新たな目的——ヴァルグレムを討つには
「師匠……もう一つ、相談したいことがあります」
レイシュナは、膝の上で聖剣を握りしめながら言った。
その瞳には、迷いとは別の切実な想いが宿っている。
「ヴァルグレムは……どうすれば倒せるのでしょうか……?」
ズイオウは静かに目を閉じ、しばし考えた。
ヴァルグレム——「氷葬の覇王」とまで呼ばれる存在。
その力はあまりにも圧倒的で、人類の常識を超えている。
ズイオウはそっと首を横に振った。
「……わしにもそれは分からん」
大賢者とされる彼ですら、ヴァルグレムを討つ術を知らないとは。
レイシュナは仇敵の巨大さを改めて感じて思わず目をふせる。
「——だが」
ズイオウはゆっくりと目を開き、レイシュナを見据えた。
「魔王の力を持ち、かつてヴァルグレムを打ち破った者ならば、何かを知っているやもしれぬ」
レイシュナは、はっと顔を上げた。
その言葉の意味するところに気づいたのだ。
「……ゼルガス?」
ズイオウは深くうなずいた。
「そうだ。ゼルガスはかつてヴァルグレムと戦って奴を封じ、一度は勝利を収めている。——お主の力になってくれるだろう」
魔王ゼルガス——「焦熱の征服者」とまで呼ばれた存在。
かつて人間と敵対していた彼だったが、現在はこの世界の命運に関わる重要な鍵となるかもしれない。
レイシュナは複雑な表情を浮かべた。
「でも……彼になんと伝えれば……」
「それを考えることもまた、お主の旅の一部となろう」
ズイオウは静かに微笑んだ。
その言葉に、レイシュナは自らの使命の重さを再認識する。
——ヴァルグレムを討つためには、人間の力だけでは足りないのだ。
「精霊と人間と魔族……それぞれが力を合わせることが必要になる、ということですね?」
ズイオウは愛弟子が答えを導き出したことを知り、静かに微笑んだ。
「うむ。世界の均衡を崩しているのがヴァルグレムであるならば、それを正すには、この世界に生きるすべての力が必要なのだ」
ズイオウの言葉は重く、どこまでも温かかった。
レイシュナは湯呑みを置き、決意を新たにしたように立ち上がる。
「……ありがとうございます、師匠。私、ゼルガスに会いに行きます」
ズイオウは穏やか声でレイシュナに告げた。
「行くがよい、レイシュナ。お主の旅路に、精霊の加護があらんことを」
レイシュナは一礼し、大賢者のもとを後にした。
新たな目的を胸に抱きながら。




