表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/30

魔王討伐──そして全ての始まり

 閃光が王座の間を照らした。

 勇者レイシュナの持つ聖剣が、ついに魔王ゼルガスの胸を貫いたのだ。

 大きく肩で息をするレイシュナ。

 魔王は愕然としながら、ゆっくりと膝をつく。

「ば、馬鹿な……この私が……?」

 ゼルガスは信じられないという表情で、自分の胸に刺さった剣を見下ろす。

 黒き甲冑が砕け、紫の血が流れ出ていた。

「これで終わりよ、魔王ゼルガス」

「……クク……そうか、これで……」

 ゼルガスは苦しげに息を吐き、顔を上げた。

 目の前には、勝利の余韻に浸る勇者レイシュナの姿があった。

 黄金の髪が戦いの熱気に揺れ、青い瞳は誇り高く輝いている。


 ──なんという美しさだろう。


 ゼルガスの心に、これまで感じたことのない感情が芽生えた。

 胸が痛いのは剣のせいか、それとも……。

(……いや、まさか)

 魔王ゼルガスは生まれて初めて知った。


 これが……「恋」というものか。


 ふいに、ゼルガスの視界が揺らぐ。

 ゼルガスは遂にひざまずいた。

 しかし、勇者の聖剣に貫かれた痛みは全身を襲うはずなのに、不思議とそれを意識することはなかった。

 それよりも、目の前の彼女──レイシュナの姿に、ただ見惚れていた。

 逆巻く黄金の髪と、額に浮かぶ汗が月光にきらめく。

 荒い息を整えながらも、剣を構える姿はまさに戦乙女と呼べる。

 決して諦めない強さをその瞳に宿し、彼女は最後まで──自分を倒すことを諦めなかった。

(なるほど……この強さこその美しさ──というわけか……)

 ゼルガスは今まで、勇者という存在をただの人間、ただの敵としてしか見ていなかった。

 人間の代表たる勇者が自分を倒そうとするのは、魔王である自分の運命の流れにすぎないと。


 だが、彼女は違った。

 恐れることなく、迷うことなく、まっすぐに自分に向かってきた。

 血と汗に塗れながらも、折れることのない意志の剣を振るい続けた。

 その姿は、まるで──


(まるで、戦場に咲く一輪の花のようだ……)


 ゼルガスは、自分の中に生まれた新たな感情に驚愕する。

 この期に及んで、敵である勇者に心を奪われるなど……あり得ない。

 だが、それでも目が離せない。

 剣を構える彼女の姿が、どうしようもなく愛おしく思えたのだ。

「……フッ……」

 ゼルガスは、思わず笑みをこぼす。

 血の匂いが立ち込める戦場で、自分は何を考えているのか――?

 それが急に滑稽に思えたのだ。

「……何がおかしい?」

 レイシュナがいぶかしげに問いただす。

 そんな仕草すらも、今のゼルガスには美しく映った。

「いや……」

 魔王は苦しげに笑いながら、彼女を見つめた。

「……勇者よ、お前は……本当に、見事だ……」

 そして、息を吐きながら呟く。

「……私は、お前に恋をした」

 レイシュナの瞳が見開かれる。

 その反応が可愛らしくて、ゼルガスはまた、苦笑した。


 ──こうなったら、もはや生き延びるしかあるまい。

 この恋の行方を知るために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ