6.
「参った参った、メアリーさんってば本当によく泣くよね」
二人と話したその日の終わり。
いつでも寝られるように夜着に着替えた私は、宿屋にとってもらった一人部屋のソファに座って、対面に座る一人の女性と話していた。
「とても優しい人ですよね。まるで自分のことのように涙を流して」
『彼女はとても心の美しい女性です。時代が違えば彼女が聖女として選ばれていてもおかしくありませんでした』
わずかに光を放ったその女性は、女神ベリアルラーテ様だ。
床に着くほどの長くて美しい銀の髪と、慈愛に満ちた深い紫の瞳の女神様は、教会で飾られている像の何倍も綺麗な方だった。
彼女とは、何度かこうして会っている。主に私が呼びかけて、それに応じてくれてる形だ。
私が目の前に姿があった方が話しやすいって言ったら、こうして姿を見せてくれるようになった。
女神様はにこりと微笑むと、地上のどんな楽器よりも澄んだ、これまた美しい声で言った。
『しかし今回のような事案には、優しさよりも、あなたのような復讐心を宿した強い心の持ち主が適任でした。自信をお持ちなさい。あなたは間違いなく、私の選んだ聖女です』
「自信はまあ、それなりにはありますけどね」
村での修行中、一回目に女神様を呼び出した時、もしも、もっと早く女神様によって聖女が遣わされていたら、私の家族は死ななかったかもしれないのかなぁと何気に口に出してしまったけど、神々の世界の理によって今のこの時にしか遣わせなかったと、申し訳なさそうに謝られた。
女神様のせいじゃない。悪いのは全てあいつらなのだから。
『まさかあの方の子孫がこのような愚かな行いをするとは』
「仕方ないですって。建国時から何年経ってると思ってるんですか? 初代の血なんて入ってるか入ってないか分からないくらいに薄まってますよ。だから今残ってる王族はカスどころか屑ばっかりで……ああでも、第二王子のルーカス殿下はあの王族の中にいたって思えないほどにまともらしいですね。女神様的にはどうなんです? ルーカス殿下に次の国王になってほしいですか? ならそういう風に調整しますけど。まあ、国王なんて、まがい物じゃなくそういった人がやるべきだし」
すると彼女はなぜか腰をくねくねさせ、手を頬に当てぽっと顔を赤らめたではないか。
『うふふ、叶うことなら、でしょうか。実は彼、ギルバートに生き写しのように、よく似ているんですのよ』
「……え、もしかして顔だけで選びました?」
『も、勿論、人柄も能力も問題ありません。確かに始めは苦労するかもしれませんが、彼には支えてくれる家臣がたくさんおります。ですから心配しておりません。彼ならばきっと、この国をより良き方向へ導いてくれることでしょう』
「それならいいんですけど」
なんせ建国時からこの国を見守るほどにギルバート様好きだもんな。万が一見た目で選んでたとしても、まあ仕方ないかなと思える。
それに建国時の国王と瓜二つっていうのは、国民にとってはモチベーションがさぞかし上がることだろう。現にそれもあってか人気あるみたいだし。
「というか女神様、ぶっちゃけそのルーカス殿下に王位を継がせるために私を聖女にした感じですか? っていうか絶対にそうですよね。ま、私としてはあいつらに鉄槌を下せればいいんで、それに従いますよ」
女神様は答えず静かに微笑んだだけだけど、多分そうなんだろう。
と、そこまで喋ったらなんとなく瞼が重くなってきた。
『アリア、今日は疲れたでしょう。もうおやすみなさい』
「そうします。それじゃあまた」
『あなたに加護があらんことを』
「それを授けるのは女神様でしょう? 吉報を期待しててくださいね。必ずあなたの国は、あなたの愛した国へと戻してみせますから」
そう答えると、女神様は嬉しそうな微笑みを浮かべながら姿を消した。