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迫る絶望——そして禁忌の提案

「——ゼルガス!!」

 レイシュナの声が戦場に響く。

 聖剣が発する輝きに包まれたゼルガスは、解放された魔力の波動を感じながら拳を握りしめた。

 全身にかつての力が満ち、体の奥底から湧き上がる感覚が戻ってくる。

「……ククク、甦ったぞ……!」

 紅蓮の炎がその周囲に渦巻き、大気を焼き焦がしていく。

 周囲の氷は瞬く間に溶け去り、再びゼルガスが“魔王”としての力を取り戻したことを証明していた。

 だが——

「……っ!!」

 その瞬間、ゼルガスの表情が険しく歪んだ。

 魔力を取り戻し、過去最高と呼べる状態にまで達することができた。

 しかし、そのことでヴァルグレムとの魔力の差を改めて感じ取ることになってしまった。

 そして、あまりにも圧倒的に差があることを改めて理解してしまったのだ——。

「くそ……! まだこれほどの差があったとは……!」

 一度は彼に立ち向かい、勝利を収めたゼルガス。

 若き彼の魔力はヴァルグレムすらも凌駕していた。

 だが今は違う。

 魔王としての力を完全に取り戻したというのに——それでもなお届かない。

 ゼルガスは、あのときヴァルグレムが早々に抵抗を諦めて自らを封印した理由をようやく理解した。

 ヴァルグレムはゼルガスの全盛期をすぎるまで雌伏して待つという戦略を選んだのだ——と。

「このままでは……勝てない……!」

 力を得たはずなのに、逆に強くなる絶望。

 まるで、深い闇の底へと引きずり込まれるかのような感覚。

 そんなゼルガスを、レイシュナは真剣な眼差しで見つめていた。

「ゼルガス……」

「……なんだ、レイシュナ?」

 ゼルガスはレイシュナに向き直る。

 レイシュナは一度、静かに息を吸い込む。

 そして、まっすぐゼルガスの瞳を見つめ、言った。

「……究極の秘術を使うことができれば、まだ勝機はあるわ」

「……究極の秘術?」

 ゼルガスはレイシュナから出た言葉を思わず聞き返す。

「そう、究極の、時間を操る秘術——それがあれば、ヴァルグレムを倒せるかもしれない」

 その言葉を聞いた瞬間、ゼルガスの瞳が大きく揺らぐ。

「時間を……操る、だと……?」

 カイゼルもまた、レイシュナの言葉に驚きを隠せなかった。

「おいおい……伝説に聞く時間魔法ってやつか? そんな禁忌中の禁忌、使えるはずが……!」

 しかし、レイシュナの表情は揺るがない。

「私は……知っているの」

 彼女の瞳には、深い決意が宿っていた。

「幼い頃、泣いている私に精霊たちがいろんなことを教えてくれた。時間魔法もそのうちの一つ」

 レイシュナは過去を思い出すように遠くを見た。

「もちろん、精霊たちに悪意はなかった。ただ私を慰めたかっただけ。師匠は私に時間魔法は絶対に使ってはいけないって教えてくれたわ」

 レイシュナはゼルガスの瞳を見た。

「ただ、時間魔法で時間の流れを操ることができれば、ヴァルグレムの冷却能力を打ち破ることができる……!」

 ゼルガスは息を呑んだ。

「時間の流れを……?」

「ヴァルグレムの冷気は、精霊たちの動きを止める力。でも、完全に止まっているわけじゃない。精霊はわずかに動いている……時間の進み方を早めて加速させれば、それを熱エネルギーに変換できる」

「……つまり、ヴァルグレムの放つ究極の冷却の中でも熱を生み出すことができるというのか……!」

 ゼルガスの思考が巡る。

 もしそれが可能なら、ヴァルグレムの圧倒的な冷気を打ち破ることも……

 しかし——

「……待て、レイシュナ。それほどの魔法に代償がないはずがない」

 カイゼルの警戒するような声音に、レイシュナは静かに頷く。

「ええ……時間魔法には、危険が伴うわ」

 彼女は聖剣を握りしめる。

 かつてレイシュナは好奇心から時間魔法を一度だけ唱えてみたことがあった。

 魔力が十分でなかったからわずかな間の発動だったが、辺り一帯の地形を変えてしまうほどの莫大な力の暴走が発生。

 師匠がもし暴走を止めてくれなかったらどうなっていたことか——。

 レイシュナはそのことを思い出して肩を震わせながら、言葉を続けた。

「時間の流れを加速させることで精霊の動きを速め、熱エネルギーを生み出す。でも、コントロールが難しいの……。もしスピードが足りなければ、十分な熱を得られず、ヴァルグレムの冷気に負ける。でも——」

 レイシュナの声が一瞬、震えた。

「もし、加速しすぎれば——世界が崩壊する」

「……!」

 ゼルガスとカイゼルの表情が硬直する。

「時間を速めすぎれば、無限のエネルギーが生まれてしまう……。そこで生じる爆発は、この世界そのものを壊してしまうほどのものになるわ」

 ゼルガスは拳を握りしめた。

「そんなもの……まともに扱えるのか?」

「……わからない」

 レイシュナは正直に答えた。

「だからこそ、賭けるしかないの……!」

 静寂が訪れる。

 ゼルガスはレイシュナを見つめた。

 彼女の目には迷いがなかった。

 それは、勇者としての使命なのか。

 それとも——

「……お前は、本当にそれを使うつもりか?」

 レイシュナは迷わず頷いた。

「……ゼルガス、あなたを絶対にヴァルグレムに殺させない」

 その言葉に、ゼルガスは何かを言おうとしたが、言葉が出なかった。

 そして、カイゼルが静かに息を吐いた。

「……ったく、俺の知らねぇところでとんでもない話になってやがるな」

 彼は腕を組み、ニヤリと笑う。

「だが、やるしかねぇんだろ? だったら——俺もとことん付き合うぜ」

 ゼルガスは少しだけ笑い、頷いた。

「……フン、ここまで来たんだ。今さら引く気はないさ」

 レイシュナの表情が引き締まる。

「じゃあ——行きましょう。ヴァルグレムを倒すために!」

 三人は前を向いた。

 最終決戦の幕が、今まさに切って落とされようとしていた——!

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