新たな魔王の誕生──死闘の果てに
二人の戦いは凄まじかった。
ゼルガスの黒炎が氷壁を溶かし、ヴァルグレムの氷剣が大気を凍らせる。
魔力のぶつかり合いにより、城の大半は燃え上がって崩壊し、そのまま凍りついて廃墟と化した。
──そして、戦いの決着は、一瞬の隙で決まった。
ゼルガスの剣がヴァルグレムの肩を貫いた。
「……ぐ……ッ」
ヴァルグレムが膝をつく。
体の至るところが炎により焼かれている。
わずかではあるが、ゼルガスの魔力が勝っている証拠だった。
「フ……フフ……」
しかし、ヴァルグレムは笑っていた。
「やるな、ゼルガス……だが」
その声が、氷の吹雪にかき消される。
ゼルガスは直感する。
(──こいつ、まだ終わってない……!)
次の瞬間、ヴァルグレムの身体から純白の魔力が放たれた。
「貴様にこの王が倒せるとでも……? ならば、最後に見せてやろう……我が《凍獄転生》を!」
ヴァルグレムの肉体が氷の結晶となり、砕け散る。
ゼルガスは目を見開いた。
(……まさか──自滅……!?)
確かにヴァルグレムの魔力が消滅していくのを感じる。
それは封印のような感覚──自らの魔力を氷と化し、眠りにつく呪術。
「……ハッ、死に際まで往生際が悪い奴だ」
ゼルガスは肩で息をしながら、剣を引き抜いた。
ヴァルグレムは確かに敗れた。
だが、ゼルガスには分かっていた。
(……こいつはいずれ復活する)
この世の氷が溶けぬ限り、ヴァルグレムはいつか目を覚ます。
だからこそ──
「俺は、"待っている"ぞ、ゼルガスよ……」
ヴァルグレムの最後の言葉が、氷の風に消えていく。
ゼルガスは、その場に立ち尽くし、静かにつぶやいた。
「……次は完全に葬るさ」
こうして、ヴァルグレムは封印された。
ゼルガスは新たな魔王として世界の均衡を保つために君臨した。
だが、数百年後──
彼の敗北とともに、その封印が解かれることになるとは、誰も予想していなかった。