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歓喜の声——勝者なき祝宴

 人々が歓喜の声をあげ、祝杯を交わしていた。

 報復王ガルツァードが豪胆な笑いとともに酒坏を高く掲げ、朗々とした声で世界を救った勇者を称える。

「偉大なる勇者に栄光あれ! 彼女が世界を救い、新たな時代をもたらしたのだ!」

「栄光あれ!」

「レイシュナに、栄光あれ!」

 ガルツァードの力強い声に呼応するように、人々は歓声をあげ、何度も何度も万歳を繰り返した。

 城の広場に集まった者たちは、まさしく世界の救済を祝うかのように杯を掲げ、互いに笑い合い、歌い、踊る。

 しかし——

 カイゼルは、その光景を苦々しく見つめていた。

 どれだけ祝いの声が響こうと、彼の心は冷えたままだった。

 ゼルガスとレイシュナがヴァルガルムを倒して救った、世界。

 しかし、その彼らの姿はどこにもない。

 世界が救われたという事実に疑いはない。

 それでも、カイゼルにとっては喜びだけが胸に去来するわけではなかった。

「……ここは、俺の居場所じゃねぇな」

 そう呟き、カイゼルは静かに背を向ける。

 喧騒の中から離れ、誰にも気づかれぬように立ち去ろうとした。

 だが、その時——

「おや、竜人とは珍しいな」

 低く、どこか穏やかな声が響いた。

 足を止め、振り返ると、そこには大賢者ズイオウが立っていた。

「あんたは——確かレイシュナの師のズイオウ……だったな」

 カイゼルの言葉に頷き、ズイオウは静かに語り始めた。

「お前がどこへ行こうとしているかは知らんが、まずは話をしようではないか」

「……俺はあいつらみたいに手放しで喜ぶ気にはなれん」

 ズイオウはカイゼルの寂しさに沈んだ横顔を見る。

「なあ、あいつらはどこに行ってしまったんだ?」

「ゼルガスとレイシュナは、この世界にはもういない。しかし——別の世界で生きている可能性がある」

 その言葉に、カイゼルは思わず目を見開いた。

 信じがたい話だったが、なぜか心の奥で納得している自分がいた。

 胸の奥に残るあの二人の気配、それは単なる思い出ではなく、今もどこかで彼らが存在していることを示しているように思えた。

 ズイオウはカイゼルの様子を見て、微笑みながら手をかざした。

 次の瞬間、ふんわりとした優しい香りが辺りに広がる。

 魔法で淹れたばかりの森の月花茶が、カイゼルの目の前に現れた。

「まずは一息つけ。未来はまだ長い」

 促されるまま、カイゼルは湯気の立つ茶杯を手に取り、ゆっくりと口をつけた。

 ほのかな甘みとすっきりとした後味が喉を潤し、戦いの緊張が溶けていく。

「悪くねぇな」

 そう呟くと、カイゼルは茶を一気に飲み干した。

 胸の奥に残るもの、それは悲しみではなく、再会への確信だった。

(また会える——絶対に)

 二人との再会を胸に秘めて、カイゼルは静かに空を見上げた。

 そこには、どこまでも広がる青空があった。

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