精霊たちのざわめき——愛弟子の巣立ち
ズイオウは、弟子の背中を静かに見送った。
レイシュナはしっかりと前を向き、確かな足取りで歩き去っていく。
その姿に、ズイオウは誇らしさと共に、言いようのない不安を覚えていた。
彼女が去った後も、精霊たちのざわめきは収まらない。
——むしろ、先ほどよりも強くなっているようにすら感じられた。
風は不穏に唸り、木々がかすかに軋む。
そのすべてが、世界に迫る異変を告げていた。
(ヴァルグレムの力が、世界を覆わんとしている……)
ズイオウは静かに目を閉じる。
精霊たちは敏感だ。
レイシュナがここに来る前から、彼らは落ち着きを失っていた。
ヴァルグレムの力が日に日に強まり、この世界の均衡が崩れかけている証拠だった。
そして——レイシュナは、その渦中にいる。
ズイオウはそっと掌を開き、かつて弟子に授けた"禁忌"の魔法の存在を思い出した。
それは、彼女がまだ未熟だった頃、決して使ってはならないと告げた究極の秘術——。
(……いずれ、使う時が来るかもしれぬな)
それは、世界を救う力であると同時に、彼女自身をも蝕むかもしれない危険な術。
「……無事であれ、レイシュナよ」
ズイオウは杖を握りしめ、空を仰いだ。
弟子の無事を祈ることしかできない己の無力さを噛み締めながら——。




