「焦熱の征服者」と「氷葬の覇王」——絶望の共闘
崩壊した城塞の瓦礫の上で、氷の王が静かに立っていた。
ヴァルグレム——「氷葬の覇王」。
かつてゼルガスが討ち滅ぼし、その存在を封じた最悪の魔王が、今この場で復活を迎えた。
周囲の大気は凍りつき、床には霜が張り、空は白銀に染まる。
その中心にたたずむヴァルグレムの瞳には、冷徹な光が宿っていた。
「ふふ……貴様が私の封印を解くとはな、意外だったぞゼルガス」
ヴァルグレムは笑った。
その声は氷の刃のように鋭く、冷たく、威圧感に満ちていた。
「どうした?焦熱の征服者よ。先ほどまでの覇気はどこへ消えた?」
ゼルガスは奥歯を噛み締めた。
(……クソッ……)
魔力がほとんど残っていないことは誰の目にも明らかだった。
魔王の座を奪われた今のゼルガスは、かつてのような圧倒的な魔術を使うことはできない。
そして——隣に立つレイシュナもまた、ゼルガスを討つために全力を出し尽くしていた。
「……ゼルガス」
レイシュナがかすれた声で呟く。
その手には聖剣が握られているが、すでに光はほとんど失われていた。
彼女自身も満身創痍である。
このまま戦えば、命を落とすのは間違いない。
「……退くぞ」
ゼルガスが言った。
「は……?」
レイシュナが驚いたようにゼルガスを見た。
しかし、彼の表情は真剣だった。
「今の俺たちじゃ、ヴァルグレムに勝てない。全滅するだけだ」
「でも……!」
「お前も知ってるはずだ、レイシュナ」
ゼルガスはレイシュナの腕を引き、後方に下がった。
ヴァルグレムはそれを見て、冷笑を止めた。
「フフ……逃げるか。さすがの貴様も、この状況では私には勝てぬと悟ったか」
「……ああ、負けを認めるさ——今はな」
ゼルガスはいまいましげに吐き捨てて、レイシュナと共に全力で走り出した。
崩壊した城の廊下を駆け抜け、瓦礫の隙間を縫うように逃げた。
だが——
「逃がすと思うか?」
ヴァルグレムが軽く手を振った瞬間——氷の槍が無数に出現し、二人に向かって放たれた。
「っっっ!!」
ガスゼルはとっさにレイシュナをかばい、拳を振って槍を弾く。
しかし、魔力を失った今の彼には、完全に防ぐ力はない。
一本の氷の槍が、ゼルガスの肩を深く貫いていた。
「ゼルガス!!」
レイシュナが叫ぶ。
「ぐっ……!」
ゼルガスはうめきながらも、必死にレイシュナの手を握って走る。
「止まるな!止まれば、本当に殺されるぞ……!」
レイシュナも歯を食いしばり、ゼルガスと共に駆けた。
ヴァルグレムは追ってこなかった。
彼にとって、今のゼルガスとレイシュナは「狩る価値のない獲物」なのだろう。
「……無様なものだな」
冷たくつぶやくヴァルグレムの声が、静寂の城に響いていた。