解放されし魔の力——復活の時
「……レイシュナ」
氷葬の騎士を討ち果たし、束の間の静寂が訪れた戦場で、ゼルガスがふと口を開いた。
「どうやって俺たちの居場所がわかった?」
彼の問いに、レイシュナは少し微笑みながら答える。
「精霊の声を聞いたの」
ゼルガスが驚いたように眉を上げる。
「精霊の……声?」
「ええ。精霊たちが騒いでいたわ。この場所で、とても大きな力がぶつかり合っているって。あなたたちがここで戦っていることを、精霊たちが教えてくれたのよ」
「……なるほどな」
ゼルガスは納得したように頷く。
彼女が精霊の声を聞くことができるのは知っていたが、ここまで正確に察知できるとは思っていなかった。
レイシュナはふとゼルガスの隣に立つ大柄な男へと視線を向ける。
「ゼルガス、この人は?」
「カイゼル。俺の旧友だ」
「ほう、これがゼルガスの言っていた勇者か」
カイゼルが興味深そうにレイシュナを見下ろす。
その鋭い竜の瞳が彼女を射抜いた。
(初めて見る……竜人……!)
レイシュナは息を呑む。
カイゼルの肉体から滲み出る威圧感は、ただの戦士ではないことを物語っていた。
その肌に刻まれた鱗、鋭く尖った爪、そして内に秘められた強大な力——彼の存在そのものが、並の戦士とは一線を画していた。
「ふん、驚くのも無理はないか」
カイゼルは軽く肩をすくめる。
「お前の力もすごかったが、俺もまだ本気を出しちゃいないぜ?」
「そ、そうなの……?」
レイシュナは思わずごくりと唾を飲み込んだ。
そんな二人のやり取りを聞きながら、ゼルガスは静かに言葉を紡ぐ。
「……レイシュナ、お前に伝えなきゃならないことがある」
「?」
「お前の持っている聖剣——その中には、俺の魔力が封じられている」
「えっ……!?」
レイシュナは驚愕した。
「聖剣に……ゼルガスの魔力が?」
「覚えているか? お前と俺が戦ったときのことを」
レイシュナの脳裏に、あの日の戦いの記憶が鮮やかに蘇る。
魔王ゼルガスとの死闘。
そして——
「……そうか……あの時……!」
レイシュナは思わず聖剣を握りしめた。
「俺の魔力は、お前が俺を貫いたときに聖剣が吸収していたというわけだ」
ゼルガスの声は淡々としていたが、その奥には確かな真実が宿っていた。
レイシュナは聖剣を見つめる。
確かに、この剣は彼女が勇者として手にして以来、常に彼女の力の源となってきた。
しかし、そこにゼルガスの魔力が宿っていたとは——
「私が……解放すればいいのね?」
ゼルガスは静かに頷いた。
「頼む」
レイシュナは聖剣を両手で握りしめ、深く息を吸う。
そして、心の奥底に呼びかけるように祈りを捧げた。
「——解放せよ、封じられし力よ!」
ゴォォォォォォォッ!!!
聖剣がまばゆい光を放ち、辺りを神聖な輝きが包み込む。
その光の中心で、ゼルガスの体が揺れた。
「ぐっ……!!」
彼の中に眠っていた魔力が、解き放たれていく——。
炎のように熱く、しかしどこか冷徹な魔力。
かつて魔王として君臨していた男の力が、今まさに蘇ろうとしていた——!




