温かい世界——長き冬の終わりに
カイゼルはふと目を覚ました。
意識が戻ると同時に、頬を撫でる心地よい風を感じる。
あたたかい。
まるで長い冬が終わり、ようやく春が訪れたかのような穏やかさだった。
ゆっくりと身を起こし、周囲を見渡す。
そこには、かつての氷に閉ざされた世界の面影はなかった。
氷に覆われていたはずの城は跡形もなく消え去り、代わりに広がるのは瑞々しい草原と満開の花々。
小鳥が楽しげにさえずり、小動物たちが生き生きと駆け回っている。
まるで生命が再び息を吹き返したかのような光景に、カイゼルはしばし呆然とした。
「……これは?」
ようやく自分が氷から解放されたこと、そしてヴァルグレムが倒れたことを理解する。
「ゼルガス! レイシュナ!」
歓喜に満ちた声で二人の名を叫ぶ。
しかし、その声に応える者はいなかった。
不安に駆られ、あたりを見回す。
だが、どこにも二人の姿はない。
代わりにあるのは、果てしなく広がる美しい世界。
陽光が降り注ぎ、すべてを温かく包み込んでいる。
カイゼルはぎゅっと拳を握りしめた。
「まさか……」
胸を突き刺す、言いようのない喪失感。
だが、何もかもが終わったわけではない。
ゼルガスとレイシュナが築き上げた、この新しい世界が今、彼の目の前に広がっているのだから。




