り合いに、竜人がいる。強大な魔力を持っているだけではなく、その力の源を見極める術に長けている。そいつのもとへ行けば、何かわかるかもしれない」
「竜人……?」
レイシュナは少し考え込んだ。
竜人族は古の時代から血脈を保つ強靭な戦士集団であり、人間とも魔族とも異なる独自の文化を持っている。
その一族にゼルガスの旧友がいるということは、彼の力の一端を改めて感じさせた。
一方で、レイシュナ自身もやるべきことがあった。
「……私は、王都に戻るわ」
「王都?」
「魔王討伐の依頼主——『報復王』に、ゼルガスが魔王としての力を失ったこと、そして新たな脅威であるヴァルグレムが復活したこと……それを報告しないと」
ゼルガスはその名を聞いて、わずかに眉をひそめた。
「……報復王、か」
彼もまた、悪名高き人物だった。
戦場で復讐を果たすことを信条とし、敵に容赦のない冷酷な王として知られている。
ゼルガスが魔王だった頃も、最も執拗に彼の討伐を命じていたのがその男だった。
「大丈夫なのか? 報復王は俺の生存を知ったら黙っていないだろう」
「……分かってる。でも、いずれは知れることだし、嘘をつくのは嫌」
レイシュナは強い意志を込めて言った。
ゼルガスは少し考えたが、やがて小さく笑った。
「お前らしいな」
レイシュナは少しムッとしながらも、彼の言葉を否定しなかった。
そして——
二人は互いに向き合った。
それほど長くない旅路だったが、当たり前に隣にいた存在から離れることに妙な寂しさが感じられた。
「生きて戻れよ?」
ゼルガスが冗談めかして言った。
「そっちこそ。魔力取り戻して戻ってこないと、迎えに行くわよ?」
レイシュナが微笑むと、ゼルガスは少し驚いたように彼女を見つめ——そして、フッと笑った。
「約束だ」
二人は拳を軽く合わせると、それぞれの目的地へ向かい歩き出した。
再会を心に誓いながら——。