氷の勝者——訪れた静寂
ゼルガスの動きが止まった。
彼の体に極寒の魔力がまとわりつく。
次の瞬間——
ゼルガスは完全に凍結した。
ヴァルグレムは微動だにしない。
彼にとって、これは"必然"であり、"当然の結果"だった。
レイシュナ、カイゼル、ゼルガス。
すべてが終わった。
「…………」
当たり前に戦い、当たり前に勝利した。
そこに感慨はない。
これで世界は静寂に包まれる。すべての苦しみから解放される。
すべてが、終わった。
ヴァルグレムは静かに歩を進める。
最後に完成した、宿敵ゼルガスの氷の彫像へと。
——ゼルガスは、燃え盛る炎をそのまま凍らせたかのように、氷の中で静止していた。
戦士の誇りを胸に、最後まで戦う決意をみなぎらせたその姿。
それは、まるで"意志の炎"が宿ったまま凍りついたかのようだった。
(……これが、ゼルガス)
ヴァルグレムは、その顔を見つめる。
苦痛も、憎しみもない。
ただ、まっすぐな眼差し。
「……最後まで、揺るがなかったか」
僅かに呟く。
しかし、それもすぐにどうでもよくなる。
もう関係のないことだ。
ヴァルグレムは踵を返そうとする。
——その時だった。
違和感。
不自然な空白。
ゼルガスの右手が、握っているはずのものを握っていない。
「……!」
ヴァルグレムの視線が鋭くなる。
ゼルガスの業炎の魔剣、《フランベルグ・ヴァルガード》。
——それが、ない。
一瞬の静寂。
そして、ヴァルグレムは悟る。
戦いはまだ"終わってはいない"——!




