報復王ガルツァードとの謁見——勇者の使命
王都の中心にそびえ立つ黒曜石の城。
その巨大な扉をくぐると、荘厳な玉座の間が広がっていた。
厳めしい鎧に身を包み、玉座に君臨するのは——報復王=ガルツァード。
彼は長年の戦で数え切れぬ敵を討ち、その鉄血の統治で民を守り続けた王だった。
戦場では鬼神のごとく剣を振るい、敵対する者には容赦なく報いを与える。
レイシュナがひざまずくと、ガルツァードは冷たい目で彼女を見下ろした。
「——勇者レイシュナよ。貴様が命じられた使命は何だった?」
「……魔王ゼルガスの討伐、です」
レイシュナはまっすぐ王を見上げた。
「ゼルガスは私が討ちました。ですが——」
「だが?」
王の声が鋭くなる。
レイシュナは拳を握りしめ、言葉を選ぶようにゆっくりと告げた。
「新たな魔王、ヴァルグレムが復活しました」
一瞬、玉座の間の空気が凍りついた。
「……ふざけるな」
低く絞り出すような声。
「魔王を倒したと報告に来たと思えば、新たな魔王が現れたと? つまり貴様の戦いは、まだ何も終わっていないということではないか?」
レイシュナは歯を食いしばった。
「ヴァルグレムはゼルガスがいたからこそ封じられていました。しかし彼が力を失ったことで、奴が目を覚ましてしまったのです」
ガルツァードは静かに立ち上がると、近づいてきた。
その足音は重く、威圧感があった。
「では聞こう、勇者よ。貴様はヴァルグレムを討つ覚悟があるのか?」
レイシュナは答えられなかった。
彼女は聖剣に選ばれし勇者だ。
人々のために戦うことが使命であり、その覚悟もある。
だが——今の彼女は、ゼルガスと共に戦った記憶が頭から離れなかった。
ゼルガスと共闘し、彼を癒やし、彼の想いを聞いた。
今のゼルガスは、かつての「魔王」ではない。
それでも——彼は魔王だった。
魔王と関わることは、勇者としてあってはならないこと。
だが、ヴァルグレムを討つためには——ゼルガスの力が必要だ。
「……迷っているのか?」
ガルツァードの鋭い眼光がレイシュナを射抜いた。
「勇者の使命とは何か、忘れたわけではあるまい?」
レイシュナは息をのんだ。
自分だけがすべてを投げ打たねばならない現実。
その重みを、改めて突きつけられる。
「……次の魔王討伐も、お前に託す。貴様がやるしかないのだ」
ガルツァードの声が、容赦なく降り注いだ。




