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絶対零度の玉座——最終決戦の開幕

 ゼルガス、レイシュナ、カイゼルの三人は、ついに氷葬の覇王が待ち受ける玉座へとたどり着いた。

 そこは、静寂に包まれていた。

 ——音がない。

 凍てつく空間が世界のすべてを支配し、息をするだけで肺が凍りつきそうな冷気が漂う。

 その中心に、ヴァルグレムはいた。

「……来たか」

 蒼氷の鎧に身を包み、玉座に腰掛けたまま、ゼルガスたちを見下ろす。

 その眼差しは、あまりに静かで、あまりに冷たい。

 彼の目には、怒りも、憎しみもない。

 ただそこにあるのは、"確信"。

 この世界を、理想の静寂で満たすという確信だけがあった。

「……試すまでもないが、無駄な足掻きだな」

 次の瞬間、氷の嵐が爆発した。

「ぐっ……!」

 ゼルガスは反射的に剣を構えた。

 しかし、ヴァルグレムの魔力は想像を絶する領域にあった。

 その冷気は、炎のごとき激しさを持ち、竜をも焼き尽くす氷の力。

 カイゼルが真っ先に動いた。

「俺を舐めるなッ!!」

 竜の咆哮とともに、蒼炎のブレスがヴァルグレムに襲いかかる。

 しかし——

 それは届かなかった。

 ヴァルグレムが手を軽く振るっただけで、氷の壁が瞬時に形成され、ブレスを完全に遮断する。

「なっ……」

 その刹那、カイゼルの動きが止まった。

 否、止められたのだ。

 彼の全身が、一瞬にして氷の彫像と化していた。

「カイゼル!!」

 ゼルガスの叫びもむなしく、カイゼルは微動だにしない——。

「貴様ッ……!!」

 ゼルガスが斬りかかるよりも早く、ヴァルグレムは静かにレイシュナを見た。

「君の力は脅威となる。だからこそ、ここで消えよ」

 ヴァルグレムが手をかざした瞬間、空間が凍りついた。

 レイシュナの体が、純白の氷に包まれる。

「えっ……」

 彼女の驚愕の表情が、そのまま凍結する。

 次の瞬間、彼女は氷の檻に囚われたまま、動かなくなった。

「レイシュナァァァ!!」

 ゼルガスの叫びが、空間に虚しく響く。

 ——すべてが、一瞬の出来事だった。

 カイゼルも、レイシュナも、ヴァルグレムの前では無力だった。

 禁忌の秘術を使う暇すらなかった。

 絶望的な実力差。

 ゼルガスは唇を噛み締め、ヴァルグレムを見据える。

(……これが、"氷葬の覇王"の力……か……)

 絶望的なほどの魔力の格の違い。

 あまりの圧倒的な力に、恐怖すら感じる。

 だが——

 それでも、ゼルガスの闘志は消えなかった。


 ——すべては、レイシュナのために。

 彼女を救うために、どんな地獄だろうと踏み越えてみせる。


「……ふざけるなよ」

 静かに剣を構え、ゼルガスはヴァルグレムに睨みを据えた。

「テメェなんかに、何もかも奪わせてたまるか……!!」

 ヴァルグレムの目が細められる。

「ならば、最後の抵抗を見せるがいい。ゼルガス」

 最終決戦の幕が、今、開かれる——!

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